第32話 煮卵。
「一発だ。」
「は?」
「残り一発。我輩はそれを撃てば攻撃をやめよう。」
「……こちらとしてはありがたいけど…………かなり面倒なのが来るのね。」
「それは勿論だ。我輩の中でもベスト5位には入るくらい優秀な物だからな。」
「……ふぅん。(さっきのよりも強い…?明らかに広範囲だろうし、避けるのは無理そうね……。)」
堕天の女は、そこで覚悟を決めた。
「では行くぞ!」
そう言うと、手を上に振り上げた。魔力が集まり、凝縮されていく。
「最初に一つ言っておこう……この技はよくダサいと言われる!なんでかは知らんがな!」
「は?」
こんなときに何を言い出すの?と、怪訝な顔をしていると、
「笑うなよ。これでも会心の出来だ。
『火龍の煮卵』!」
「は?」
壊れた玩具のように同じ言葉を繰り返す。
「煮卵って……。えぇ……。」
そんな雑なネーミングセンスで良いのか………。大抵初見の人間はそう思うだろう。だがこの『煮卵』。何の因果か地球で言う原子爆弾に少し構造が似ている。違うのは威力を自由に変えれるのと、原子核などが魔素、と呼ばれる物に変わっているだけだ。
「……熱くなってきたわね………。これは……熱波…?あの球体から?……直撃なんてしたらとんでもないわね…。」
「さぁ行け!『煮卵』!」
それは動きはゆっくりだったが、段々とときが経つに連れて大きくなっていく。温度も次第に上がっていく。もしこんな物が街中で放たれれば30分と経たずに崩壊してしまうだろう。
「……でも、残念だったわね。」
「時間のことか?この技を相殺するなど、中々出来ることではないぞ?」
「相殺じゃないわ。」
「ほう?では何と言うのだ?」
「押し潰すのよ。」
次の瞬間、『煮卵』の熱気が段々下がり始めた。
「む?弱火…?我輩は触ってはいないのだが……これは…っ⁉︎いつの間にこの場所に仕掛けていたのだ⁉︎」
「今気づいても遅いわよ、バーカ。ふんっ。」
「ぐっ、防御を展開しようとこれなら貫通されかねん!……真っ向から受けるのみ!」
「馬鹿ね。それに当たればあなたでも生きていられる物ではないわ。『クロノ・フリーズ』。」
その瞬間、熱波が全て消え去った。それどころか、温度も下がってくる。
「ぐっ……なるほど……これは流石に我輩でも……。」
その言葉を最後に、魔族は氷の像と化した。
「ふ、ふふふっ!やった……やったわ……後は……あれを繋げて帰るだけ…。頑張れ私。」
一体何が起こったのか。
それは例の『煮卵』に予測型の式を設置、そして起動させたのだ。これは簡単に出来る事ではない。だが、この堕天は経験と慣れ、勘と技術が合わさってやっと成功した物だ。
「後少し、後少しで帰れる……。」
この時の失敗は、この氷の像を砕き忘れていたことだろう。まぁ、砕こうとしてくだける物でもなかったが。
そして、完全に忘れられた獣人もまた、忘れていたことがこの堕天の者の枷となった。
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「………なんか凄い音しなかったか?」
「だよね〜。何かちょっと暑いし……。何だろう?」
「上から一瞬ですが魔力の波が来ましたよ〜。何かあったのではないでしょうか〜?」
「私もそう思う。もしかしたら天井を突き破って出てくるかも…。」
「え”、マジすか逃げましょうよ。」
もうやだ。危険なこと、ダメ、絶対…と言いたいとこなんだけど……。
「え〜ヤダよ折角だしもうちょっと楽しんでいこうよ〜。」
「それは同意しかねますね〜。私としては一刻も早く帰りたいです〜。」
「………でも私はここにもうちょっと居たいかな〜……。」
「………なんでですか。」
「えっとね…ちょっと離れてて…。」
あれ?俺が離れるの?とか思っていたら。
「…そうですね〜、私ももう少し居たいような気がしてきました〜。」
あるぇ?何を吹き込まれたの?
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