第10話 後輩指導

 さっきの鉄組アイアンクラスの生徒たちは全員が第四決闘場に来ていた。俺が無様に負ける姿を想像しているのかどれも汚い笑顔で見てくる。


「時間は授業終了の鐘がなるまで、ルールはアッシュくんが素手のみの金的や喉、目への攻撃禁止、ヨゼルくんはなんでもあり、双方意見はないね?」

「はい」

「せんせー俺の事なめてるんすか? 落ちこぼれ先輩も武器持って本気で来ていいんすよ?」


 先生の意図はある程度読めるが、俺をその役に使う意味はまだ理解出来ていない。

 だがほぼ白銀組シルバークラスの魔導師を相手にどれほど動けるのか。武器なし急所外しで戦えるのか。今の自分のレベルを確認にするにはちょうどいい。


「俺はこのルールでも別に構わないが?」

「はぁ、負けても言い訳しないでくださいよ?」

「アッちん! その生意気坊主をメッタメタにしてやれ!」


 言われなくてもわかってる。入学したてで周りより一歩先に行ってしまった奴はみんな調子に乗って天狗になり出す。その出鼻を挫くのが俺の役目だ。

 セシリアの時は誰もその伸びた鼻に触れることすら出来なかったけどな。


「お前、ヨゼルって言ったか?」

「そうっすけど」

「お前も武器用意するなら今の内だぞ、お前の魔法じゃ俺は倒せないかもな」

「はぁ?」

「うんうん、いい感じに場が温まってきたね! それじゃスタート!」


 バイストン先生の合図が聞こえたその瞬間、腹部に強い衝撃を受ける。


「うぐっ!?」


 土素材の床が隆起してそれが腹に当たったんだ。なんて速さだ、瞬きよりも一瞬だぞ。


「その程度っすか?」

「まぁこの程度だな」


 余裕な笑みを浮かべて相手にダメージが入っていないとアピールする。


「その顔ゆがめてあげますよ!!」


 地面に触れていないのに次々と土魔法が飛び上がってくる。魔穴の量か大きさが人並み以上なのか。溢れてる振動操作が細かくて速い。

 だが避けれない速度じゃない。

 バイストン先生の魔法弾幕に比べれば優しい。


「チッ……逃げ足だけは一流ですか?」


 土魔法を維持しながら今度は風魔法が飛んでくる。見えない空気弾が体にあたり肉を抉られた感覚に襲われる。


「ぐっ……痛ってぇなぁ」

「早く本気見せてくださいよ!」


 風魔法は空間の歪みをよく見るんだ。音もない、色もない、これだから厄介な風魔法は嫌いなんだ。

 ヨゼルの魔法を避けながら少しずつ距離を詰める。

 バイストン先生が異常なだけで、あの量の魔法を立て続けに出していたら普通は疲れを見せる。ヨゼルも今がまさにそうだ。


「早くくたばれよ!」


 一撃を狙って大技が飛んできた。手を地面につけ、天井まで伸びた地面が新しく大きな壁になる。それがこっちに倒れてくる。横にも広がっていて左右に退けるのは難しい。せっかく詰めた距離を捨てて後ろに逃げることも出来る。だがあいつと戦うなら少しもチャンスを見逃せない。

 お互い相手を視認できない。だがヨゼルは恐らくその場から動いていない。

 相手の頭の中には俺が押しつぶされるか、左右に飛ぶか、後ろに退くかの三択だろう。


「なめんなよ」


 俺は後ろに行き、倒れてきた壁に手をかけそれを飛び越える。


「魔導師相手には真正面から最短で距離を潰すのが一番いいんだよ!!」

「なっ!?」


 予想通り、少しスペースがある左側を見ていた。そのおかげで俺への反応が遅れている。

 倒れる壁の傾斜を利用して一気に駆ける。


「悪いな後輩よ、だから武器持っとけって言ったんだ」


 どれだけ魔力操作が速くて魔法の出が速いと言っても直撃寸前の拳より速いものはない。

 下顎部目掛けて振り抜いた拳は見事にクリーンヒット。後ろに飛んだヨゼルは壁にぶつかり地面に寝転がった。


「まだ終わってないぞ」


 俺はヨゼルの胸元を掴み、腹部へ拳をめり込ませた。


「脳が揺れて魔力が上手く練れないのか?」

「くそっ……落ちこぼれの癖に」

「二人ともそこまで、ヨゼルくん……今回の負けをちゃんと受け止めるんだよ……みんなも、戦士科のように近接戦闘を覚えろとは言わない、でも彼らを理解して、彼らの土俵に上がらないよう身のこなしを覚える必要がある、じゃないとこれから先痛い目見るからね」


 周りの生徒もバツが悪そうに顔を俯かせている。その中でクルーサは何故かドヤ顔で胸を張っていた。


「彼らはそれを知ったから魔導師科の授業を見に来てるんだ、この学園で強くなろうとしている生徒を笑う理由があるのかな?」

「……せんせい」


 なんでだろう、今はバイストン先生が大きく見える。


「だからこそ私は責任をもってみんなを育てるよ、戦士科にも負けないほど強くなろう! 私についてこい!」


「せんせー!」

「バイストン先生! あんたについて行きます!」

「先生かっこいい!!」


 生徒たちが一気に決闘場の中に流れ込んでくる。先生を囲って何故か青春活劇のような場面がそこにあった。


「あれ? 流れおかしくない?」

「上手く使われちゃったねぇアッちん」

「まぁでもこれで僕達は間違ってないってわかったしいいんじゃない?」


 俺の元にはクルーサとマシャットさんが来て何故か慰められてる。

 そこへヨゼルが来て悔しそうな顔で頭を下げてきた。


「先輩、さっきまでの無礼、申し訳ございませんでした」

「え、あぁ……どうしたんだいきなり?」


 急にしおらしくされたらこっちの反応に困る。


「正直いってなめてました、先輩だけじゃなくて周りのヤツらと上のクラスの人たちも……でもクズ鉄組の先輩でこのレベルなら上はもっと強い、俺はまだまだです」

「それは違うっしょ、アッちんより弱い青銅組ブロンズクラスなんて沢山いるよ」

「そ、そうなんすか?」

「どうだろうな、まぁ今月末に俺は黄金組ゴールドクラスに入れ替え戦を申し込む、時間があったら見に来い」

「わ、わかりました」


 正直いってヨゼルの魔法レベルはセシリアに少し及ばない程度、だからこそこいつは強い、俺が勝てたのは戦闘経験の差が大きいからだ。ペース配分や感情のコントロールを覚えたら次勝てるかは怪しいだろうな。だからこそ余計にセシリアの化け物地味た強さが目立つ。そして俺は今回攻撃を全部避けきることは出来なかった、緊張感が足りないなんて言い訳はしない、まだ俺は弱い。


「行くぞ、明日からは俺達も新しい授業があるからその為に準備しないと」

「え、扱き以外に授業あるの?」

「あーもうそんな時期か」


 マシャットさんは流石に理解したようだ。


「今日は適性テストだろ、なら明日からは三学科合同のチーム訓練だ」

「そうか……去年は戦士科三人で組んだから実感なかったけど、もうそんな時期なんだね」

「戦士科三人って時点でかなり異質だったからな、でも今年は違う」


 新しい学期で級友の実力を知るための20日を過ごしたあと、パーティーを組むことになる。パーティー人数は自由、各パーティーの人数によって担当する先生が変わり、そのパーティーに合った訓練をする。この合同訓練チーム訓練は鉄組と白銀組シルバークラス、青銅組と黄金組の2クラス体制で行われる。最後の追い込み所だ。


「それじゃバイストン先生、また夕方に」

「今日はありがとう、このお礼はその時にたっぷり返すよ」

「お、お手柔らかに」

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