第13話 風を味方に
クルーサ君が何とか逃げてるけど、獣人の身のこなしは流石だ、どこに居てもすぐに追いつく。僕は何も出来ない、目で追いかけるのがやっとだ。
「ちょこまかウザイぜお前」
「これも勝負だからねん、悔しいなら捕まえてみなよ」
「チィ……ねーさん!」
「わかっとるわ、二人で行くで!」
双子の獣人、思い出した。
二年前に変な話し方をする獣人の双子が噂になってた。姉のベルと弟のリィン、キャラクターだけじゃなく実力で噂されたのは去年から。これは手強い相手だ。
「クルーサ君、まだ動ける?」
「うーんまだバイストン先生1回分は」
「わかった、僕も頑張るよ」
言い訳は無し、僕だってパーティーの役に立たないと。
逃げるクルーサ君を追うリィン、そしてクルーサ君の動きを先読みして魔法矢を放つベル。
矢の軌道は直線、強い風で狙えば掻き消せる。
「二つのことを同時に、冷静に頭で処理して」
まずは目の前の敵に集中してもらえるように遠距離の相手を止める。
ただ量を吹き出すんじゃなく、魔力を噴出させる魔穴を限定して一気に吹き出させる。
「
「……やっぱり魔導師やったんか、ウチと一緒やん」
ベルが飛び上がり僕の魔法を軽々と避ける。
そして空中で体を回転させて地面を狙う形で弓を引いた。引いた手の指から数えられないほどの炎の矢が出現する。
「仲良くしよな――
笑みを浮かべながら矢を放つ、辺り一面に放たれた炎の矢は静かに燃えながら地面に溶ける。
「ウチの魔力がたっぷり注いでるから、踏んだり何か当たっただけでもボンッ! やで」
「地雷!?」
いつの間にか炎は消えていた。もう何処に地雷があるのか目では見つけられない。
「クルーサ君、地面は敵の罠があるから気を付けて」
「って言っても木の上だけで逃げるのはほぼ無理っしょ!?」
確かにその通り、目では見えないから降りれないだと動ける範囲が狭すぎる。
どうするか考えないと、まずはベルを止める、でも動けないし、リィンを狙う、それだとクルーサ君の邪魔になる。
『ここはお前の居場所じゃない』
「――ッ!」
いやだ、それだけはいやだ。
「ねーさんやりすぎだぜ、俺も動きずらくなってるぜ」
「あんたは臭いでわかるやろ、変な芝居すんなや」
「臭い?」
そうか、こっちが見えてないってことは相手も見えてないんだ。獣人は鼻がいいから嗅ぎ分けてる、だからなんだって言うんだよ僕がそれを知って何ができるの?
何かしないと、役に立たないと。
「マシャちん! 全身から風を出し続けて!」
「ど、どういう?」
「いいから!」
「仲間と会話とはナメられたもんだぜ!
クルーサ君の意図はわからないけどとりあえず魔力を練って全身から吹き出させる。
四方に髪を揺らす程度の風が行き渡った。こんな涼しくなる程度の風がなんの役に立つって言うの。
「まだだよ! もっと強く!」
「え、うん!」
これ以上は魔力が尽きそうだ、頭が痛んできた。でも仲間を信じてやれることをやらないと。
「くそっちょこまか鬱陶しいぜ、ねーさん! ちゃんと狙えよ!」
「狙ってるに決まってるやろ、その少年がすばしっこいねん!」
クルーサ君は流石だ、息を切らしながらもまだまだ動きは鈍っていない。だからこそ早くこの状況を打開したいのに、僕は風を出すことしか出来ない。
もっと強く、もっと、もっともっと!
「風強っ! 台風かいな」
「味方のドワーフ何とかした方がいいぜ、このままだと風で落とされるぜ」
「だね、俺ちんは落ちて怪我したくないから先に降りるよん」
「なっ!? 下には地雷があるぜ? わかんのか?」
「俺ちん記憶力最強だから」
クルーサ君が木から飛び降りる。一瞬肝を冷やしたけど爆発しなかったことを確認してとりあえず一安心する。
でもこれだとなんにも状況が変わらない、ここからどうするつもりなんだ。
「くっ……考えたな、なかなかやるぜお前」
「リィン! 早く降りて――そういうことか」
リィンが眉をひそめながら悔しそうな顔で見てくる。
「一体何が起こってるの?」
「風のおかげで臭いが流されてるんだよ、リィちんはどこに地雷があるか見分けつかないんだ」
まさかそのためにこの風を、全く思いつかなかった。
「でもこれだと僕何も出来ないよ?」
「だいじょうぶ! 敵に攻撃できなくても、移動としてたまたま敵が巻き込まれたら仕方がないよねぇ」
クルーサ君は腰につけていた鞭を手に持ちリィンがいる木の方をみる。
「まさかお前、守護対象からの攻撃はルール違反だぜ」
「よーし、あの木の枝に鞭を巻き付けてロープ移動するよーーーん!!」
まるで誰かに言い聞かせるかのように、大声で叫んだクルーサ君は鞭をリィンくんのすぐ横に巻き付けて強く引いた。
人一人を支えてるのだからある程度丈夫のはずなのにその枝は簡単に折れ、リィンが地面に向かって落ちる。
「ありぃ? 折れちった……テヘッ」
「絶対わざとだぁぁああ!!」
リィンが地面に着地した瞬間、小さな爆発が起こった。腕や足が吹き飛ぶ程ではないが、軽く殴られた位の衝撃はあるはず。
「このぉ……」
「今だよマシャちん! 地面に向けて風魔法を乱れ打ちして!」
「え、あ、うん! 残り魔力も少ないけど、やるよ――
僕の魔法と同時にクルーサ君が飛び上がる。
地面を削りながら進む空斬波は爆発を次々と巻き起こす。
「あーもうなんやねんこの魔力量! 全部台無しや、君たち強いなぁ腹立つくらいに」
「だからちゃんと狙えって言ってんだぜ」
「さっきから矢は慎重だし、打とうと思えばもう一度同じ魔法を出せたはず、やらないのは魔力量が足りないからかにゃ?」
「せーかいや」
すごい、罠をどう崩すかと同時に敵の分析まで行っていたなんて。相手の魔力が減ってきてるなら僕と同じ条件だ、まだ戦える。
「マシャちん、そろそろ石鎚使ってもいいよ」
「え、あ、そうだったね」
「もしかして忘れてたの?」
笑って誤魔化しておこう。
そうだ、僕は戦士科なんだ、魔法だけにこだわってちゃダメ、二つのことを同時に。
「よし、反撃だよ」
「俺ちんは逃げるだけだけど」
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