神威機士

「お、おぉぉぉぉぉおおお! 我らが〝神〟がご光臨なされた!!」

「アレが……予言にある人類を滅ぼす大災害。施しのアウグストゥス……」


 森の高台――そこでトーマスとヘンリードは戦闘の様子を眺めていた。

 米粒ほどに思えるレッドファングと、天にそびえる施しのアウグストゥス。


「ヘンリードよ。人類を滅ぼす――ではありません。〝神〟は協力者以外の人類を滅ぼすのです」

「なるほど、さすがトーマス枢機卿。協力している我々の教会は無事なのですね」

「もちろん、そのために街でなく森で呼び出して――」


 遠くに見えるアウグストゥスは超巨大な口をガバッと開き、輝きを溜めてから熱線を放った。

 それは地面から空へ滑るように大地を斬り割いていく。

 その直線上には――


「あぁ!? あの方角には我が教会が!?」


 赤い線を引いたかのように街が切断されていた。

 トーマスは顔面を両手で抑え、絶望の表情を見せていた。

 そこへ二人組がやってくる。


「あんなバケモノを神と崇めていたのですか、トーマス枢機卿」

「お、お前は聖女マリア!? どうしてここが!」

「我が〝神〟が見つけ出してくれましたわ」


 マリア、それとユリーシアの頭上には小型ドローンが浮かんでいた。

 周囲を警戒中に、高みの見物をしていたトーマスとヘンリードを発見したのだ。


「神……だと? その金属が?」

「ええ、神ですわ」

「なんたる不敬。施しのアウグストゥス様を差し置いて……」

「自分の教会を焼かれたのに、ですか? 狂信者というのは滑稽ですわ」


 その言葉にトーマスは頭から湯気を出すように怒り、ヘンリードに指示を出した。


「どちらにしろ祝福の力は邪魔だ。殺してしまいなさい」

「はっ!」


 ヘンリードは剣を構えてスタスタと歩く。

 余裕のある表情だ。


「土の精霊よ、我に力を貸し給え――ストーンランス!」


 ユリーシアが石の槍を放つ。

 ヘンリードはそれを軽々と剣で弾く。

 余裕のある表情は、圧倒的な力量差から来ているのだ。


「オレは元上級冒険者でなぁ……」

「上級冒険者!? たしか、ギルドにも数パーセントしかいないっていう……」

「そのオレを倒せるはずが――グォォオオ!?」


 突如、何かの破裂音と共にヘンリードの鎧が大きくへこんだ。

 何をされたのか理解ができない。


「倒せますわ――我が神の力! この銃なら!」

「銃!? 何だそれは!?」

「たっぷりと味わって理解してくださいませ!」


 マリアは手に十字架型の銃を持っていた。

 それは七面天女が作ってくれたお守りだ。

 お守りは邪を退け、幸福をもたらしてくれる。


「わたくしは今、幸福ですわ! ハッピーですわ!!」


 その十字架型の銃は、いわゆるマシンガンというやつだ。

 引き金を引けば弾数重視の機構が火を噴き、相手を蜂の巣にする。

 マリアは銃撃の振動とマズルフラッシュの点滅によって脳内の快楽物質が分泌され、トリガーハッピー状態に陥っていた。

 その顔は信仰とは程遠い、銃の聖女だ。


「あら、的がなくなってしまいましたわ? 次の的に――」

「ひ、ひぃぃぃいい!! 降参だ、出頭する! だから命だけは許してくれ!!」


 銃弾の雨によって穴だらけになってしまったヘンリードを見て、トーマスは泣き叫びながら命乞いをしていた。

 マリアは笑顔で答える。


「貴方は神を信じますか?」


 向けられる銃口――それがマリアにとっての神なのだろう。

 軽すぎるトリガーを引く。


「ヒギャアア!?」

「あら、弾切れ。残念ですわ」


 トーマスは白目を剥きながら、股から聖水を垂れ流して無様に気絶していた。


「……聖女様、こっわ」

「ふふ、ユリーシアさん。神のおかげで心身共に強くなっただけですわ」


 ユリーシアとしては、絶対に怒らせないようにしようと心に刻み込んだ。


「あとは――」


 遠くで戦っているレッドファングと大災害級の方を眺める。

 どうやらレッドファングが持つ銃では、大災害級の魔力防御を抜けないようだ。

 全弾撃ち尽くしても大災害級は無傷の状態。


「アユム様は勝てるでしょうか……?」

「勇者様なら大丈夫」


 不安げなマリアに対して、ユリーシアは自信満々に言い切った。


「なぜです? あんなにも大きさや力に差がありますわ……」

「私、ちょっとだけ勇者様が育った地球というところの話を聞いていたんです」

「地球……?」

「この世界よりも科学が発展した世界。でも、この世界と同じように〝大災害級〟が現れて、人類の殆どが空へ避難してしまったらしいの」

「アユム様の世界でも大災害級が!?」

「向こうでは名前が違って〝魔王〟って呼ばれていたとか。もう地球の終わり――地球語アルファベットの最後であるXYZ・・・の状態。でも、それを倒してZYX・・・――終わりから世界を逆転させた一族がいる」

「もしかして、アユム様もその一族……」

「そう、体内に魔力とは違う、エーテルというエネルギーを発生させることができる伝説の存在――神威機士」


 二人は神と神の戦闘を眺める。

 そこには赤く輝きだしたレッドファングが見えていた。

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