俺が書いたネット小説の唯一のファンは、隣の席の美少女でした
春野 土筆
プロローグ ―連載小説、完結―
「あ、あのさ…………俺、秋月さんのことが――」
その言葉を口に出した瞬間、二人の空気に緊張が走った。
もう取り返しがつかないことだということは十分に分かっている。でも、彼女と過ごしてきたこれまでの日々を考えると、卒業という二文字だけでこれまでの関係が終わってしまうことが、とてつもなくつらくて、悲しくて、どうしようもなくて。
俺はどうしても、ずっと彼女と一緒に居たかった。
これからも彼女の屈託のない笑顔を見たかった。
「――ありがとう、新山君」
俺からの告白に、最初の内は驚いたように瞠目していた秋月さんだったが、しばらくしてから透き通るような笑顔を返してくれる。
同時に一筋の涙がゆっくりと頬をしたり落ちた。
「ずっと…………待ってたんだよ?」
あふれた涙を指で拭いながら、はにかむように呟く秋月さん。
その表情に大きく心臓が跳ねた。
だが、俺が彼女の表情にドキッとしたことを彼女が見逃すはずもなく。秋月さんはさっきまでの涙は演技と言わんばかりの笑顔になって。
「あっ、今テレたよねっ!それじゃあ、帰りはパフェの奢りということで!」
「……そ、そんなぁ!」
こんな時でもいつもと変わらなく俺のテレた判定をしてきた。今日は真面目に告白しようと決めていたから、判定してくるなんて思っても見なかったけど。
まぁでも答えがOKなら、奢ってもいいんだけどさ…………ん?
その時、フッと水面を打つように疑念が湧く。
もしかして今までが全部演技だったとしたら、さっきのOKも演技としてなかったことにされてしまうんじゃないか?
それに、紅白がなかったことにされるばかりかこのまま俺たちの関係も終わってしまうんじゃないか??
「あ、秋月さんっ…………告白の答えって…………!」
咄嗟に、彼女の背中に問いかける。
すると彼女はスカートを軽く揺らしながら振り返って。
「新山君にはこれからもずっと奢ってもらうんだからっ!」
そう言って俺の手をギュッと握ると、秋月さんは心底嬉しそうに破顔した――。
完
※
「――っと、完成した~!」
ふぅ~~~、と大きく息を吐きながら伸びをする。
一体どれくらいの時間が経ったのだろう。
時計を確認すると、時間は深夜2時を回っていた。ということは、かれこれ3時間以上も連続で書いていたらしい。明日から(正確には今日からだけど)学校が始まるというのに、興が乗ってしまい時を忘れて筆を進めてしまった。
GWだというのにずっと家の中で小説を書いていた俺だけど、まさか最終話を書き終えるのがこんな夜遅くになるとは思っていなかった。もうちょっと早めに完成させようと思ってたんだけど。
大まかな道筋は決めていたのだが、いざ書き始めると主人公達の言動と物語の進展との違和感を抱いてしまい、なかなか筆が進まない時間が続いた。その反動で、一度進み始めると筆が止まらなくなってしまっていたのだ。
うんうん唸っている時間も含めると最終話に何時間かけたのか分からないけど。しかし、それまでの苦労とは裏腹に疲労は一切感じられず、むしろ心は充実感に満たされていた。
物語を完成させたというその喜びが、感慨が胸に去来する。
だって、それもそうだ。
この一年間ずっと書いてきた小説が、やっと終わったのだから。
初めて小説投稿サイトに投稿した小説が、完結したのだから。
軽く休憩を取った後、書き上げた最終話を一通り見返す。
『新山君と秋月さん』という名前で始めたこの小説は、高校一年生の頃から小説サイトで連載し始めた。何も一年間も続けようとは毛頭考えていなかったのだが、気づけば一か月二か月…………と続いてゆき、一年間かけて完結する長編小説となっていた。
内容は主人公の新山君と転校生の秋月さんと繰り広げるゆる~い日常を描いた小説で、大したフラグとかはなかったんだけど、あれこれと手を変え品を変え話を繋いでいき、最終的になんとか50話まで書くことができた。
まぁ、日本語が変だったり、内容的におかしかったりする所もあるけれど。
それはそれとして、我ながらよくここまで書くことができたと思う。
「それじゃあこれをアップして…………」
誤字・脱字がないかチェックした後、これまで連載中となっていたアイコンを完結済に変えて小説サイトにアップする。
それを見ると、完結した充実感だけではなく何だか淋しい気持ちもふつふつと湧き上がってきた。決してたくさんの人に読まれている、という訳じゃないんだけれど一年間大切に育ててきたものが終わってしまったことで、心にポッカリとした穴が開いたような寂寥感に襲われる。
改めてこの小説が「自分のライフサイクルになってたんだな~」と実感した。
こんな気持ちになるんなら、たまに小説を書いていくということもありなのかもしれない、などとこの先も趣味で小説を書いていこうと思ってしまうあたり、既に小説の毒牙にかかってしまっている気がしないでもないけれど。
「最後も@fireflyさん、コメントくれるかな……」
小説のフォロワー欄から、フォロワーを確認する。
そのほとんどが俺の所属する文芸部員のアカウントという、ただ内輪の連中が俺の書いたラブコメ小説を楽しむ状態という、地獄のような中に唯一入っている純粋なる俺の小説の熱烈な読者。
話をアップする度にすぐに小説を読み、そして毎話ごとに「今回も面白かったです!」など結構ちゃんとしたコメントをくれる方で、正直この人がコメントしてくれたことがここまで小説を続けてこられた要因だった。
もう書くの止めようかな……そう思う度に励まされていた。
小説を書くたびにもらえる感想や意見は書く方にとって、書くことのモチベーションとも大きく関わっていて。小説を書くことと同時に、彼からのコメントへ返信を返すことも小説を書く楽しみとセットの楽しみになっていた。
上げてしばらくは少し期待してしまうものの。
でも、さすがに丑三つ時。
いつ、何時でもすぐに俺の小説をチェックする@fireflyさんといえども、この時間帯にアップされれば、すぐに読むことはないだろう。
実際pv数もまだ0だし。
まぁ、俺も明日に備えて寝るとするか。
無事に小説をアップした俺は、パソコンの電源を落として布団に潜り込んだ。
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