Remember-08 決意と行動/失言はパン二個分

 ……あれから暫く経った。

 山の上で燃えていた太陽は山の向こう側へ沈んでしまっていて、ほんの少し前まで青藍色に染まりつつあった空模様は、今度は黒に染まろうとしていた。


「……ん」

『? どうかしたのか』

「……シャーリィかな。足音が扉の前で止まった気がする」


 部屋に置いてあった日用品を取り扱う練習をしながらベルと他愛のない雑談をのんびりとしていると、廊下の方から軽い足音が聞こえた気がした。

 足音でその人の体格とかが分かるわけではないが、俺達の部屋に来る人なんて彼女ぐらいしか心当たりがない。


「……ユウマ、起きてる?」


 案の定、シャーリィの呼びかけと共にドアから軽やかなノックの音が聞こえて、俺は蝋燭に火をつける小道具の練習を中断した。

 思ったよりも戻ってくるのが遅かったが、用事を全て終えたのだろう。空腹が限界まで迫っていたので戻ってきてくれて助かった。


「ユウマー、寝てるのかしら?」

「ちょっと待ってくれ、今行くから」


 部屋を出る前にもう一度身の回りをしっかり確認する。忘れるような物はそもそも持っていないし、火付けの道具はキチンと消火しているから火事の心配は無い筈だ。これから夕食を食べに行くと思われるので、その辺に関してはしっかりと念入りに確認しておいた。


「出てこない……ふむ、じゃあ、ドアは……」

「ッ――開いてるよ!」


 脳裏に警鐘が鳴り響いてから僅か数秒での行動。ベルの映ったガラスを片手に、テーブルから大股二歩でドアまでスッ飛んだ。

 慌ててドアを引き開けると、ニヤリと悪い顔をしているシャーリィが立っていた。楽しそうに実力行使に走ろうとすんなっ。


「うわっ、びっくりした!」

「俺は本当に実力行使に走ろうとしたシャーリィにびっくりしてるんだが」


 俺は湿度の高い視線をシャーリィに向けて精一杯の非難をする。

 ……実際のところ、彼女は一体何をするつもりだったのだろうか。決して彼女が非常識だと言いたい訳ではないのだが、非常識な行動に走りそうな予感がしたのは気のせいじゃないと思う……いや、気のせいであってくれ頼みますからホント……


「い……いやいや! 冗談だって、冗談。流石に借りてる部屋よ? そんなことしないから」

「…………本当にぃ?」

「失礼ね。私はね、楽しいことが好きだけど、それで迷惑になるのは嫌なの」

『なにやってるんだか……ところでシャーリィ、その抱えている紙はなんだ?』


 俺たちのやりとりに呆れた様子で、俺の手の隙間から覗いていたベルがそんな指摘をした。

 彼女の白いブラウスと同化していてぱっと見だと気がつかなかったが、シャーリィは何やら胸元に結構な枚数の紙の束を抱えていた。何か不思議な模様が表裏に描かれているが……一体なんだろう?


「シャーリィ。それが何なのかは知らないが……なんて言うかその、妙に多くないか?」

「そう? まあ、確かに色んな種類をかき集めてきたから多いかも。ユウマも読む? これとかは出かけた先で読んじゃったから」

「えっと……あー、どうも」


 平然と紙の山から一枚取り出して差し出してくるシャーリィに困惑したが、取り敢えず受け取ることにした。

 ……読むって、これを? どの部分をどうやって? 一応絵みたいなものが描かれているものの、結局よく分からない。どこかの海に浮かぶ島をスケッチした絵のようだが……


「???」

「なに地図が読めない人みたいにくるくる回してるのよ。ほら、さっさと食べに行きましょ。それは向こうで読んでちょうだい。そうそう、この宿は鱗芋の乳油炒めが美味しいらしいわよ」

「…………そーなの」


 困惑している俺を気にせず、スタスタと先を歩いて行くシャーリィに思わずそんな空返事が出た。困惑で頭が追いついていないので、一先ずこの謎紙はポケットに仕舞うことにする。

 そんな俺とは違い、シャーリィはササッと手際良く自室の鍵を開けて、両手に抱えていた紙の束をテーブルの上に投げ置いた。

 ……その投げた勢いで何枚か床にバサバサと良い音を立てて落ちてしまったのを俺は見てしまったが、シャーリィは“やっちゃった”なんて言いたげな顔をした後に、見なかったことにしたのか扉を閉じて鍵をかけた。良いのかあれは。


「……? どうかしたの?」

「……いや、なんでも」


 まるでどこかのお嬢様みたいに育ちの良さをしばしば見せるシャーリィ。

 しかし、その一方で凄まじく雑と言えば良いのか、行儀が悪いと言えば良いのか……人の目につくような場所では丁寧で、裏では人の目なんて気にしないと言わんばかりに自由気ままに振る舞っている。優先事項はかなり丁寧に、二の次三の次はかなり雑にやってる印象。


『変わってるよな、シャーリィって』

「…………今思った」


 別に誰かに迷惑をかけている訳では無いし、俺も特に気にしていないからわざわざ指摘する必要は無いだろう。そもそも、身柄を保護して貰った身でそんなことを言う度胸は無い。

 ……正直に言うと、あの可憐な見た目で中身まで容姿端麗だったりすると、こちらとしてはかなり緊張してしまうのであのズボラな感じは親しみやすかったりするのだった。


『まあ、これは今更言うことでもないけど、ユウマも負けずと不思議な性格していると思うよ』


 なんだと貴様。




 ■□■□■




 宿の一階はテーブルが幾つも並べられていて、泊まりに来た客が食事を取れる場所になっていた。

 シャーリィと共に宿へ来た時、既にこの光景は見ているが、その時との違いはこの宿の店主らしい料理人がせっせと料理を作っていて厨房からは良い匂いがしている点か。

 漂う匂いからして……乳油バター、だろうか? どんな料理なのか気になるが、何を頼むかはシャーリィに任せている。彼女の側に付きまとっても邪魔になるだけだろうし、先にテーブルに座って待つことにした。


 ……俺たちの他にこの場にいる客は、窓際で本を読みふけっている老婆だけだ。何も考えずに四人席に座ってしまったが、この感じなら他の客に気を遣って二人席に移る必要はないだろう。


「……妙に空いているな。でもまあ、このぐらい空いているならベルとも話せるかな……ん?」


 その時、ちょうど二階からこの宿への宿泊者が降りてくる。見た目は少し老けていて、筋肉隆々の男。その男は空いているテーブル席を素通りし、腹を空かせたような仕草をしながら、そのまま宿の外に出て行ってしまった。


「……?」

「お待たせユウマッ……と、あー……スープが微妙に溢れたか……流石に二人分を一度に持つのはマズかった。ごめんね、若干溢れた方と少し溢れた方、どっちが良い?」

「謝るも何も、二人分運ばせちゃって悪い。というか、声をかけてくれれば俺の分は自分で運んだのに。うーん……若干の方で」

『どっちも同じじゃないのか? ってかユウマも冷静に答えてるんじゃないよ』


 テーブルに置かれていた小物にガラスベルを立てかけながら、シャーリィが運んでくれた食べ物の乗せられたプレートを受け取る。

 運び込まれた料理は鱗芋の乳油炒めと野菜の角切りが浮かんだスープ、焼き目がついた丸いパンといったどれも美味しそうな料理。奇抜な料理が無くて安心した……が、


「どうしたのよユウマ。食欲がないの? もしかして野菜が駄目な人?」

「いや、食欲はあるんだけどさ……だから俺の野菜スープに手を伸ばすな。ほら見て、あの人もだ」


 またしても二階から降りてきた客は真っ直ぐ外へ出て行ってしまうのを見て、俺は更に首を捻る。


『……ああ、そういうことか。さっきも一人降りてきたけど、同じような感じで外に出て行ってた。ユウマはそれが気になってるんだろ?』

「なんで宿泊客は外に出て行くんだ? 他にも何人か泊まりに来てる人を見た筈なんだが、誰も食事に来ないじゃないか」

「ああ、そんなこと」


 その時のシャーリィの表情は、なーんだ、なんて台詞が聞こえてきそうなぐらい退屈そうなものだった。

 しかし、そんな表情とは裏腹に、金属のフォークを鱗芋に刺して口元に運ぶ一連の動作は見事なものだ。突き刺すたびにフォークが鱗芋を貫通して、小さくカツカツと音を立ててしまう自分がちょっと恥ずかしい。


「みんな違うところで食事を取ってるのよ」

「違うところで? 宿でご飯が食べられるのに? わざわざ違う店で?」

「そ、違う店で。多分、外に出て行った客の大半はギルドに向かったわね」

「ギルド……ああ、シャーリィが行ってた場所か」


 鱗芋を口にパクパクと運びながらこの王国に到着した時のシャーリィを思い出す。あの時も何かしらの報告でギルドに行って……なんだっけ、シャーリィは確か酷い場所とか言ってなかったか?


『なあ、シャーリィ。ギルドってどんな場所なんだ?』

「あ、それ俺も気になる」

「…………むむ」


 シャーリィは眉にシワを寄せて、たった今スープを飲もうとして手にしたスプーンを華麗に一回転させたり、指揮棒のようにユラユラと揺すったりしていた。

 で、観念したのか一度溜め息を吐くと、テーブルに身を少し乗り出しながら口を重そうに開いた。


「……そうね、あそこはギルドって呼ばれているけど正式名称は“派遣依頼取り締まり所”。人手の派遣を必要としている依頼を集めているの。他にも政治関係とか外交とかもある程度は対応しているけど、その辺に関しては省かせて貰うわ。今のところ、貴方たちって政治とは関わりがないだろうし」

『要はお手伝いを募集している、ってことなのかな』

「大体はそんな感じね。薬草が不足して採取を求める依頼、畑を荒らす獰猛な生き物の狩猟の依頼。商人の馬車を護衛する依頼、それから……異常現象、つまりスモッグの情報収集なんかをね。まあ、特にスモッグに関しての情報は随時募集しているから、こうした宿や食事のお金を稼ぐにはちょうど良いわね」


 最初は嫌そうだったのに――周りを気にしているのか、小声だが――いつの間にか気前良く話してくれるシャーリィの説明に耳を傾ける。

 ギルドがどんなことをする場所なのかはわかった。要は頼み事を一カ所に集めて管理しているんだろう。


「……? それじゃあなんでそこで夕食を?」

「あそこは副業――いいえ、アレはもはや本業ね……英気を養うとか、そんな建前で酒場もやってるわ。しかも妙にデカくて広いの」

「……なるほどねぇ」


 その部分に何か思うことがあるのか、シャーリィは顔をしかめてそう話した。

 酒場なら確かに人が集まりそうだ。仕事の終わりに酒と料理で楽しく飲み食いするのだろう。


『シャーリィはスモッグを探索して、その情報を売って生活しているのか?』

「そうなるのかな。目撃情報ならともかく、スモッグ内部の情報なんて誰も持ってこないから、ギルドのスモッグに関する情報元はほとんど私よ。というか、ギルドがスモッグの情報収集しているのもだし」

「シャーリィがいるから……?」


 目撃情報なんかは発生した場所の近くに住んでいる人とかがやるんだけどね、と付け加えつつもシャーリィは自分の功績をちょっと誇らしげに話す。

 ……その話題から、例の“不思議な力”のことを思い出した。こうしてゆっくりと落ち着いて、邪魔もなく話し合える今こそが、あの“不思議な力”について彼女に聞くチャンスじゃないだろうか。


「……話は変わるけど、ちょっと聞いても良いかな」

「? 何かしら」


 少し焦げ目のついたパンを手に取りながらシャーリィは返事をする。こちらを見ていないが、俺の質問にはちゃんと耳を傾けているのだろう。


「シャーリィが俺を助けてくれた時にさ、色々と不思議な力を使っていただろ? なんて言うか……あのみたいな力についての話なん――――ふごっ!?」


 突如、口の中が固いスポンジのようなもので埋まり、続きの言葉が遮られた。

 目線を下に向けると、シャーリィが手にしていた筈のパンが俺の口に突っ込まれている。そのままパンからそれを握る手、手から腕、肩、それから顔の順に目線をなぞると、シャーリィは何やら引きつった顔をして、もう片方の手の人差し指を口元で立てて“それ以上言わないで”と云っていた。


『だ……大丈夫か!? 窒息したら危険だぞシャーリィ!』

「……ごめん、焦って思わず突っ込んじゃった」

「…………んぐ、ご馳走様。ひょっとして今の質問は駄目だったか……?」


 口の中に突っ込まれたパンを咀嚼して飲み込み、そう聞いてみるとシャーリィは無言で頷いた。

 うーん……あれが何なのか結構気になったたんだけど、そこまで否定されたら仕方ない。それなら内容を変更して質問を続けよう。聞きたいことはもう一つあるし、そっちの方が俺にとって重要な内容だ。


「じゃあ、違う質問なんだけど」

「今度は何?」

「俺ってあの空気を扱う? 形を変える? まあ、そんな不思議な力を使ったけどさ、あれって一体なんだ? もしかしてシャーリィと同じなんじゃ――――むぐっ!?」


 もう一度口内に激突する香ばしいパン。さっきから雛鳥の餌付けみたいに突っ込むじゃんこの人……

 パンを突っ込んでいる手から……今度は行程を省略して直接顔に目線を向けると、シャーリィは焦りながらもたいそう怒っていた。


「ねえ、わざとなの!? 駄目って言ったのに何で二度! 周りに聞こえる声量で! その話題を聞くの!?」

「いや、悪い。“シャーリィの”不思議な力について聞いちゃ駄目だと思ったから、“俺の”不思議な力について聞こうと……」

「駄目なのはそこじゃないわよ! さっきの質問も今の質問も大体同じじゃない!? 変わったのはッ! “誰がやったか”って部分だけじゃないのッ!!」

『……やっぱり、ユウマも負けずと不思議な性格だよなぁ』


 うがー、とそのまま吠えそうな――いや、もう吠えてた――勢いでお怒りになられるシャーリィと、呆れたようにボソリと呟くベル。

 そんな声を聞きつけて厨房から料理人が何事かとこちらを覗き込んでいたり、窓際で本を読んでいた老婆はこちらを見て、また読書に戻った。シャーリィに視線が寄ったので、幸いベルの存在には気づかれなかった様子。


「すまん、シャーリィ! 確かに言われてみればほとんど同じ質問だったし、もうちょい小さな声で聞くべきだった、うん」

「もう……こっちが大声を出しちゃったじゃない」

「いや本当、すいません……」


 俺の口から手を離すとシャーリィは席について、それから樽のようなコップに注がれた水をあおった。

 それで落ち着いたらしく、シャーリィは一息つく……が、それから彼女は腕を組んで目をつぶり、何か悩んだ様子で考え事を始めてしまった。


『……なあユウマ。たびたびする間の抜けた感じの発言から思うんだが、お前って実はあほの子だったり――』

「それはない」


 即座に否定する。そんな訳あるか、そんな訳あってたまるか。開き直るつもりは無いのだが言わせて貰えば、まだたったの一回じゃないか。

 確かにたった今些細な解釈の違いから大ポカをしてしまったが、そういうのはもっと回数を重ねてしまってから言うもんだろうに。


「……はぁ、色々言いたいことがあるけれど、それを言ってたら話が進まないからね。秘密を解明することは本来だと禁忌だけど、気になるのは仕方ない。謎を暴きたくなるのはよく分かる。私も良くやる」

「シャーリィ……?」

「でも話すのは……いや、ならこの場で……強引だけどそれなら……」

『何か考え事をしているみたいだな』


 ベルの言う通り、シャーリィは何かブツブツと呟きながら考え事をしていた。しかし、それも間もなくして整理が付いたらしい。シャーリィは改めて姿勢を正して俺と正面から向き合って、俺だけに聞こえる程度の声量で話し始める。


「……貴方の聞きたいことは大体分かった。だけどそれを話す訳にはいかない。ここだと人目に付くからとかじゃなくて、それに関しては極秘事項だからいくら貴方でも話せないわ」

「……そっか。分かった、それなら諦め――」

「待った、まだ話は途中よ。だけど、その極秘事項を明かせる条件がある。そこで提案なんだけど、貴方がそこまで知りたいのなら――

「ッ――――」


――――不意に。何故なのかは分からないけれどシャーリィの優しい一言を聞いた途端に、背筋にスモッグの霧のような冷たいものが吹き込むのを感じた。

 ほんの少しだけ目を細めて、真っ直ぐ俺を見つめる彼女の新緑色をした瞳には、緊張の余りに金縛りみたいに固まっている人の影が映っていたような。


「詳しくは私の部屋で話す。ただ、その取引に応じるなら貴方が知りたいことを分かる限り話すこと、その内容が貴方の期待を裏切らない内容だということは保証するわ。ただし、生半可な気持ちで来るなら……私は、貴方を――」


 他人に聞こえないように話すシャーリィは、今までの上品な立ち振る舞いや大雑把な態度とは違った、相手の価値を見定めるような同情なんて微塵もない冷酷な目をしている。

 それはまるで、悪魔のような自分よりも上位の存在に契約を提案されるような錯覚を覚えて、不快な冷や汗が頬をなぞるように伝った。


「……ま、決断がついたら私の部屋に来て。ああ、心配しないで。取引の交換条件の内容を聞いてからゆっくり考えて判断して良いんだから」


 ……俺の怯えた表情に気がついたからだろうか。そう言うとシャーリィは初めて見るような優しい顔で微笑んで、席を立つと厨房の料理人に一声かけてから階段を上って行く。恐らく、自分の部屋に戻ったのだろう。


「…………」


 ……頬を伝う汗が鎌の刃みたいに冷たい。心臓が内側から胸を殴りつけてくるのが苦しくて、息が上手く吸えずにいた。


『……びっくりしたな。シャーリィがあんな顔をするなんて』


 空気を読んで静かにしていたベルがいつも通りの冷静な口調で空気を解してくれた。

 “あんな顔”が冷酷な目つきのことなのか、それとも労るような優しい微笑みのことなのかは分からないが、言いたいことは俺も大体同じだ。


『それで、ユウマはどうするんだ? シャーリィは決断がついたらって言ってたけど』

「……ベルならさ、こういう時にどうする?」

『私の考えなんて聞いてどうするんだ。私の真似するつもりなのか?』

「いいや、ちょっと気になっただけ」


 俺もシャーリィを真似て堂々と席を立ちあがり、料理人に皿の片付けを頼んで二階へ向かう。

 決断がついたら、なんて思わせぶりなことを言っていたが、シャーリィに不思議な力について聞こうと思ったその時から決断なんて大体決まっているようなものだ。この力は、俺を知る唯一の手がかりなのだから、今更追い求めることを止めるような真似はしない。

 それに、上手く表現できないし気のせいだと言われたら否定できないけれど、冷酷な振る舞いをしていながらも、俺の良い返事に期待しているような気がして――


「シャーリィのところに行く。あそこまでしてもらって訪ねないなんて、そんなことできる訳がないだろ」

『そっか。私も、もしユウマと同じ立場ならそうしていたよ』

「なにさ、ひょっとしてそれは俺の真似か?」

『いいや、私もシャーリィの話がちょっと気になっただけさ』


 上着のポケットにガラスを仕舞い込む直前、ベルの様子を伺うと彼女はいたずらっぽく笑っていた。思わず見ている方も口元が吊り上がってしまうような、そんな笑顔をしている。

 どうするか、なんて決断はとっくの昔に済ませた。心の中で決意を決めるだけなんて、思うがままに空気を操るよりも容易いことだ。


 本当に必要なものは、その決断を行動に変える勇気だけ――――

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