Remember-23 茶会問答/迷いこんで謁見

「――臨時につき失礼します! 国王陛下! 先ほどの変な雄叫びは……!?」


 ……流石は最重要施設。あれからほんの少し後、やや強引に部屋の扉が押し開かれて騎士兵が飛び込むように入ってきた。

 全身を鎧で固めてはいるが、外や謁見の間で会った時とは違って兜は被っていない。だから顔とかは容易に分かるのだが……流石にどこの誰だとかは分からない。


「雄叫び……? 一体何の話だ。それは幻聴とかではないのか?」

「いえ、私が水を汲みに近くを通りかかった時、確かに国王陛下の部屋から――」

「ザーネットよ、だったらそれは俺の声だ。ほら、あくびしながら声を出すと変な声が出るだろう?」

「ガーネットです、国王陛下。声色も国王陛下のお声ではなかったので、何者かが侵入したのかと思ったのですが……」


 国王は両手のひらを軽く挙げて、“なんのことやら”と言いたげな仕草をする。

 言葉こそ国王とその兵士のような厳格なものだが、雰囲気は穏やかなものを感じる。内容が内容だから緊迫感があるが、どこかアットホームな雰囲気だ。


「なに、そこまで緊迫する必要もないだろう。俺もこうして何ともないだろう?」

「しかし……つい先ほど反ギルド団体の事件がありましたので、そう楽観視する訳には――」

「ダーネット、大丈夫だ。少なくとも私の所には何もない」

「いえ……ガーネットです……国王陛下がご無事でなによりですが、今夜はシャーリィ様もいらっしゃいます。警戒するに越したことはないかと」


 シャーリィ。その単語で思わず体が動いてしまう。

 ……が、なんとか動かずに済んだ。地面につけている手のひらを


「? 国王陛下、今机を蹴りました? 物音が――」

「バーネット、今警備を行っている騎士兵は何人だ? 起きている騎士兵を外の警備に向かわせてくれ。城の周りをグルリと回ってさ、何もなければ休憩を挟んで城内の警備を再開してくれ。体を冷やさないようにな」

「……はい、了解しました。待機中の第二騎士兵に声をかけてまいります……ガーネットです」


 ……なんか色々とかわいそうな扱いだったが、騎士兵は礼をすると国王の部屋を立ち去った(その途中、小さく精一杯の訂正の声が聞こえた)。

 バタン、と扉が閉じて少し経ってから、俺は国王の机の下から体を出した。


「ガーネットだったか。異変を察知して、なおかつ身上の者の部屋に飛び込む勇気は良いものだな。評価として加点しておくか……あ、ユウマ君。申し訳ないが、そこの椅子を使ってくれ。来客用の椅子が無くてすまないね」

「…………」


 国王の言う通り、机の下からモゾモゾと出て小さな椅子にちょこんと座る。

 お尻が凄いモコモコする。羊でも詰まっているのかってぐらい、クッションからモコモコな反発を感じる。


「これでよし……いやぁ、まさか窓から入ってくるとは思わなかったよ。ここって五階だったよな――うわっ、この高さから入って来たのかい……!?」

「…………」


 窓から下を覗き込んでのんきなことを呟いている国王をぼんやりと眺める。

 国王に見つかり、連れて行かれて牢屋に――なんてことはなく、ベッドの素材を貼り付けたみたいにフカフカした椅子に座って国王とご対面している。

 というか俺は一体ここで何をしているのだろうか……何で国王とご対面しているのだろうか……ええっと何でだっけ――


『ユウマ、ユウマ! しっかりしてくれ!』

「…………ハッ!?」

「お、正気に戻った」


 ベルから小声の声援を貰って、こんがらがっていた頭は正気に戻り、ガチガチだった体の緊張は解けた。

 いや、それでも頭はこんがらがってぐっちゃぐちゃ。当事者なのに現状に至った訳が理解できない。


「え、えっとその……すみませんでしたッ!」


 椅子に座ったまま勢い良く頭を下げる。

 自分がシャーリィを助けるために動いたことは間違っていないと断言できる。だけど、こうして国王に迷惑をかけてしまったのは申し訳ない――っていうか、椅子がフカフカしてて反省している感がこれっぽっちもないぞ!


「いいや、気にしていないから頭を下げないでおくれ」

「…………はい、あと遅れましたがこんばんは」

『……何故今に挨拶?』


 国王には聞こえない程度の声でベルがそんな指摘をしてきたが気にしない。ベルとは違って今の俺は常に焦っているのだ。よく分からない行動の一つや二つは取るだろうさ。


「それでユウマ君は何用かな? シャーリィの事で来たのかい?」

「……はい。シャーリィは俺のことを拒みましたけど、それでも俺は、彼女に辛いことを背負わせるのは――」

「ん? ちょっと待ってくれ、ユウマ君はシャーリィに何と言われたんだい?」


 ……? そこで話の節を折られるとは思わなかった。何を疑問に思ったのか、国王は首をかしげてそう問いかけてきた。


「え? えっと、色々話したんですけど……縁を切りましょう、とかそんなことを」

「…………はぁ」


 俺の返答を聞いて国王は小さく困ったようなため息を吐き出す。

 もしかして変なことを言ってしまったのだろうか――などと心配する間もなく、国王はどこか申し訳なさそうな表情を浮かべて口を開く。


「ユウマ君、どうやら謝るのはこちら側だったみたいだ」

「それは……どういう意味ですか?」

「謁見の間で話した時、俺はユウマ君に席を外して貰うようにお願いしたが……そうするべきではなかったみたいだ。君に聞いて欲しい話がある」


 固唾を飲む。

 改めて聞いて欲しい、だなんて言われると緊張してしまうが、きっとシャーリィに関わる重要な話だ。心して俺は挑むように話を聞くことにした。


「実を言うと、明日の日没頃に大きな作戦がある。反ギルド団体と呼ばれている組織だが、その組織の鎮圧を図る作戦だ」


 国王が打ち明かした話は、ギルドマスターから受け取った紙に書いてあるらしい内容と一致している。

 ある程度は既に把握済みなので頷いて話の続きを聞く。というかギルドマスターも国王も、機密内容を口外し過ぎじゃないか? 国王は依頼主なので問題ないとも言えるが。


「今まではそれに伴うリスクを考えて、作戦は保留のまま実行には移せなかったのだが……今晩の件で、早急に作戦を実行する必要があると結論づけた」

「今晩の件って……ギルドマスターが狙われた事ですか?」

「そうだ。今までの反ギルド団体の攻撃は輸送業への被害のみで、ここまで大がかりな動きを見せることは無かったのだが……こうなった以上、いつまでも後手に回っていると今回以上の重大な損害を受ける可能性が高い」


 どうやら反ギルド団体が本当にギルドを攻撃するのは今回が初の事例だったらしい。国王の深刻そうな表情から、敵対組織が初めて見せる動きに動揺し、焦りを感じている事が読み取れる。


「それと、君があの男を生きたまま確保してくれたおかげで判明した事実が幾つかある。どうやらあの男は痛みを感じない体になっている。だが、これは生まれた時からそうだったのではなく、後天的に感じなくなったらしい」


 ……どうやら、あの時三階から叩き落した男は生きているらしい。今後の対応がどうなるかは分からないが、その事実だけでちょっとだけと安心できた。


「痛みを正しく認識できない。正しい感情で表せられない。そういった症状の原因は頭の中にあるとか――いや、話を戻そう。原理は不明だが、そのような技術――人間を改造し、痛覚を感じない強靱な戦力にする手段が反ギルド団体には存在する。そして恐らくだが、これには魔法、あるいは魔術が関わっている可能性が高い」

「! 魔法が存在するって信じているんですか……!?」

「ん? 信じるも何も、私の娘も妻も魔法使いだからな。実際にこの目で見ているさ。それに君だって転生使いだろう」


 俺の問いに対して、国王はさも当然のことのように答えた。

 いや、彼の言っていることはどこもおかしくはない。身内が魔法使いなのに魔法を知らない、おとぎ話の存在だと言う方がおかしいのである。

 ……逆に、コーヒーハウスでの反応――魔法を冗談やおとぎ話の中の物だと認識していた人々。過去に魔法が存在していたらしいのに、それを忘れている、或いは知らない彼らの方が異常な反応なのだ。

 この違いは……何だ? 国王もそうだがギルドの人達も、反ギルド団体のあの大男までも魔法の存在を認知している。一般人と彼らの違いは一体どこにあるのだろうか。


 何か、大きな何か核心に近づきつつある気がする、が。それは今話している本題から逸れたものだ。それは一先ず、脳の片隅に置いておくことにしよう。


「反ギルド団体が魔法や魔術に関わっている以上、放置する訳にはいかない。それも作戦を実行することにした理由だが……だからこそ、シャーリィを戦わせるのは不安に思っていた。だからユウマ君の活躍を聞いて、もしも君が力を貸してもらえるのなら、協力して頂きたいと思っていた……いやぁ、その考えを伝えた時のシャーリィは中々怖かったぞ」


 最後の一言は、笑顔じゃなくて苦虫を噛み潰したような顔だった。どうやら本当に怖かったらしい。御愁傷様です。まあ、謁見の間でも巻き込むなと釘を刺していたのだから、そんなことを言えば彼女も怒るだろう。


「……で、その件をユウマ君に伝えるようにシャーリィに伝言を頼んだ。今は上品に振舞っている場合じゃない、協力して貰えるのなら縋りついてでも彼に力になって貰うべきだ――と。そう彼女に説得したのだが……」

「……実際にはそんな話はされていません」

「ああ。俺が直接言うと身分とか立場上、ユウマ君に変に威圧を与えるんじゃないかと思っての配慮だったが……まさか、シャーリィがそんな行動に出るとは思わなかった。俺の知っている限りでは、あの子がこのような嘘をついたことがなかったからな……」


 そう言いながら、国王は何やら紙に文字を素早く書き込み始める。羽ペンの切っ先が紙の上を走る音がしばらく続いたかと思うと、その紙を半分に折り畳んだ。どうやらもう書き終えたらしい。

 ……確かに、あの場で国王から協力して欲しい、なんて直接言われたら雰囲気的に断りにくかっただろう。


 そして、嘘をついたことがない、か。思い返せば、確かにシャーリィは自分に都合の悪いことを尋ねられた時は答えず黙り込んだりはしたが、その場限りの嘘をついたことはなかった……気がする。


「……私に執着する必要なんてない。そうあの子は言ってた……でも逆じゃないか。どうして……どうしてそこまで必死になって俺を守ろうとしているんだ」

「…………」


 静寂。

 聞こえるのは俺がズボンを握りしめる音と、無意識に漏れ出た呼気。そして、たった今決意を固めて吸い込んだ自分の呼吸だけだ。


「……国王様。その作戦についての話なんですが、俺も飛び入りで協力することはできますか」

「…………何?」


 大きな判子で紙に印を押そうとした国王の手が、俺の発言を聞いた瞬間にピタリ、と宙で止まる。


「彼女が辛い思いをしているのなら、力になりたい。俺がシャーリィに出来ることがあるのなら、やり遂げたいです」

「……協力して頂けるのはこの上なくありがたいが、本当に良いのかい? ユウマ君は戦いに参加したくないのではなかったのか?」

「あれは……シャーリィが決めたことであって、俺自身は何とも思っていませんから。ただ、その代わりにお願いしたいのですが」

「お願い……? なにかな?」

「……俺、シャーリィに会いたいです。彼女と話がしたいんです」


 だから、シャーリィの居る場所を教えて欲しい。そう俺は国王に願い出た。国王は驚いた顔をしていたが、すぐに柔らかな表情に戻った。


「……少しだけ、待って貰えないかな。ちょっと用意したい物がある」

「はい、大丈夫です」

「すまないな。それと、用意が終わるまで私の話に少し付き合ってもらえないか」


 またしても羽ペンを握って何かを書き始める国王に俺は頷いて答えた。


「……シャーリィから聞いたのだが、ユウマ君は記憶喪失なんだって?」

「そうみたいです。気がついたら、あのスモッグとかいう変な場所に――」

「スモッグ? ……ああ、異世界のことか」

「えっと、異世界? スモッグじゃなくてですか?」

「む……なるほど、それすら彼女から聞かさせれていないのか……まあ、異世界とスモッグは同じ物を指していると覚えておいてくれ」


 ペンが線を描く音と共に、国王は優しく教えてくれた。異世界……謁見の間で聞いた単語だったが、スモッグのことだったのか。

 ……いや、だとすると何か違和感を感じる。なんで“スモッグ”と“異世界”をわざわざ使い分けているんだ……?


「俺が倒れていたのはこの王国から馬車でしばらく進んだ場所で……シャーリィは山の麓? とか言ってましたが」

「ああ、ここから一番近くの異世界か。しかし、どうしてそんな所に……いや、すまない。そんなこと、ユウマ君が一番知りたい話だったな」


 無礼な発言だった、と国王は謝りながらもペンを走らせる。さっきから何を書いているんだろう? 用意とは言っていたものの、何の用意かも分かっていないのだ。

 ……まあ、文字が読めない俺にとっては知りようのないことだ。国王のその用意とやらが終わるのをのんびりと待っていよう。


「……ちょっと聞かせてくれないか? 君にとってシャーリィはどんな人物に見えた? 優しい性格だったかい。それとも、お転婆で自分勝手な性格だったかい」

「どう見えた、ですか……」


 うぬぬ、これはまた難しい質問をしてくれる。アイツはあんな性格だなー、とかそういう印象は頭の中で固まっているけど、それを尋ねられて答えるのはまた別だ。

 例えるならメモ書きと清書ぐらいに差がある。箇条書きに浮かぶシャーリィの印象を一つの台詞にまとめるのは少し難しい。


「……お人好し、でしたね。別に気にしていない、貴方のことはどうでも良い、なんて言っておきながらついつい人を助けてしまうような、そんな冷たい人の皮を被った優しい女の子って印象でした」

「ははは、確かにシャーリィは何かと世話を焼こうとする」

「それで、他人の苦労を背負おうとしたりしますね。自己犠牲、でしょうか。考えていることは合理的なことばっかりなのに、その選択肢を捨てて自分が損をする選択を選びがちで……」

「……確かに。変わっているよな、あの子は」


 国王の表情は窺えなかったが、きっと柔らかい笑みを浮かべながらペンを走らせているだろう。


「彼女は、私の妻に良く似ている。私の灰色なんかよりもずっと綺麗な銀髪も、周りの事を何よりも大切にし、慈しむその性格も……」

「娘自慢……?」

「ふふっ。ああ、そうだ。自分の子供の素晴らしさを自慢できることも、家族を持つ者の幸せの一つだよ――そして、彼女もまた、妻のように魔法使いだということもそっくりだ」

「…………」


 カラン、と国王の手にしていた羽ペンの切っ先が小瓶のインクに沈む。文は書き終えたみたいだが、国王の話は続く。俺も今の話には興味があったりするので、特に何も言わなかった。


「私の妻が亡くなった後も、シャーリィはどうやったのかあの手この手で魔法を調べ上げ、魔法が使いこなせるようになってしまった」

「……なってしまった? まるで悪いことのような言い方ですけど」

「ああ……彼女に魔法が無ければ、きっと何も知らない幸せな子供のままで居られたのだろう。私の妻は魔法使いだった……病弱で、今はもう亡くなっている。そんな彼女の娘だから、シャーリィも魔法使いとしての才能があることは察していた……だから俺は、娘と魔法を切り離そうとした」


 語りかけるというよりは、取り返しようのない過去の失敗を振り返るような感傷的な声。俺にはとても、かける声が見つからなかった。


「まあ、結局それは失敗した……いや、その行い自体が失敗だったかもしれない。亡くなった妻のことを知りたいと思ったあの子は、母親が魔法使いだと知って、自分にも素質があることを悟り……俺に隠れて魔法を身につけたあの子は、やはりというか危惧していた通りと言うべきか、必要の無い責任感までも抱え込んでしまった」

「必要の無い責任感……」

「魔法使い――いや、転生使いにしかできないこと。他の人間にはできない転生使いだけができることを知った彼女は、“それ”を全うすることを――自分の命を捧げることを、自身の存在意義だと思ってしまっている」


 シャーリィの思う“存在意義”。転生使いの才能を生まれ持ったから抱え込んでしまった責任。

 国王が呟いた言葉の意味を尋ねるよりも先に、彼は席を立ち上がって、手紙を片手にこちらへ歩いてくる。


「……俺に魔法の才能はなく、あの子が抱えている事の重大さを全て理解している訳ではない。そんな俺にあの子を止める権利は無い。数え切れない程の危険な行動も、彼女の責任感と信念から行っている……それを俺なんかが強引に止めてしまえば、あの子の全てを否定するようなものだ」

「…………」

「ギルドマスターは事の重大さについて理解しているみたいだが、俺には話してくれなかった。ただ、「シャーリィはまだあのままで良い。我々にできることは彼女を見守りつつ、手助けすることだ」、と。だから我々はあの子のサポートとして立ち回っていた」


 シャーリィが国王の娘だと知り、城を飛び出して外を自由に出歩いていると聞いて、何度か疑問に思っていた。国王も騎士兵もギルドマスターも、関係者はどうして彼女を止めないのか。

 彼女はこの国の最重要人物の一人だ。それを除外しても、親である国王がシャーリィを放置しているという、親としての無責任さに対して決して少なくない怒りを勝手ながら感じたこともあった。

 その答えが、彼女を傷つけずに止める手段が無いからだった。彼女の心を否定せず止める方法が無いが故に、国王とギルド関係者は彼女をサポートするような立ち回りを選んだのだろう。


「私は、国を治める王には成れても、ただの親には成れなかった。魔法が存在するから、あの子が魔法の才能を生まれ持ってしまったから。そうやって“偶然”というものを何度も恨んだことがあったが……単に、私に親になる才能が無かっただけだった」


 無関心のように思えた対応の裏側。

 そこには、シャーリィを想うが故の葛藤と苦悩。そこから導き出した、親として精一杯の……なんだろう、“感情”といえる代物があった。


「ッ、自身をそんなに否定する必要は――」

「ユウマ君、良いんだ。私は良い。その代わりに、君が彼女を肯定してあげてくれ……彼女の部屋は四階の東、バルコニーのある廊下の突き当たりだ。ここは五階だから、すぐ近くの階段から降りればそう遠くないだろう」


 思わず口から出てきた言葉を遮るように、国王は俺の胸元に手紙を二枚優しく突き出した。


「あの子と何を話しても、なんだったら作戦の事なんて忘れてこの国から逃げ出しても構わない。我が国には騎士兵隊が居るからな……彼女が居なくても、きっと反ギルド団体を鎮圧することは可能だろう。その代わり、彼女にこの手紙を渡してくれないか」

「……分かりました」


 手紙をポケットに入れて、さっき口にしようとした言葉もしまい込んで席を立つ。突然部屋に飛び込んでしまって申し訳ないが、今は一刻も早くシャーリィに会いたい。

 席を立った直後に小走りで部屋を後にする――その前に、これだけは伝えようと思って振り返る。


「……シャーリィのことをどう思えたかって質問でうっかり挙げ忘れてました。彼女の緑色の瞳、そしてよく浮かべる笑みも、俺はとても綺麗で素敵だと思っています」

「…………そうか。ほら、早くお行き」


 国王は静かに笑みを浮かべて優しく答える。

 彼女によく似た緑色の瞳は深く閉ざされていて見ることは出来なかったが、彼の表情は嬉しそうに見えた。

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