第21話 中盤戦! 自由行動開始!

「明らかにさっきと動きが違う、魔法運用の身体操作まで、鉄組アイアンクラスで教わるはずのない技術を誰に教わったんだい」

「かっこいい獣人の先輩から教えてもらいましたよ」


 体内の魔力を魔穴から噴出せずに留めておくことで通常の動きを加速させたり、衝撃を倍増させたりできる。これは魔穴が縮んでしまう獣人が最も得意とする魔法、身体強化。でも外に放つ魔法を使えなくなるデメリットを持っている。だけど私の角は開閉自在の魔穴と言っても過言じゃない、だかこそそのデメリットを補える。

 獣人元来の力とこの身体強化が合わされば、人間の骨程度を砕くのは難しくない。


「女の子とは思えない馬鹿力だね」

「普通の女の子とは違うんです」


 身体強化で素早さも力も上がったはずなのに、それでもシェルドフさんに追いつけない。まだ何かが足りない。


「でもその程度で互角と思われたら、宝石組ジュエリークラスは名乗れないんだよ!」


 素早い連撃が全身を打ち抜く。目には見えているはずなのに体がついて行かない。

 私の限界よりも更に速く動いている。


「赤きルビーは力の証明、僕はね近接戦闘では学園で一番強いんだ」


 的確に急所を剣で叩かれた。体が痛んで上手く動けない。


「こんな無謀な戦い、すぐにでも終わらせよう……落ち込むことは無い、君たちの実力なら青銅組ブロンズクラスなら敵無しだろう、上手く相手を選べば白銀組シルバークラスにも勝てる筈だ」


 目の前に迫る刃、私は結局みんなのお荷物になっちゃった。もっと強くなりたかったな。


「……大丈夫? 助けに来たよ」

「え?」


 剣が寸前の所で止まっている。

 剣に巻かれた鞭がその動きを止めていた。


「愛の戦士クルーサが戻ってきたよん、キラキラストーン先輩……今からが第2ラウンドでっせ」



 ――――――――――遡るほど少し前



「マシャちん、大丈夫?」

「だ、大丈夫だよ……なんか全身が痺れてるけど、気合いで動ける」


 なんか急に動きが遅くなったと思って振り返ったら、マシャちんの左半身が針だらけになっていた。

 まさかの痺れ針、さすがはアサシン姑息だ。

 でもそれ以上にドワーフのタフさなのか、マシャちんは少し痺れる程度のような素振りを見せてる。


「でも左側にいるのは確かなんだよね〜気配は感じないけど」

「それに風で軌道をずらそうとしてもこの針自体が風魔法で飛ばされてるから速くてブレないんだ」


 シェルドフも言ってたけど、黄金組ゴールドクラスは魔法戦士のようなもので、魔法技術と戦闘技術どっちも高レベルなのが当たり前。厄介この上なし。


「とりあえず、走るしかないか」

「クルーサ君はすごいね、全然針刺さってないもん」

「なんか感じ取れるって言うか、バイストン先生の訓練で鍛えられたっぽいの、飛んでくるものを察知する直感力? わかんないけど」

「努力の賜物だよ、その努力を証明するためにもこの勝負負けられないね」

「当たり前っしょ、速くい――」


 言葉を言い終わる前に、右側の家屋が激しく弾け飛んだ。

 そして木材と一緒にアッちんが飛んできた。


「え? なんで急に!?」

「クルーサとマシャットさん! え、何その針、大丈夫なのマシャットさん?」

「僕は平気だけど、アッシュ君こそどうしたの?」

「すまないが、俺はこいつを倒すことに専念する、作戦は破棄……リーダーの俺が自由に動いちゃったからさ、みんなも自由に行こう! 負けたら俺を責めてくれ」


 アッちんの顔はずっと笑顔だった、どうやら念願の相手と対面できたみたい。

 そしてその相手が崩れた家屋から歩いてくる。


「あら、二人増えたのね……私は別にいいわよ、三対一でも」

「バカ言うな、一対一に決まってるだろ」

「なら誰も邪魔できない場所に行きましょ」

「望む所だ」


 そう言って二人は左側へそのまま抜けて行った。なんやかんやで楽しそうな二人、これは邪魔する方が野暮ってもんよ。


「アッちんから自由行動の許可が出たので私クルーサはお姫様の援護に行ってきます!」

「はぁ……わかったよ、氷山の敵とアサシンはなるべく僕が引きつけるから、必ず二人で宝石を砕いてくるんだよ」

「買い手がつかなくしてくるよん」


 ――――――――――


クズ鉄スクラップが二人になったところで僕には勝てないと言っておこう」

「どうかな、俺ちんは永遠の二番手、人を引き立てるのが得意なのさ」

「ほう、ならみせて――グッ!」

「時間稼ぎありがとうございます」


 エリナちゃんの右ストレートがシェルドフの頬にぶち当たる。大きく吹き飛ばされた彼は戦士の習慣か剣を放さない。だから巻き付けた鞭が生きてくる。


「拳の衝撃は逃がせても、直に全身ならどうかな?」


 全力で振り回し街の家屋にシェルドフを叩きつけた。

 そこで鞭がほどけた、この程度で倒れる相手じゃないのはわかってる。それでも宝石組相手に一矢を報いることが出来た。


「全く、学園長も見る目がない……なんでこんな優秀な生徒がクズ鉄組なんだろうね……久々に色々と頭にきたよ」

「ッ!?」


 いきなり飛び出してきたシェルドフの膝が眼前に迫る、間一髪で頭をずらし直撃は免れたが、頬を掠めひりつく。


「素早いのは認める、だが経験が違うんだよ!」


 膝と思っていたのはフェイントで、そこからシェルドフは体をひねりすれ違いざまに剣を振る。


「うぐっ」


 空中の無理やりな攻撃だからダメージは大きくないけど、戦いにおける大きな隙を作らされてしまった。


「メルエッナ!!」


 仰け反った視線の先には氷山、そこから飛んでくるのは氷の矢、避けれない。


「忘れたのですか? 私がいるのを!」


 いつの間にか傍に近づいてきたエリナちゃんが氷の矢を殴り砕く。


「サンキュー」

「ちっ」

「スクラップなめんなってことです」


 獣化して気も強くなっちゃったかな、ますます俺ちん好みになっちゃって。


 俺ちんもかっこいい所見せないとね。


「まだアッちんにも見せてない俺ちんの必殺技、見せてあげるよ」

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