Remember-04 転生使い/首と風を切り裂く

 風が爆ぜた。

 まるでガスボンベに穴をブチ開けたみたいに、首を引き裂いた瞬間、風が周囲を殴りつけた。


「ッ――――グルルル……」


 トカゲの怪物を怯ませて――遠く倒れているシャーリィはどうにか巻き込まず――爆心地に突っ立っている俺はただ、刃物を握った腕を下ろして大きく一息ついていた。


 首筋から脈打つように熱が抜ける。口の端に付いたパンくずを払うみたいに、親指で首に付いた血を拭った。

 邪魔だった高熱が体から抜け出て、代わりに心地の良い熱が胸の奥から全身に満ちていく。その熱を冷ますように、体の周りで風が渦を巻いていた。


「ッ……ユウ、マ」


 視界の端でシャーリィが上半身を起こして、小さく戸惑うように俺の名を呟いていた。

 いや、戸惑うような動揺はシャーリィだけじゃない。捕食者として余裕を見せていたトカゲの怪物も、今は俺の様子を注意深く伺っているみたい。


「……無事で良かった。勝手に借りたナイフ、この辺りに置いとくから」


 手にしていたシャーリィの短剣を邪魔にならない場所に向けて放り投げて、代わりに歪んだ剣先ショベルを足元から拾い上げる。

 先端はグニャグニャになっていて、もうこれを怪物に突き刺すのは無理だ。柄から軋む音も聞こえてくるので、武器としては役に立たないだろう。


「こんな心当たりのない力、本当に俺の力なのか疑わしいけれど」


 なんと言えばいいのやら。他人事のように言うなら、なんと都合の良いことか。

 やり方を突然思い出した。今、俺ができることも突然思い出せた。初め意味の分からなかった彼女の指示も、ああそう言うことか、と腑に落ちた。

 なら、シャーリィと彼女を助ける為だ。腹を括って、やってやらないと。


「……色々忘れててすまないな。だけど今思い出した。これで俺も戦える」


 強い闘志を心に灯して怪物を睨みつける。こちらの明確な敵意を感じ取ったのか、トカゲの怪物は負けじと俺に敵意を返してくる。

 一先ずはこれでいい。シャーリィの体力が回復して戦闘に復帰するまでの時間を俺が稼ぐ。そうして彼女が応戦できる程度に復帰してくれたら二人がかりで戦える。


「代理は任せてくれ、シャーリィ。俺にできることを思い出せたのが嬉しくてさ、出来る限りってのを試してみたいんだ」


 シャーリィにそう声をかけて、片手を宙にかざすように広げる。

 この霧の中は相変わらず冷たい空気が流れていて、体が熱を帯びていなければあっという間に凍傷を負ってしまいそう。


「――ユウマ、貴方」


 その冷たい風を握りしめる。こうして一度握りしめてしまえば、手綱を握ったのとほぼ同じだ。

 胸の奥から力強い熱が全身に広がるのを感じながら、俺は“力”を曝け出す――!


「まさか、使――」


 シャーリィの声が途中で、空気の捻れる音によって掻き消された。

 手のひら大の空気を小さく圧縮し、それを包み込むように周りの空気を圧縮して、また圧縮して――大量の空気は唸るような音を鳴らしながら一点に集められ、拳程度の球体になるまで圧縮された。

 これが俺の思い出した力。“形の無いものに形を与える”力――!


(形を……外殻だけちゃんと作れば良い。中の空気を押さえ込める程度に頑丈なら、それで――)


 この圧縮された空気はそれ自身が高圧ガスを充填されたガスボンベと同等だ。中に押し込められた空気を一点から放出すれば、廃墟の壁程度なら容易にぶっ壊す破壊力を持っている……!


「吹き飛べ……!」


 圧縮した空気の塊に穴を開け、中から噴き出した爆風をトカゲの怪物に向けて一気に放出――いや、発射する。

 まるで大砲のような轟音を砂埃を巻き上げながら響かせる空気砲は、確実に怪物の全身へ命中した――が、


「……! 効いて、ない……!?」


 手応えはあった。トカゲの怪物はまるで見えない大槌に殴られたみたいに怯み、僅かに押し退けられた。だが、それ以上吹き飛ぶようなことはなく、喉から獣のような音を漏らしながら俺を睨みつけていた。


 今のは俺が可能な限り空気を圧縮した、言わば最大限の攻撃だ。

 もしかすると、表情に表れてないだけでダメージはあるのかもしれないが……見たところ、怪物を押し退けて怯ませる程度の効果しか現れていない。


『それじゃ駄目だ! 吹き飛ばすのなら、あの纏った“鎧”をどうにかしないと!』

「……! そうか、あの岩の重みで吹き飛ばなかったのか」


 怪物が体に纏っている岩盤のような鎧。ショベルで殴ると逆にこちらが壊されるほどの硬さだったが、重さもそれ相応にあるのだろう。

 何度も首を狙って跳びかかってくるから、無意識に軽いものだと錯覚してしまっていた。


 幾ら強力な空気砲でも所詮は空気であり、衝撃で相手を無力化はできても殺傷力があるかと聞かれれば正直微妙なところ。怪物を仕留めるにはあの装甲のような体表の岩を叩き砕く一撃が必要だ。

 しかし、俺に出来る攻撃はさっきのが最大限度。あれ以上の破壊力を持った攻撃を俺は繰り出すことが出来ない。

 つまり、今の空気砲以上の破壊力を持った一撃を放つ為には――


(形を作る――今度は外と内を隔離する“殻”じゃなくて、周りから吸い込み続けて中身を外に逃がさないイメージ――周りから吸い込んで圧縮し続ける――)


 怪物が怯んでまだ襲って来ない間に、俺は足元に歪んだショベルを突き立てて地面を削る。掘り起こした小石や欠片なんかを右手に握り締めつつ、同時に空気の圧縮を始める。

 限界まで空気を圧縮する直前、俺は握っていたつぶてを放り込んで吸い込ませ――


散弾ショット……!」


 球体に圧縮した空気に穴を開けるイメージを描き、再現する。イメージ通りに礫を含んだ空気砲は、トカゲの怪物へ向けて恐ろしい速度で礫を散弾銃の如く撃ち出した。


「ギャァァアアゥ!?」

「ッ、効いた……!」


 避けることなく被弾した怪物が悲鳴のような声を上げる。

 ショベルで殴ろうが燃やそうが傷一つ負わなかった岩の鎧を背負った怪物が、その背中から血を流している。流石に岩の部分には弾かれてしまったが、どうやら岩と岩の隙間に露出している鱗の部分には、これで通じる……!


dipict描写duplic重ねation掛け――isa氷のnied……!」


 後方から不意に、力強い言葉呪文と共に白い光弾が放物線を描いて怪物の頭上目掛けて飛来する。

 打ち上げられた光弾は上空で拡散して小さな光弾になったかと思うと、それぞれの光弾が氷柱を形成し、槍のように地面に突き立てられた。


『……! 氷が杭のように……』

「今よ! 息の根止まるまで叩き込んでやって!」

「ッ、……息の根が止まるまでって」


 燐光を纏った姿のシャーリィが大声で何やら物騒なことを呼びかけてくる。戦線に復帰した彼女は色々と絶好調だ。

 シャーリィの放った氷柱は怪物に傷を負わせるものではない。しかし、そのどれもが怪物の動きを完全に抑えている。怪物の前後左右、至る所に狭い間隔で突き刺さり、身動きは当然、厄介な跳躍力までも封じてみせた。

 これならこちらの攻撃は回避されることなく確実に命中させることができるだろう。それに――


「今なら近づいて撃てる……それならトドメを刺せるかもしれない」


 俺の攻撃は精密な狙いをつけられない範囲攻撃の散弾だ。当然ながら放った礫が全弾命中している訳ではなく、怪物の周囲にも多く着弾している。

 それなら、もっと近づけば散弾の広がる範囲が狭まり、当たる破片が増える。そうなれば当然、怪物に負わせるダメージも増える筈だ。


『……気を付けてくれよ、ユウマ。身動きは取れなくても意識も敵意もあるんだから』

「ああ……」


 俺は礫を握り締め、怪物の元へ走りながら空気の圧縮を開始する。左手で歪んだショベルを引きずって至近距離にまで駆け寄ると、俺は先ほどと同様に圧縮した空気の中に礫を放り込んだ。


「全弾、叩き込む――!」


 俺の声と共に、トカゲの怪物の真正面――鱗が多く岩の鎧が少ない顔面に向けて、礫の散弾が容赦なく撃ち込まれる。風圧と地面に命中した礫が濃い土煙を巻き起こした。

 ……礫が氷柱や岩の鎧に反射する甲高い音や生肉を貫く鈍い音に混ざって、小さく断末魔のような声が途切れて聞こえてくる。


「まだよ! 確実に仕留めるまで油断しちゃ駄目!」


 後方からシャーリィの至極当然な指摘をされて慌てて気を引き締める。

 ……そうだ、相手は人じゃない。相手は怪物なのだから、人間なら致命傷になる攻撃でも死ぬとは限らない。

 たとえ一目で分かるような致命傷を負っていようとも、まだ少しでも動けるようならもう一度、完全にトドメを刺すつもりでないければ。


 煙幕のように白い土煙は既に晴れていて、氷柱に挟まれたままトカゲの怪物はピクリとも動かない姿を見せた。

 それでも念のためにシャベルを突き立てて地面を削り、礫を足元に転がす。今のうちに撃ち出す弾を持っておけば、すぐに用意して発射することができるだろう。

 空気の圧縮の必要がある上に一発限りの技だが、地面と掘る道具さえあれば弾を無限に用意できるのは強みだ。俺はショベルを突き立てたまま、削り出た礫を拾い上げ――


「……!? ユウマ! 退いて!」

「!? 何――」


 シャーリィの声を聞いて即座に目線を上げるがもう遅い。

 こちらが隙を作るまで死んだふりをして様子を伺っていたのか。さっきまで死んだように動かなかった筈のトカゲの怪物は、お得意の跳躍力で氷柱の檻を無理矢理抜け出して俺を押し潰す勢いで迫って来る……!


(散弾で氷柱にヒビが入っていたのか……!?)


 鋭い牙がズラリと並んだ口に、俺は自分の腕ごとショベルを横にして突っ込む。柄が怪物の歯に上手いこと挟まったお陰で、俺の腕は幸運にも噛み砕かれずに済んだ。

 俺の攻撃がかなり効いているらしく、口を閉じようとする力はだいぶ弱い。さっきまでならこんな木製の柄なんてとっくに噛み砕いているだろうに、まだこうして耐えている。


『ユウマ!?』

「ぐ、重っ……!?」


 だが、跳びかかってきた怪物を避けようとした結果、背中から倒れてしまって俺の下半身の上に怪物がのしかかってしまった。

 爆風を浴びても吹き飛ばないような重い体だ。その重みで腰や背中の骨が無視できない痛みを訴えかけていて、万が一にこの状態で怪物が暴れたりなんかしたら、腰や背中の骨が粉々に折れても不思議じゃない。


(今はなんとか無事だけど、これは……ッ!)


 さっき拾い上げた礫は今ので全て落としてしまった。怪物の口に差し込んでいるショベルの柄は、間もなく折れる数秒前の状態で、それは俺の腕が怪物に噛み砕かれるまでの猶予でもあったりもする。


(手を……ッ、落とした礫に手を伸ばさないと……ッ)


 この状況、とてつもなく追い込まれているが、逆にこの怪物を確実に仕留めるチャンスでもある。

 この至近距離でさっきの散弾のような有効打を叩き込めば、確実に怪物を一撃で殺せる。リスクがあまりにデカすぎるが、もう今更どうにか出来るものではないのだ。こうなったらリターンに全力を賭けるしかない……!


「――ッ、ぐうう……ッ!」


 背中の骨が音と共に痛みを訴えて、思わず苦痛の声が漏れる。

 音こそ鳴ったが折れたわけではなく、無理に圧をかけたせいで関節が鳴っただけ。しかし、これ以上骨に圧をかけ続ければ関節は外れて骨が折れる警告であったりする。

 ……駄目だ、散らばった礫をかき集める時間なんて無い。無理に腕を伸ばそうとした結果、背骨がブチッと千切れるなんて想像が不意に浮かんだ。


『ユウマ! 噛み砕かれる前に早く手を引き抜け! シャーリィ! どうにか援護できないか!?』

「駄目、手持ちの武装じゃ精密な攻撃は……でも……ッ! dipict描写――」

「だ、大丈夫だ……! シャーリィ! は、早く……逃げろ! 今のうち、できるだけ遠くに……ッ!」

「な――何を馬鹿なこと言ってるの! アンタねぇ、そんなことで命を懸けられても困るのよ!」


 ビシャリ、と木製の柄に致命的な亀裂が走る。もう間もなく、腕一本がギリギリ入る程度に開いた怪物の口は閉じて俺の腕は挽肉のように噛み砕かれる。

 ……だが、それでも手は引けない。コイツを確実に仕留める“手”はただ一つ。


「確かに命を懸けている。迷惑もたった今かけてる……でも、馬鹿なことは言っていない。自己犠牲か何かと勘違いされてるみたいだから言うけど、俺はコイツに、トドメを刺して勝つ気でいる」

「え――それって……いや、でもそのままじゃ貴方が危険よ!」

「そんなの今更ッ! ッ……、早く離れろ! シャーリィ、……!」

「……?」


 恐怖に負ける前に自分自身を奮い立たせ、俺は脳裏に明確なイメージを作り上げる。初めから手加減なんてしていなかったが、今回は余力を残すなんて考えを取っ払った。

 後先考えずに全力を出すのは後が怖いが、今ここで死んでしまうこと方が、俺にとってはずっとずっと怖いのだ。


『でも、これじゃ怪物は倒せてもユウマの身が危ない……!』

「大丈夫……約束は忘れてない。だから君も、俺を信じて――!」


 トカゲの怪物の荒い鼻息が顔を撫で、おぞましい口から滴る唾液が俺の頬に垂れる。

 怪物の口に一気に力が込められて、一際大きく柄がへし折れる音を立てた――その時。怪物の口に突っ込んだ腕の袖を通って、“それ”は怪物の口の中へ送り込まれた。


「ゴォオオオ!?」

「ッ――!」


 袖の中を通じて怪物の口の中に送り込んだ圧縮された空気ガスボンベが爆発した勢いで、怪物の口が普通よりも大きくこじ開けられる。その瞬間、吹き出た風圧によって腕は怪物の口から間一髪で抜け出た。

 効いた……いや、当然か。怪物の外皮は鎧のように岩盤で覆われていても体内は別だ。きっと普通の生き物とそう変わらないに違いない。


 それに体の重い怪物は爆発の衝撃を俺の腕みたいに吹き飛ばされて受け流すことはできず、弱点の体内で受け止めるしかない。


「ッ――――!」


 口が無理矢理広げられた衝撃でよろめいた怪物は俺の上から滑り落ちる。

 ……まだトドメは刺せていない。本当に恐ろしい生命力だ。だが、もう一度トドメを刺す隙は十分にある。


 怪物がダメージの余韻でまだ動けない隙に体勢を立て直し、怪物の背中に跳び乗って今度はこちらが上を取る。

 そして片足を大きく振り上げて、怪物のポッカリ空いた上顎へ狙いを定めて――


「腹ん中から、吹っ飛べ――!」


 力強く怪物の上顎を踏みつけた直後――――ボン、と砂袋を力強く地面に叩きつけたような音と共に、怪物の腹部が爆ぜた。

 怪物の口を強引にこじ開けた物と同等の空気の爆発が腹の中で起こった結果、赤い破片や硬くて白い欠片、それに真っ赤な液体を周囲に――例えば、至近距離にいた俺なんかに――撒き散らしたのだった。


「ぶっ――――ゲホッ、ゲホッ!?」


 爆風で吹っ飛ばされた俺は情けなくも白い地面をゴロゴロと転がる。

 臨時で加減の余裕もなかったから、爆発の衝撃で勢い良く転がって、転がって、転がり続け――――……気がついたら地面がめちゃくちゃ真っ赤だった。


『大丈夫か!?』

「ああ、なんとか……痛ててて、白い地面が真っ赤に。しかもこんなに転がって……」

『こんな固い地面を転がって、厚着じゃなきゃ重傷は違いなかったぞ……』

「だけどさ……約束、守ったよ」

『うん……うん! 本当に無事でよかった……』


 砂埃と何かブヨブヨした破片を手で払いながら息を整える。真っ白で違和感のあった世界が、たった今飛び散った血のせいで生々しく不気味な雰囲気を醸し出していた。

 辺りはまるでちょっとした殺人現場のようだ。真っ赤な水たまりに怪物の肉片が三つ、四つ……もう数えたくない。


(それにしても……この力、なんて凄まじさなんだ)


 ここから少し離れた地面に転がっている、喉から腹部にかけて吹き飛んで絶命しているトカゲの怪物だった死骸を眺めて、俺は思わず奥歯を噛んだ。

 ……怪物の腹の中から爆発を起こさせたのだが、鎧のような背中に守られたお陰で至近距離にいたにも関わらず俺は無傷だ。もしかすれば俺すら殺していたかもしれない威力に我ながら恐怖を感じる。


「……ユウマ、貴方」


 トカゲの怪物を倒した安心感と疲労感でふわふわしているところで、シャーリィが俺の名前を呼んだ。振り返ると、彼女は何やら神妙な顔をしている。少なくとも、今の爆風に巻き込まれていない様子で安心した。


「……? シャーリィ、どうかしたのか――って、どうかしてた直後だったな……」

『シャーリィも無事そうだな。怪我はないか?』

「ええ、大丈夫……」


 たった今、一歩間違えたら死んでいてもおかしくない戦いを繰り広げていた張本人だというのに、この質問はあまりにも間抜けだ。

 しかし、シャーリィはほんの一瞬だけ何かを考え込むと、少し大きめの溜め息を吐き出して普段通りの凜とした顔に戻った。


「……シャーリィ?」

「……いや、何でもないわ。お疲れ様、貴方のおかげで助かった」

「助かったのなら良かった。時間稼ぎをして共闘するつもりが、一人で勝手なことしちゃったな」

「そんなこと気にしなくていいわ。今だから言うけど、正直私だけじゃ決め手に欠けていたから助かった。私は貴方みたいな強力な一手を持ってないから……ほら、何時までも座ってちゃお尻が冷えるわよ」

「あ、ああ……っ、と。ありがとう」


 差し出された手を握り返すと、シャーリィはいとも容易く俺の体を引っ張り起こした。あんなに小柄なのに、よくもまあ俺の体を引っ張り起こせたものである。

 もしかしてあの燐光を纏っていると、筋力なんかが強くなったりするのだろうか――と、気がついたら俺の体で渦巻いていた“何か”も消え失せている。怪物を爆発させて吹っ飛んだ辺りで消えたのだろうか……?


「早く先に行きましょ。こんな血まみれだと、もしかすると他の生き物が寄ってくるかもしれない。疲れてても休憩無しで突き抜けるわ」

「…………?」

「どうかしたの? まさかどこか怪我でもしたの?」

「あ、ああ。大丈夫、怪我はない。すぐに行くよ」


 方位磁針を確認してから先陣を切って進むシャーリィに返事をしながら、俺は一人で首を傾げた。別に変なことがあった訳ではなく、少し気になった。

 前をどんどん進んでいくシャーリィの表情をこっそり覗き見て、やっぱり気になった。


「……なんで、嬉しそうな顔をしているんだ?」


 シャーリィには聞こえない程度のとても小さな独り言。

 そんな疑問に当然ながら誰かが答えることはなく、当たり前のように濃霧の中に消えていった。

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