第16話 叱咤激励

 遂にこの日が来た、月末の朝に俺たち四人は集まっていた。

 朝の授業は特別許可で休みを貰い最後の作戦会議をする。


「緊張してきたよ、本当にやるのねん」

「わ、私も……でもやってきたことを今日出すだけですよね」

「僕なんかこの間までまさかパーティーで入れ替え戦をするなんて思ってもいなかったよ」

「みんな思うことはあると思う、でも今日結果がどうであれ、みんなと戦えることを俺は嬉しく思うよ」


 今回の入れ替え戦、対戦形式を決める権利はこちらにある。少しでも俺たちが有利なものにしたいがまだ決めかねていた。四人で存分に力を発揮できるものがいいが、四対四の乱闘はあまり好ましくない、だからと言って勝ち抜き戦や三本先取のタイマンはこいつらにとって負担が大きすぎる。


「ちょっと、今彼らは作戦会議中だよ!」

「まーまーいいじゃないちょっと位……おっ邪魔しまーす!!」


「「「「!!!???」」」」


 いきなり外でバイストン先生が騒がしい声を上げていると思ってら空き部屋の扉が蹴り破られた。


「どーもどーも! 後輩たち、元気にしてるかぁい?」


 そこには長い深紅の髪をなびかせ、小気味良いステップで近づく眼帯の男がいる。

 赤髪で眼帯、この二つの特徴だけで相手が誰だかこの場にいる全員がわかった。その上その指に見えるのは照明の明かりに照らされ輝きを見せるダイヤモンドの指輪。

 宝石組ジュエリークラスのトップ、実質学園最強の男。


「僕の名前はユーリアスだよぉ」

「知ってますよ、学園最強でしょ? 何故ここに?」


 俺の問いにユーリアスは、少し口から息を漏らすような小さな笑いを出した後に答える。


「面白い事をしようとしてる後輩を見に来たのとぉ……いま友人に挨拶ってのも追加されたかなぁ〜」


 マシャットさんの方を見てそう言ったのか、三人の視線は目の前の最強から横にいる仲間へ向けられる。


「君がまだ僕を友人だとおもってくれてるなんてね」

「かつては一緒にパーティーを組んだじゃないかぁ……まぁだからこそ君の実力は知れてるけど、面白いことをしてるかなって思ったけど君たちには期待しなくてもいいかな、じゃあねぇ〜」


 まるで嵐のようにいきなり来たと思えばいきなり去って行った。


「マシャットさん、ユーリアスと同じパーティーだったんですね」

「入学したての時だよ、彼は僕と同じ年に入学したから」

「同級生か……みんな、今起こった事は一旦忘れよう」

「そだねん、なんかキャラ被ってた気がするし……」


 今ここでみんなの士気を下げる事は許されない。なのにあの男、俺たちに期待できないだと? 遠回しに勝てないって言ってるのと変わらないじゃないか。


「みんな、深刻そうな顔をしてるね」

「先生、情けない所を見せてしまいました」

「いえ、それは私もだよ……教員として彼を全力でとめるべきだった、それよりも!!」


 突然の大声にみんな驚く。

 バイストン先生は、今にも全員に殴りかかってきそうな表情でこちらへ近づき、全員を殴った。最後に俺を殴る時はみんなよりも強く腰が入ってた。


「な、何すんの急に!? 俺ちんたち今から入れ替え戦なんだよ!?」

「私たちな、なにか怒らせましたか?」

「あぁ怒ってるよ先生は……みんなの今の顔、戦う前の戦士がする顔じゃないね」


 その言葉に全員が先生から視線を逸らした。

 俺もその一人だった、無自覚なだけで俺の顔がみんなをさらに不安にさせてたんだ。


「他人の言葉で自分の実力を測るな! 君たちがしてきた努力は君たち自身にしかわからないんだ! 自分の実力を証明するのはいつも自分だけなんだ、他人じゃない、学園最強の言葉が全てじゃない! 君たちの心と行動が全てだ!」


 最後に笑顔を見せ、もう一度俺の元へ歩み寄ってくる。


「アッシュくん、もうわかってると思うけど、リーダーって言うのは実力だけじゃないよ、パーティーの中心は実力とそれ以上の魅力が必要なんだ……君の魅力は周りに“出来るかもしれない”って思わせてしまう所なんだから、そう思われるのは君の心が強いからだよ……自信もって」

「ありがとうございます」

「最後に……もし負けるかもしれないって思ってる子がいるならここに残りなさい、先生はそんな生徒を戦いに出さない、怪我をさせるだけだからね」


 扉の前に立つバイストン先生に全員が近づき、覚悟を決めた顔を見せる。


「うん、行ってらっしゃい……クルーサくんは機動力の要だから動き回って敵を翻弄してきな」

「余裕っしょ、行ってきます」

「マシャットくんは考えすぎずに、体の動きたいように任せるって手もあるよ」

「ありがとうございます」

「エリナくんは落ち着いて逆によく考えよう、君なら最適解が見えるはずだから」

「わかりました!」


 全員を外に送り出した後、俺も先生の前に立つ。


「戦いのルールは決めた?」

「真っ向勝負、四体四の乱戦、先に全滅した方が負け、武器は模造品、急所狙いあり」

「いいと思う、気を抜かないで……これは戦いの基本だけど、最後に勝つのは気持ちが強い者だよ」

「気持ちだけなら誰にも負けない自信がありますよ……いや、負けられないんです」

「吉報待ってるよ、君にはもう言うことはない」

「はい……行ってきます」


 何を言おうともう本番、あとはみんなを信じて戦うだけだ。

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