第12話 獣パラダイス

 森林フィールドを注意深く辺りを探りながら静かに歩く、だが敵の気配は少しも感じない。いるのは小さな動物位か。


 相手をこちらが先に見つけることが出来たら幾分か楽なんだけどな。

 村で狩りに出かけた時は親父の相棒の犬が居たからすぐに獲物を見つけられたんだけど、パーティーに犬なんて居ないし。


「ちょっと待てよ……犬?」


 俺は何かを思い出したかのようにエリナを見た。


「え、ど、どうしたんですか?」

「エリナはホーンウルフの獣人だったよな?」

「は、はい」

「この前自分のことイヌ科って言ってたよな?」

「そうですけど……それが?」

「アッちん、エリナちゃんを困らせたら俺ちん怒るよ?」

「違う違う! エリナなら敵の位置を突き止められるんじゃないかって思って」

「確かにエリナ君は獣人だから僕達より五感が発達してるもんね」


 なんで今の今まで忘れてたんだ、いや、今は自分を責めても仕方がない、こうなったら早く行動に移るんだ。


「エリナ、探してくれるか?」

「敵ならさっきからずっと私たちを囲んで着いてきてますよ」

「え?」


 その瞬間、目の前に炎の矢が通るのを見た。その矢の先にはクルーサが居る。


「避けろクルーサ!」

「ッ!?」


 咄嗟の事だったが何とか上体を逸らして避けれたようだ。

 しかし、敵の攻撃はそれだけでは止まらず、体勢を崩したクルーサの上から敵が降ってきた。


「三番!」


 予め決めていた作戦を伝え! 次の行動に移る。

 マシャットさんは降りてきた敵に突風を当て軌道をズラす、その間に体勢を建て直したクルーサは走り出した。

 恐らくこの瞬間に敵の殆どはクルーサの方を見るはず。その時にマシャットさんは地面と木々に向かって強い風を送る。土埃と葉っぱが視界を遮り、クルーサを一瞬でも見失わせる事が出来たはず。


 そしてその間に俺達も身を隠す。


 しばらく待っていると木の上から二人、さっきマシャットさんが吹き飛ばした一人が出てきた。


「意外とやるね、クズ鉄組かな」

「関係ねーな、俺様に攻撃を当てやがって……ぜってー殺す」

「ほらほら、怒るんは構わんけど追いかけんで、どんだけ頭が良くても実力が無かったら無駄やってこと……教えてあげな」


 クルーサが逃げた方向へ歩き出す三人、あの中に守護対象は居ない、なら一人で隠れてるのか。余程見つからない自信があるらしい。


「エリナ、さっきなんですぐに教えてくれなかったんだ?」

「すみません、静かにしろって言われたので」

「まぁいいよ、結果的にまだ負けてない」

「次は気をつけます」

「作戦三の五で行くぞ」

「……わかりました」

「頼んだぞ……行け」


 後はエリナを信じるしかない。

 俺は立ち上がり歩き去った三人の方をみる――


「――さっきのメスがおめー達の鼻か?」

「ッ!?」


 一人帰って来てた。いや、最初から場所がバレていたのか。だが一人はこっちに引き寄せれた。


「随分と弱そうじゃねーか」


 男がターバンを解くと、そこには顔全体に濃い毛が生えたクマ顔があった。


「あんたも獣人ですか?」

「俺様達も、が正解だ」

「全員だと……こりゃハードだな」


 全員が獣人だと逃げられないぞクルーサ。

 マシャットさんがどれだけ時間を稼いでくれるか、エリナがどれだけ早く見つけられるか。


「どーせすぐ終わるんだ、俺様の相手でもしてくれよ」

「おいおい、一人でいいんですか? あと一人追加してもいいんですよ?」

「見え透いた作戦だな、そういうのは俺様に勝ってから――」

「――ッ!」

「――言ってくれ」


 たった一歩の踏み込み、それだけで数歩離れていた差は埋まり、重い拳が腹にめり込む。左手に付けた小盾で防ぐ暇も無かった。

 相手のはるか頭上に浮いた。今までにない衝撃が腹部を中心に広がる。これが獣人のパワーなのか。


「これで終わりじゃーないよな?」

「なめやがって」


 後方にある木に両足をつけ、体勢を建て直しながら地面に降りる。

 腰に携えた剣を抜き取り、目の前の敵と向かい合った。


「中途半端な長さだなーグラディウスか」

「これくらいが動きやすいんですよ」


 短剣と言うには少し長く、片手剣と言うには少し短い、だがその分軽いし殺傷力も十分、だがあの熊野郎に歯が立つかはわからないがな。


「俺様は白銀組シルバークラス戦士科のファングだ、おめーの名は?」

鉄組アイアンクラス戦士科のアッシュです」

「おめーは獣人を差別してない、それはあのメスの目を見ればわかる、だからおめーは良い奴だ、俺様はおめーが気に入った、正々堂々戦士として一騎打ちだ」


 長い爪が生えた太い指にナックルを付けたファングが構える。

 思ったよりも良い奴なのかもしれない。だからこそこっちもその心意義に応えないといけないな。


 剣を構え直し、ファングにジリジリと近づく。落ちている木の枝を踏んだ瞬間が俺達の合図となった。


「うぉぉおお!!」

「ぐぉぉおお!!」


 ――――――――


 いつまで逃げても背中から感じる気配が遠ざからない。相手は僕達の居場所を見失ってない。


「クルーサ君、これ以上は体力が無くなっちゃうよ」

「そうだね、俺ちんも流石に疲れたし……でも相手はそうじゃないみたいだよ」


 クルーサ君が指さす方を見ると、木の上から二人が見下ろしていた。


「私たちからは逃げられへんで」

「獣の鼻をナメたらダメだぜ」


 ターバンを投げ捨てながら飛び降りてきた二人は、片方が猫耳を生やした可愛らしい少女で、もう片方も同じく猫耳を生やした可愛らしい少年。二人とも人間の部分が多い獣人、エリナ君と同じタイプだ。


「え、キャワワじゃん」

「クルーサ君! 今は敵だよ!」

「でも、あの耳モヒュモヒュしたいよぉ」

「うちらに勝たせてくれたらいくらでも触らせたるで?」

「ほんとに!?」

「クルーサ君!?」


 獣人好きなのは知ってたけどまさかここまでとは思わなかった、このままじゃクルーサ君が何するかわからない。


「でもごめんね、アッちんに怒られるのは嫌だから逃げさせてもらうよん」

「やっぱりそんな甘くないか」

「わかりやすい、さっさと殴ればいいんだぜ!」


 人間とは思えない身のこなしで僕の横を通り抜けた少年の獣人は瞬きの間にクルーサ君の目の前に近づいていた。


「もらったぜ!」

「クルーサ君!」

「――っぶねぇ……俺ちんがあんたより速くて良かったぁ」


 いつの間にか木の上に立っているクルーサ君、彼も人間とは思えない身のこなしだ。


「カッチーン、怒ったぜ?」

「捕まえてみな、子猫ちん」


 ――――――――


 臭いが確かならこの近くにいるはずなのに誰も見当たらない。

 早く見つけないとクルーサさんが危ない。私が感じた臭いが確かなら相手チームの四人全員が獣人、身体能力じゃ勝てない。


「私が頑張らないと」

「ふーんあんたも混ざり物なんだ……奇遇だね」

「ッ!?」


 声が上から聞こえてきた。

 その方向を見ると、そこには翼を羽ばたかせながら空に飛んでいる大きな女の子が。


「でも残念でしたーあなたじゃ私に届かないわよ」

「……有翼種」

「砂漠のデザートイーグルだよ、世界最大のわし……速さも大きさも全てあなたより上だから」


 そう言って女の子は一回羽ばたいただけで数十歩も先へ飛んでいってしまった。


「ほえー……はっ! 早く追いかけないと!」


 相手が飛んでても関係ない、なんでもいいから私の攻撃が当たればいいんだから

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