#1周年特別回 夢噺を1つ

だって、これはゲームだから。その言葉を何度耳にし、何度発してきたのだろう。

事実自分で操作して、自分ではない“画面に映るキャラクター”が攻撃されても私たちはまるで自分達が攻撃されたかのように「痛い」と口にした。


銃で撃たれたことも、その身を切られたことも、焼けただれるような激痛が襲ったことも無いのに。それでも私達は痛みを口にした。

実際その感覚を味わえば、そんなことも言う暇すら無いだろうに。

………なんて、野暮な話は今日の祭りには似合わないから。ノンフィクションはそのままに、今日だけは夢のようなフィクションの話をしよう。

だって、めでたい日なのだから。




いつものローディング画面。1分1秒コンマ単位でそれを急かす。早く、早く。何故なら今日から始まるから。


(鯖落ちしてないだけマシだけど回線おっっっも)


パッと画面が切り替わればそこはいつもと少し違う電子の空間。マイク準備を整えて、コントロール操作に異常が無いことを確認して電子の世界へ呑まれる。



「ん〜〜〜〜〜……まだ誰もオンラインじゃないカンジ???せっかくファッショナブルとかコモたんと一緒に記念スクショ撮りたかったのに!!!」

リストを確認し、バニヤンは大きく息を吐く。今日は待ち望んだ『フィクティシャス・アーバン』のイベント初日。イベント開始時刻と同時にログインし、ステージ周回をメインタスクとしながらあわよくばと欲を出すも、どうやら他の人物はまだログインしていないようであった。

「イベはスタダで全て決まるって知らんのか〜!★」と小さく呟きながら自身のアバター姿を確認する。


黒ベースの衣装に現在自分が使用している地属性の色がよく映えて。皆も同じ雰囲気で居ることから誰がどの属性であるかがひと目でわかる。通り過ぎるアバターを見、(氷、幻、炎、呪……)と無意識に考えながらも同時にまだログインしていないフレンド達のアバターに想いを馳せて。


「ど〜〜しよ❤︎‬りったんのアーバン衣装なんてスクショ確定だしなんなら引き伸ばしじゃなく比率維持した綺麗な状態でポスターにして…いや、360度見れるように等身大フィギュアとかになってくれたら最高…‪‪❤︎‬」


1人小さく呟けば、「おや、やっぱりキミが最初か!」と聞き覚えのある声が聞こえる。同時に、声の主が誰であるのか察し、「あ゛?」と低い声が出そうになるのを何とかバニヤンは抑える。


「だ〜〜れが悲しくてバグカス第1村人でエンカすんだよ!!はーーっっ!!ワタシの本日運勢ここで営業終了かよ!!!これからコモたんと周回すんだよこっちはよぉ!!」

「今日も随分ずいぶん騒がしい子鼠ちゃんだね。お祭り気分で浮かれる気持ちも分からなくは無いが妄言は控えた方が良いんじゃないかい?」

「妄言じゃねぇよ、ありのままの事実だっつーの。てか鼠じゃないの、見えませんか〜?その片目隠したの、現実でも付けてるんですか〜??」

「兎だって鼠の1種だろ。チューチュー話し上手なんだからキミはやっぱり子鼠ちゃんだと思うけどね?」

「お?なんだ???喧嘩売ってきてんのか??あ゛?タイマンすっか???」


最初にバニヤンに声を掛けてきたのはMr.Bon-Bonであった。傍にコモモが居ないことから同時ログインでない事に安堵し、同時にちょっかいを出されたことにバニヤンは素直に苛立ちを顕にする。


「はーーーーーマジで萎える。そこはさぁ、ろゆとかミラハとか辺りと最初会うのが定石じゃん??なんでワタシはよりによってテメーなんだよ」

「それはこちらの台詞だよ。タイマン勝負?だっけ?やっぱり君には1度分からせるべきだと思っていたんだよね」

「何??分からせ趣味????きっしょ、誰がバグカスに教わるんだよ」

「………………………バニちゃん、と、ボンボンさん…?」


聞き覚えしかない第三者の声にピタリとバニヤンとMr.Bon-Bonの会話は止まる。声のした方を振り向けばそこには普段とは違う格好の彼女がいて。


「コモたん!!!!‪‪」

「何だか少し珍しい組み合わせ?だね。色んな人がログイン状態になってたから最初に2人に会えるって思わなかったなぁ」

「ワタシ達もさっき会ったばっかりだよ!ね!バグカ……………ね!!!」

「あぁ、実はそうなんだ!彼女とはログインして直ぐに出会ってね」

アハハと互いに表情を切り替えるも、内心では「余計なことを言ったら殺す」の殺意で一致しているだけであった。

「そうなんだ。でもバニちゃんもボンボンさんも凄く素敵な衣装になってたから直ぐに見つけれたよ」

「えーーーん、嬉し‪‪❤︎‬でもコモたんもその衣装すっごい似合ってるよ!!というかワタシ達、併せ無しでショートに髪型変えるの合うんだね!」

ふわふわとしたショートカットと綺麗に切り揃えられたショートカット。対称的な姿に共通点を見つけては2人はきゃっきゃと盛り上がる。そんな2人を見つめていたMr.Bon-Bonがふと、疑問を口にする。


「そういえばコモモはここに来るまでの間、誰にも会わなかったのかい?ログインしている人は先程よりも増えたけど…」

「コモたんとワタシの会話の邪魔すんなや。百合の間に挟まろうとする男は大罪ぞ???」

「えっ、は、はい…!本当にここに来るまでの間は誰にも会わなくて……」


うーん…と小さく唸りながらコモモは未だ見えないフレンド達の姿を思い出す。


「みんな、どこにいるんだろう……」




「動作重すぎんだろ……」

イベント初日ということもあるせいか。普段のこの時間帯からそこまで賑わってるはずが無いのに、と小さく恨みながらラリマーは歩を進める。

イベント初日に開いたことに特に理由は無い。抱えていた作業が締切日よりもかなり早めに完成したため、気晴らしに開いただけであった。

(周年の祝い事に開かない方が良かったな、動作が重い…)

もう少し時間を置いてからでも良かったが、かといって何かやることも無く。渋々人の波に流されるように適当に動く。持ってない称号を埋めようか、しかしこんなに重くてはまともにゲームも出来ないだろうか。


『わっ』

「……?」


アバターに重なるように表示されたテキストチャットに疑問を抱く。直後に『ごめんなさい』と謝罪の言葉が出たことから(あぁ、アバターが重なったかなんかしたんだな)と理解する。アバター同士が重なったくらいで謝るなんて律儀りちぎな人もいるもんだと考えつつラリマーは背後に視点を切り替える。


「別に気にすん、………な………」

『らりまーさん………?』


(アンタかよ………)

反射で舌打ちしそうになるのをなんとか抑える。特徴的な天使の羽や、白い衣装では無くとも表示された名前が『リル』であることを示していた。

彼に個人的な恨みは無くとも、気まずくなる理由だけはある。故に接触することを極力避けていたのだが……


「…………………」

『… … …』


恐らくリルも何か文章を打っているのだろう。しかし、ラリマーもこの状況でどう会話を続けていいのか分からなかった。

(気まず……)

重くなるこの空気感から背を向けて逃げ出してしまおうかと思った瞬間だった。


「あれっ、あまり見かけない組み合わせだねぇ〜。何してるの?」

「ととりりさん」

『totoririさん』

やっほーとでも言うように現れたのはtotoririであった。少しだけ軽くなったこの場に2人は思わず安堵あんどする。

「…偶然会っただけだよ」

『僕がラリマーさんのアバターに被ってしまって…』

「あーね?あるある、他のアバターと被るとちょっと申し訳なく感じるよね〜」

うんうんと頷くモーションをtotoririはする。彼こそこの場に居てはファンが騒ぎそうなとこもあるが…とラリマーはぼんやり考える。

「ととりりさんはあれですか、イベント初日だから配信か何かですか?」

「配信は今日の夜にするつもり。珍しく休日で時間が取れたからオフでログインしているだけだよ〜」

『でしたら今はログインボーナスを取りに来ただけですか?』

「そのつもりだったんだけどみくるんちゃんからカスタムの招待貰っていて…2人とも見かけなかった?」


ラリマーとリルは一瞬顔を見合わせるが、即座にラリマーが「オレ達もさっき会ったばっかなのと、アイツのことは見てないですね」と告げる。

「すれ違ったかなぁ…」

「待ち合わせ場所の連絡は?無いんですか」

「実は貰っていなくて……みくるんちゃん、久々に開いたから感覚慣らしたかったらしいんだよね」

しょも…と分かりやすくtotoririが落ち込めば、『一緒に探しますか?』とリルが提案する。


「えっ、いいの?リルくん、誰かと組んで周回する予定とか…」

『ただ開いていただけだったので。俺に出来ることでしたらお付き合いしますよ!』

むんっ!といつものように頑張りますモーションをするリルとやったー!と喜ぶtotoririを見ながら(オレ、この2人に挟まれると身長低に両脇挟まれてんな…)とラリマーはぼんやり考える。


(でも、ととりりさんが今みたいに明るい雰囲気出してくれなかったら向こうもギスギスしたまま過ごすことになってたな…)

お礼を言いたくとも、リルとラリマーの関係性はかなり複雑なものである。言うに当たってわざわざこの関係性の説明と相談をしていては、totoririも複雑な心境になってしまうだろう。

やはり彼に謝ることも一生出来ないだろうなぁと1人考えていれば、「あっ、ごめん少し待って」とtotoririは何かを確認し始めた。


「みくるんちゃん、mokuさんと居るみたい」

「あぁ………」

「ラリマーくん、凄い嫌そうな表情していることは声から分かるよ」

「いや、あの人……単純に苦手で………タコみたいなとことか、性格悪……………………変な、絡み方してくるんで……」


実際、現実でラリマーはかなり表情を顰めていた。声の雰囲気からそのことをtotoririは察したのだろう。

「mokuさんと一緒ならショップかコンテスト会場かな〜」

『でも、確かコンテスト会場が開くのは6日後だったはずです』

「…………あぁ、じゃあ行ってるとこはまぁ……限られますね」

フードを下ろし、ラリマーは恐らく彼女らがいるであろう場所の名前を告げた。




「えーー!!!mokuのアバター、超可愛いんだけど!!!」

「ふふ、ありがとうございます〜」

ショップ周辺。きゃっきゃとはしゃぐみくるんをmokuは静かになだめる。限定衣装を見ていたmokuに「あ!mokuだ!!」とみくるんが声を掛けたことがきっかけであった。

「でも確か前タコじゃなかった??タコ似合ってたのにやめちゃったの?」

「今日はイベントなので変えてるだけですよ〜これが終わったらまた戻しますが…」

「そゆことね!最初名前見た時『mokuだ!』っては思ったけど髪型がタコじゃなかったから別の人に声掛けちゃったと思ったよ〜」

でも今の衣装も超似合ってるよ!!と返すみくるんに「ありがとうございます〜」とだけmokuは返す。


「みくるんさんの衣装も………えぇ、とても学生を感じる雰囲気。僕は良いと思いますよ〜青春を体現しているようで」

「本当?ありがとう〜!もっと違うのにしようか迷ったけどまだ期間もあったはず!ってなったから」


パッと笑顔のまま返すみくるんは直ぐに「あ!そういえばととりり見てない?ウチ、久々に開いたからカスタムで慣らしてもらう約束してて…」とmokuに問う。

「さぁ……?僕は見てないですねぇ。誰かと一緒にいるんじゃないですか?」

「そうかも〜……あっ、メッセ来た。ラリマーとリルししょーと一緒に居るっぽい!」

「……ラリマーさんの周り、身長設定が低い方ばかりが集まりますねぇ。そういう特性でも持ってるのか」

「確かに!ウチとととりりも身長低だけどししょーも低だもんなぁ…」

そう呟きながらみくるんはtotoririに返事を打とうとする。しかし、直ぐにその手を止めてうーん…と小さくうなる。


「ショップ待ち合わせ…は、流石に探しにくいかなぁ……もう少し分かりやすい場所に行こうかな…」

「分かりやすい場所……ですか」

口元に手を当て、含みを込めたように告げるmokuに「なんか良い場所、ある?」とみくるんは問いかける。


「分かりやすい場所、というよりは……今日、とっても目立つ場所なら1つ思い当たる節がありますよ」






キラキラと輝くスポットライトが彼女を照らす。ストリートライブにも関わらず、彼女を応援してくれるファンは沢山集まっていた。

3曲を歌い終わり、彼女……ミラーハートは、周囲に軽く手を振った。

「鏡さーん!応援、ありがとうございます!」

そう告げればファンからの黄色い歓声が上がる。鏡さん…ミラーハートのファンから事前にリクエストを受け付け、今日のライブで披露することを約束していたのだ。

(あとは…多分2、3曲が時間的にもギリギリだな。あんまここに長居し過ぎると他のプレイヤーの迷惑にもなりかねない)


軽く時間配分を考え、ミラーハートはパッと改めて花笑みを浮かべる。

「じゃあ次も鏡さんからのリクエスト曲でっ………」

しかし、視線の先に見えた人影に思わず言葉が詰まる。不思議そうに感じたミラーハートのファンが順に呼びかけていく。

「どうしたのー!ミラハちゃーん!」

「マイク切れちゃったのかなぁ…」

「ご、ごめんなさ〜い!マイク接続の調子悪くって…!」

良かったー!とファンは安堵を口にするが、ミラーハートは冷や汗をだらだらと流していた。


(来んなら来るって言えよ……!!!)




「…………」

『今、絶対お前のこと見つけて驚いたんだろうな』

「あ?んでだよ」

『どう考えても格好と威圧感のせいだろうなぁ』

テキストにも関わらず、REINが笑いを堪えているようにも思えて。ろーゆーは眉間のシワを更に濃くする。

REINと合流した後、ミラーハートのライブがあるらしいとの旨を伝えれば『なら行くべきだろ』と何故か連れて来られたのだ。何度理由を問ただそうとしても、最終的には『オレがライブ見てみたかったから』と言われてしまえばそれまでだった。


『でも緊箍児きんこじの制限が今日だけ外れたってことか?良かったな』

「ジャマクセーのが増えてんだよ」

それが口元の枷を指しているということは理解出来ていた。このライブ会場に来てまで問題行動を起こすとはREINも思っていないが、それでも運営側からの制限なのだろうかと考えていた。

『ほら、次の曲だ』とREINに告げられ、ろーゆーは言われるがままに視線を向ける。ろーゆーが居ることに少し緊張しているのかとも思ったが、それでも先程と同様に変わらないクオリティの高さで歌っているのは流石としか言いようが無い。


『そういえば、あの子とオフで会う約束してたんじゃないのか?』

「あ?あぁ…本物のライブ見せるっつってたな」

『良かったな』

「………なぁ」

『なんだ?』


ミラーハートのライブから視線を逸らすことなく、ろーゆーはREINに問いかける。


「うめぇラーメン屋、どっか知ってっか?」

『それは通な彼女のオススメが1番美味いだろうよ』

「………おめー今笑っただろ」

『笑ってないよ。オレのオススメより、お前のオススメの方がミラーハートちゃんだって嬉しいだろうよ』

「んでだよ」

『さぁな』


そんな軽いやりとりを交わしながらも、確かに変わり始めた相棒の変化にREINの表情は少し和らいでいた。





「…………」

キョロキョロと敢は周囲を見渡す。しかし、いくら探しても目当ての人物はおらず。彼女が約束を破るとも考えにくいため、再度メッセージのやりとりを確認しようとした時だった。

「………敢…?どうしたの………?」

「!…キング、か……」

弱々しい声で敢にボイスチャットで話しかけてきたのはキングであった。いつもと少し異なる雰囲気に驚きつつも、「実は」と敢は言葉を続ける。


「………もじ…モヒートさんが見当たらない………?」

「あぁ。彼女が約束を破るとも考えにくい…メッセージを確認しても、待ち合わせを予定していた場所に居なくてな」

約束の時間を過ぎても彼女を見つけることが出来ず。メッセージを残しておくべきか…と迷っていたところでキングに出会ったのだと敢は説明した。

「ログインしていないのか?とも思ったがログイン状態にはなっていて……私が彼女とすれ違っているだけだろうか……」

「うーん……でも僕も見かけ無かった……から……」

少しの沈黙の後、「ね、ねぇ」とキングから控えめに声をかけられる。

「もし迷惑じゃなかったら……モヒートさんを探すの、僕も手伝うよ」

「……いいのか?」

「う、うん……今日はそもそも、ただログインボーナスだけ受け取って閉じる予定だったし……」

少し迷い、敢は「悪い」と告げた。


「なら頼んでも良いだろうか。1人よりも、複数人の方が見つけやすいだろうから」

「気にしないでいいよ。僕がやりたくて勝手に手伝いを申し出たようなものだし……」


もう一度謝罪の言葉を述べ、敢は改めて-mojito-とのチャット画面を見直す。


「どこに居るんだ……………?」




「​───────………」

風が吹くはずなんて無いのに、頭のリボンはふわりと揺れる。立ち入り禁止…というより、通常のプレイヤーであれば侵入することすら不可な建物の屋上から見下ろしているのは黄緑色の彼女。

(楽しそう)

そう判断したのは-mojito-か、川村朗としてなのか。そんなこと、考え始める時点で時間の無駄にしかならないが。

(これが彼らの望んだ世界。何も変化することの無い世界)

色とりどりのネオンをただぼんやりとデータに記憶しながら-mojito-は見つめる。運営側としては望んだ通りであるが、“彼”は1番望まなかった世界だろう。

(まぁ、そんな彼が居なければ私が生まれることも無かったけれど)

屋上の縁ギリギリ。彼と同じ場所に立っても、感情の理解が全く出来ないのは情報や理解不足も相俟あいまってだろう。

コツコツとふちを歩いても-mojito-が落ちる事は無い。何故なら落ちても意味は無いから。


(私が存在する限り、カミサマが居る証明にもなる。結局そうとしかならないんだから)


はぁ、とため息を吐く。今はどこかに身を潜めているであろうその白い存在にどれだけ悩まされたら良いのだろう。しかし、こちら側としてもいつまでも彼にばかり悩み続ける訳にもいかないのだ。

1人、ぽつりと-mojito-は小さく呟いた。


「​───────酷い話ね」


さて、そろそろ戻らなくては。敢に遅れた理由の言い訳もしなくてはいけないから。

コンっと足音を立てて縁から降りる。そのまま-mojito-はどこかへと消えて行った。





何も変わらないかもしれない世界。

何もない世界。

誰も変われない世界。


それでも本当にこれが良かったのだろうか。光る影に怯えないことが、相手の本心を知らないことが、自分の本心を握りつぶすことが。

でも、こんな小さな夢を見ることくらい。今日だけ特別に許してはくれないだろうか。


「​───────......」


黒い空間の中、白く長い睫毛が僅かに動く。首元の線の中に赤は浮かび、腰の輪は赤と青に光り輝く。

この手首も、足も、胸元も。彼が傷ついた場所と同じ。退院後に彼が付け足したものでしか無いため、痛みなんて共有出来るはずが無いのに。


腰の輪は終わらない彼の復讐劇を。頭の1本伸びた髪は縋る為の蜘蛛の糸を模して。8本程度に角張った髪の毛は、確か蜘蛛の足を模したものだったろうか。

全部、全部。彼が思い描いた理想の通り。彼の望んだ理想の“神様”が、彼女だとするなら。



「​再起動準備に入ります」



​───────ヒトを理解しようとしたのは、どちらの意志なのだろう。





これは、あったかもしれない“もしも”の話。

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Shadow taG 宵花 @yoihana

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