第二章 フォルード村編

第24話 さらばグレイド学園、また帰ってくる日まで

「アッちん何処かに行くの?」

「あぁ……数日村に帰る、学園長から許可は貰った」

「あの日何かあったの? ボロボロになってでもスッキリした顔してたと思ったのに今度は村に戻るって」


 あの日、入れ替え戦の日は俺とセシリアが誰にも言わずに決闘を行った。このことがバレればお互い処分を受けるが、人も寄り付かない第五決闘場での出来事だったため、誰かにバレることは無かった。

 決闘の結果がどうなったかは今更語るつもりは無い。


「今言えることは俺は大丈夫ってことだ」

「ならいいけど」


 今回俺が村に帰るのはある目的のためだ。

 セシリアの縁談が五日後に行われる。

 この話は決闘の日に教えて貰った。

 俺が何しに村へ行くのかは決まってる。その縁談をぶち壊しに行くんだ。


 既に村に帰ったセシリアには何も言っていない。これは完全に俺のわがままでおこなっている、誰にも褒められることは無い行為だ。


「何しに行くのか、帰ってきた時には教えてくれる?」

「……そうだな、去年もこの前もクルーサは何も聞かずに俺について来てくれたからな、全部終わったら話すよ」

「なら俺ちんは待つだけだよん、行ってらっしゃい」

「あぁ、行ってくる」


 学園長に申請を出して学園の騎馬兵用の馬を借りた、怪我や死亡、病気など何らかの理由で返せなかった、返せても騎馬として利用できなくなった場合は罰金らしい。ある意味学校の備品だから当たり前だけども。

 旅の荷物を学園の門の前にとめていた馬に乗せて出発の準備を終える。


「君はセシリアと同郷と言っていたね」


 いきなり後ろから声をかけられた。

 その声は聞き覚えのあるキザな口調、宝石組ジュエリークラスルビーのシェルドフだった。


「それがどうかしましたか?」

「先日からセシリアの姿が見えなくてね、そこへ君が学園外へ行く動きを見せた、なにか関係あると思ったが間違いないだろ?」


 まぁ間違ってはいない。でもシェルドフの話している感じからしてセシリアが縁談に向かったという事は知らないようだ。


「君の向かう先に彼女はいるのだろ?」

「だとしたら?」

「一緒について行く」


 シェルドフもまたセシリアに惚れた男の一人なのか、だとしても恋敵と一緒というのは気が進まないな、俺の活躍を奪われそうな気がするし。


「それまたなんで?」

「僕は君が思っている以上にセシリアの事が好きだ」

「……ほう?」


 堂々と恋のライバル宣言をされた以上尚更連れていく訳には行かない。


「外出許可は出てるんですか?」

「そんなものこの僕にかかればすぐにおりるさ――」


「――許可できんな」


 自信満々な顔をしていたシェルドフは学園長の一言でその顔を歪ませた。


「何故です!?」

「今回アッシュ君の外出は先日の入れ替え戦でのご褒美だ、特例とも言える、本来なら外出するには戦士としての依頼を受けないといけない、何か依頼を受けたのかな?」

「いえ、それは……」

「なら大人しく学園に残りたまえ」

「ぐぬぬ……わかりました」


 案外あっさりと引き下がったものだな、もっと粘るかと思ったんだが。


「アッシュ君、彼女とはもう話したのかな?」

「彼女? 誰ですか?」

「そうか、すれ違ったのか……いいや、どうせすぐわかる」


 学園長が何を言いたかったのかは理解できなかったが、とにかく学園長の部屋から出た。シェルドフはなにかぶつくさ言いながら去って行ったので、今度こそ俺は学園の外に出れるはず。

 そう思って校門に行くと、今度はエリナがそこに立っていた。


「あ、アッシュさん!」

「何してんだここで?」

「今回の旅、学園長から特別に許可を頂きアッシュさんにお供することになりました!」


 そう目を輝かせながら喋るエリナ。なるほど、学園長の言っていた彼女とはエリナの事だったのか。

 正直言って村に帰る理由は到底人様に言える様なものじゃない、ましてやエリナには恥ずかしくて口が裂けても言えない。


「学園長から聞いたんですけど学園からアッシュさんの村まではかなり険しい道のりなんですね」

「まぁ簡単じゃないな、距離にしたらそれほど遠くはないんだが、途中で飛竜の谷を渡らないといけないんだ」

「ひ、飛竜の谷ですか」


 飛竜の谷とは、このグレイド学園がある帝都グイドルフォンが統治している大陸の三大難所として知られている所だ。民間人がその難所を通ろうとするなら、最低五人の護衛は必要、護衛と言ってもA級の力を持つ者が五人、A級とはグレイド学園で言うなら黄金組ゴールドクラス相当の実力者。つまりそういう事だ。


「そんな所を一人で渡ろうとしてたんですか!?」

「俺は抜け道を知ってるからいいんだよ……でもエリナが一緒だと使えるかどうか」

「え、私お荷物なんですか?」


 エリナが潤んだ瞳で見てくる。なんて顔をするんだ、純粋な男子には心が痛い。


「そういう意味じゃない! まぁなんとかなるよ」


 いつまでも話している訳にも行かない俺たちは、学園から出発した。

 縁談が成立するまでに村に帰れるかは抜け道が使えるかどうかで決まる。

 頼むから上手くいってくれよ。

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