第17話 戦闘開始
移動した先は学園外の特別区域、バイドロ学園長が所有する無人の街を舞台に実戦を想定して戦う。この区域に入るのは中間試験や期末試験など年に数回のみだ。
「あー現地に着くと余計緊張がますよ〜」
クルーサの言う通りこの場所には特別な気でもあるのか、足を踏み入れただけで身震いがする。
今回の入れ替え戦の立会人は学園長が直々に行うらしい。
期待の超新星セシリアとお気に入りの
だからこそ余計にむかっ腹が立つ、まぁこっちの一方的な思いには違いないが。
互いに最後のルール確認を終え、スタート位置へ移る。
それぞれ東西の待機所で戦闘開始の合図、つまりは敵が領地に入ってきたと言う警鐘が聞こえたら出動、敵の鎮圧に向かう。という筋書きだ。互いを領地に侵入してきた敵と思って排除する。
排除の認定は行動不能にするか、ワイヤーで縛り上げるかだ。
「ここまで来たらあとはやるだけだ、最初はエリナの鼻が頼りだからな」
「任せて、修行の成果も見せないとね」
今回の作戦の鍵はエリナが握っている。彼女の未知数の成長がどう作用するか。
待機所で少し座っていると激しい鐘の音がそこらから鳴り響く。敵が来たという知らせだ。俺達は急いで外に出る。
「アッちん危ない!」
外へ一歩飛び出した途端、頭上から氷の柱が降ってきた。クルーサに飛びつかれ何とか避けたが、互いの待機所は知らされていないはず。
「なんでもう場所がバレてんだ!?」
「違うよ、多分この魔法は無差別…ほら、そこらに氷の柱が立ってる」
マシャットさんの言う通り見える範囲で数十の氷の矢が街全体に散らばってる。
だとすれば魔力量が桁違いに多いぞ。
この魔法はセシリアじゃない。
「エリナ、臭いはするか?」
「一つだけものすごい速さでこっちに来てる」
「俺ちんたちナメられてる?」
「そりゃそーだろ、相手は
「――後手? 君たちに打つ手はないよ」
まさに一瞬、目の前に現れた人影に体が無意識で反応できた。それが無ければ直撃は免れなかった。
防いだからと言って無事とは言っていない。
相手の斬りあげに盾は弾かれ、間髪入れずに腹部へ蹴りが入れられ待機所内へ蹴り飛ばされる。
「改めて挨拶はしておこうか、僕は
「良かった、アッちんの予想通りで」
「どういうことだい?」
「やれ!」
手に持ったワイヤーを引っ張る。
さっきの蹴りで足に括りつけたワイヤーがシェルドフに隙を作らせ、残りの三人が畳み掛ける。
三人掛りでシェルドフにワイヤーをかける。さすがに油断していたのか、呆気なくシェルドフは捕まってくれた。
「宝石組もこんなものか、それともまだお遊びのつもりか?」
足のワイヤーを解きに立ち上がりシェルドフに近づく。
「これは一杯食わされた……だが君たちはわかっていないようだ、黄金組とそれ以下の差を」
「教えてくれよ先輩」
目の前に飛んでくる氷の矢、それをクルーサがムチで打ち落とす。
「今のを防ぐか、目がいいね」
「あんな遠くから魔法を打つなんて腕がいいな」
シェルドフの遥か後方、街の反対側の端に、大きな氷の山が出来ている。その上に小さく見える人影がさっきの氷魔法の使い手。
「さっきの続きだけど、黄金組以上には戦士科も魔導士科もない……全員両方できて当たり前なんだよ」
そう言ってシェルドフから鋭い風の刃が飛んでくる。
後ろに引かざるおえない状況で、シェルドフはワイヤーを魔法で切断し、再び立ち上がった。
「ありかよ」
「ありだよ」
こうなったらワイヤーでの捕縛は不可能だ、学園長が止めないという事は捕縛後に逃げれるなら逃げろって事だろ。実戦でも逃げられたらかえってピンチになるのは俺達だし。
「クルーサ、任せれるか?」
「やるしかないっしょ? なら任せんしゃい」
「全員、作戦を続行するぞ!」
クルーサが飛び出し、シェルドフにムチを振る。敵の剣に巻き付き、動きを止めたその瞬間に残りの俺達はそれぞれ細い路地へ逃げ込んだ。
「クルーサと言ったかい、君は捨て駒にされてしまったのか……可哀想に」
「何言っちゃってんの? 俺ちん別にあんたとやり合うつもりないし」
「どういうことだい?」
「だから……あんたの相手は俺ちんじゃないってこと!」
クルーサがムチに波を送り、シェルドフの剣を落とす。その時、シェルドフの背後の屋根からエリナが飛び降り噛みつきに行った。
「あなたの相手は私です!!」
エリナに向かって飛んでくる氷魔法をクルーサが打ち落とし、同時に走り出す。
「どう出るかと思えば、か弱い少女を僕に当てつけ、残りの戦力で賭けに出たということかい? 心底腹が立つよ」
「私がか弱い少女かどうか試してみますか?」
――――――――
ファングは前日に俺へ言った、エリナは既に並の戦士科以上に強い。
俺とクルーサ、マシャットさんは残りの三人をやる、だが今厄介なのはあの氷山の上に立っている敵、さっきまでの距離なら魔法を打つ間隔がかなり開いていたが、距離を詰めるにつれて狙いやすいからか間隔が狭くなってきた。この中で一番足が早いのはクルーサだ、アイツがあの氷山の上に行けるようにサポートしたいのに。
「どうしてかなぁ……お前は俺の予想を裏切る」
「でも、これがあんたの望みでしょ? パーティーで戦うより、これを望んでいたんじゃないの?」
「そうだな、正直言ってお前と戦えればあとはどうでもいい」
目の前にいる、遂にこの瞬間が来た。
みんなには申し訳ないが俺は一旦わがままにやらせてもらうよ。
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