第15話 宣戦布告

「ごめん! まさか見逃してた地雷があったとは思わなかったのねん」


 模擬戦の結果は負けた。

 クルーサとマシャットさん側の戦いで、どうやらクルーサが地雷を踏み抜いたらしい。大きな怪我は無いが、服がボロボロになってる。


「大丈夫か? そもそも獣人パーティーでだいぶ不利だったんだこの善戦は大きい」

「いえ、私がもう少し速く動けてれば」


 みんな思う事があるだろう。残り十日の中でパーティーの課題点が見つかった、それだけでも大きな収穫と言えるはずだ。


「今日勝てなかったのは残念だが、今日負けたからこれから上手くいかないわけじゃない、残り少なくなった期間の間で俺たちはさらに強くなる」

「あったりまえよん」

「僕も負けない」

「もちろんです!」


 俺たちの課題は誰か一人が欠けると強みが消えてしまうという点。逆を言えば四人揃っていれば何も怖くない。だからと言って四人でずっと行動する訳にも行かない。

 やっぱり個人スキルの向上に目を向けるべきか、だが今回の例はあくまで三人と一人、四人パーティーでの課題はまだ見えてきていない。


「アッちん、一人で思いつめてるよ」

「え、あぁ……ごめん」

「俺ちん達を思っての事ってのはわかってるけどもっと色々相談してね」

「そうだな、気をつける」


 俺だけのパーティーじゃないってわかってる、でもそれ以上に俺のわがままに付き合ってもらってるんだ、俺がしっかりしないと。


「おい、俺様たちといー勝負した奴らがしけたツラァするんじゃねーよ」

「ファング、どうしたんですか急に」


 ターバンを巻き直したファングがこちらへ近づいてくる。さっきも気づかなかったけど、変装が上手いな。


「なんでもねーよ、そのメス今日から借りてくぞ」

「は?」

「え、わ、私!?」


 ファングがエリナを担ぎあげるとそのままどこかに行ってしまった。


「おい! エリナに何するつもりだ?」

「あ? わりー様にわしねーよ、安心しな」

「そんなんで見逃せるか」

「そーだそーだ俺ちんは断固反対!」

「借りんのは授業終わりだけだ、コイツをおめー達の何倍も強くしてやるよ」

「ならいいか」

「良くないよ! マシャちんも何か言って!」

「うーんこればかりは本人の問題だからね、エリナ君は?」


 マシャットさんがエリナに聞くと、エリナは何かを考えているように俯いていた。


「私……強くなれますか?」

「俺様が責任をもってつよくしてやる」

「ならお願いします」

「そんな……エリナちゃん、行っちゃやだよ……クソ!」

「お前よくロンディが辞める時と同じテンションになれるな」


 こうして初めてのパーティーでの戦闘は課題点も見つかりそこそこいい結果で終わった。

 月末まで残り十日、俺にはまだ残されたやるべき事がある。

 特に今回の模擬戦で俺は防戦一方だった。活躍の場がなかった。描写するほどの事をしてない。へこむ。


 授業が終わり、エリナ以外の二人がバイストン先生の元へ行ってる間、俺は黄金組ゴールドクラスの校舎に足を運んでいた。


「セシリア、今時間あるか?」

「別に、少しだけなら」


 いつものように冷たい視線を向けてくる。一体いつからこんな関係になったのか、今となっては思い出せない。


「村に帰った時俺の事話さなかったらしいな」

「居ない人間の話をしても面白くないでしょ? 別にあんたの親を気遣って黙ってたわけじゃないわよ、私が言いたくないから言わなかっただけだから」

「はいはい……そのさ、あんまり負い目感じるなよ」

「はぁ!? なんで私が!? あんたの為に? 笑わせないでよ」


 前からそうだった、人の嫌がることはしたくない奴だった。だからか他人の気持ちには人一倍敏感だった。

 あの時俺と戦った時も申し訳なさそうな顔してた。俺の性格を知ってるから――


『謝らないわよ、この学園は弱肉強食、私は強かった……それだけだから』


 ――あんな言葉を言わせてしまった。

 俺が強けりゃあんな顔させずに済んだ。


「で、話はそれだけ? 私も暇じゃないの」

「あぁ今から本題……鉄組アイアンクラスアッシュと、同じく鉄組のクルーサ、マシャット、エリナの四人は黄金組のセシリアに入れ替え戦を申し込む! こっちは四人パーティーだ、そっちも四人でこい……逃げないよな?」


 入れ替え戦の申し込み用紙をセシリアに突きつける。互いの代表者がサインをして学園に提出すればもう互いに逃げられなくなる。

 今この瞬間俺の鼓動は激しく動いてる。こんなにも動揺しているのは恐怖か、それともなんなんだ。でも俺の顔は笑ってる、速く戦いたい。


「わかったわ、また私に骨を折られても知らないんだから」

「黄金組から引きずり下ろされて泣くなよ」

「ふふ」

「ふっ」


 今のお互いの笑顔がかつて村にいた時を思い出させる。久しく顔を合わせて笑ったことがなかった。

 そうだ、俺はこの笑顔の為に強くならないと。まだ俺に休む暇はない。止まってる時間はない。


「何やら親しげに話しているようだが、僕も混ざっていいかな?」

「シェルドフ、入れ替え戦を申し込まれただけよ」

「ほう君たちは四人パーティーか……入れ替え戦面白いじゃないか、セシリアが新しく入った僕たちのパーティーの初戦としては……少し物足りないが」

宝石組ジュエリークラスとパーティーか、面白いじゃん」


 ここまでは予想通り、黄金組なんて殆どずっと同じパーティーで上がってきた奴らばっかりだ、そんなヤツらが飛び級のポッと出を欲しがらない。あの時からセシリアがこのパーティーに入るのは殆ど確定してるようなものだ。

 そして宝石組は他の宝石組とパーティーを組めない、シェルドフ以上の化け物は出てこない。残りの二人がどんな奴かは気になるが、明日から情報を集めるか。


「それじゃ、十日後」

「十日後ね」


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