人類を滅ぼすモノ

 この世界は地球とは違う。

 剣と魔法の世界――というだけではなく、人類が晒されている脅威もまた違うのだ。

 小さなモンスターなどは獣と大差無く、魔石などの素材が取れるために共生状態になっているところもある。


 しかし、ここ数年出始めた存在――災害級モンスターはあまりにも強力すぎた。

 生態系という概念から外れた生物で、まるで人類を殲滅するためだけに行動するようなモンスターだ。

 強さも通常とは違い、冒険者がパーティーを組んで対応に迫られる。


 そのために対応する冒険者ギルド、商人ギルド、教会などが勢力を伸ばしてきた。

 そして一年前――その災害級を束ねるような〝存在〟が一国を滅ぼしたことから世界は大きく変わり始めた。


「トーマス枢機卿。聖女マリアとそれを匿ったであろう冒険者二人の行方が掴めません。あの祝福の力は野放しにすると厄介です……」

「それなら一緒にいた森番のハーフエルフの線からいきましょう。幸い、街では無理ですが――森なら我らが神にご降臨願えます」


 天からの神々しい光が降り注ぎ、両腕を広げるトーマスをキラキラと照らし出す。


「そう、我らが神――壱の大災害級アウグストゥス様のご降臨です!」




 ***




 その日、一つの国が死を覚悟した。

 城の対策室で王は臣下たちに叫ぶ。


「魔術通信の報告は確かなのだな……!? こんな急にネストリンゲン付近の森に現れるとは……ありえないだろう! 何のために今まで準備してきたというのだ!?」

「教会が管理する感知用の魔道具が反応するはずです! それがなかったということは……感知をすり抜ける力を得た大災害級か、教会の内部で裏切りが……」

「どちらにせよ……対応できる時間はない……終わりだ……」

「――いえ、待ってください! 距離の離れた王都からでも感知できる何かが大災害級に向かって行っています!」

「何だと!?」


 もたらされたのは死ではなく、ただ一人への驚愕だった。




 ***




『システムオールグリーン、ZYXレッドファング――戦闘システム起動します』

「本当にエルフの村って狙われやすいな。ったく、どんだけの数で来てるんだコイツら」


 以前に戦った約7メートルの災害級ベヒーモス。

 その大軍・・が木々を雑草のように薙ぎ倒しながら向かってきている。

 レッドファングに乗ったアユムの背後にあるのはエルフの村だ。

 ユリーシアとの別れ際に言われたことを思いだしてしまう。


『たぶん私のせいで……村が狙われて……。どうかお救いください勇者様……どうか……』


 普段は腹黒エルフで気が強そうに見えるが、その彼女が悔しげに涙を見せたのだ。

 アユムとしては冗談交じりに『やってみるさ』と言いながら、背を向け戦地に赴くしかない。


「質量差は何倍くらいあるんだろうな」

『計算……241倍と推定されます。増え続けているのでカウントを続けましょうか?』

「タチの悪いAIジョークだ」


 その241倍の敵を、背後のエルフの村まで行かせないように戦わなければならない。

 普通に考えたら正気の沙汰ではない。

 しかし、アユムは敵が手強ければ手強いほどにこう考える。


「楽しそうだな、今回の戦いは!」


 レッドファングは6メートルほどの機体に銃器を山ほど装備していた。

 それも旧世代の実弾を使ったレトロチックな銃器だ。

 ZYXが装備できるサイズに拡大したアサルトライフル、スナイパーライフル、サブマシンガン、ヘヴィーマシンガン、ガトリングガン。

 それらを両手、両腕、両肩に装備している。

 種類がバラバラなのは今現在、試しながら作っている最中だったからだ。

 ドローンで赤龍の周囲を探っていったところ、エルフの村に災害級の軍団が近付いていると知って急いでやって来たため、準備時間が足りなかったのだ。


「撃ち尽くすぞ!」


 地面を踏ん張る形のレッドファングは、一斉に射撃を開始した。

 マズルフラッシュで激しく明滅、空気が震え、轟音が響き渡る。

 ただの実弾ならばベヒーモスの魔力防御を打ち破れないのだが――


『グォォオオオ!?』


 先頭を走っていた数匹のベヒーモスが弾け飛んだ。

 遠距離からの攻撃は、魔術でも無い限りダメージはあり得ないので混乱しているようだ。


「マリアの祝福、これは実弾との相性抜群だな……」


 撃った本人も驚いてしまうほどだ。

 先にマリアに祝福をかけてもらったのだが、巨大なZYX用の装備にも適応されるかはぶっつけ本番だったのだ。

 スナイパーライフルの一発が、戦艦の巨砲一撃くらいになっているように見える。

 これならいける、とアユムはトリガーを引き続ける。

 実弾ならではの弧線を描きながら、ベヒーモスの集団に吸い込まれ、敵を破裂させていく。

 しかし、ベヒーモスたちもやられてばかりではない。

 レッドファングが弾切れになり、動きが止まったところを野生の勘でチャンスと捉えていたのだ。

 口から火球を吐き出してこちらを狙ってくる。


「おっと!」


 レッドファングは弾切れになった銃器類を切り離しパージして、身軽になった状態で回避した。


「おかわり頼む」

武装おかわり、転送します』


 レッドファングに再び銃器が転送されてきた。

 ズシンと機体がトン単位で重くなる。

 少し形が違うが、試射して最適化された物なのだろう。

 トリガーを引くとブレが素直になっている気がする。


「これも祝福済みか、ありがたい!」

『申し上げにくいのですが、鉱物資源が尽きたのでラストです』

「わかった、なら――!」


 ベヒーモスの軍団に押し勝つ形になり、レッドファングは前進して戦線を上げていく。

 これは背後にあるエルフの村を巻き込まない形にするというのもあるのだが、もう一つの目的があった。

 先に七面天女から提案されていたのだ。

 そんなに大量にいるのなら、災害級を素材にしてみては? ――と。


「頼んだぞ、七面天女!」

『恥ずかしいのであまり見ないで頂けると助かります』


 照れが入った声が聞こえたあとに、大きく金属が軋む音が大地に響き渡った。

 全長50メートルはある最新鋭艦の赤龍が――地面を歩いていたのだ。


「たしかに……すごい見た目だな……」

『緊急時なのでしょうがないじゃないですか、アユム艦長の馬鹿』


 飛ぶ機構を修理できる状態ではないので、多脚戦車のような脚をSRSシステムで強引に作って取り付けてある。

 ようするに――蜘蛛のような見た目だ。

 最新鋭艦にも見えないし、ましてや赤龍という名前からもかけ離れすぎている。

 それがベヒーモスの死体の上にやってきて、腹の部分がバグンッと開いて捕食するような形になっている。


「……えっぐい」

『レッドファングの機能を停止させますよ?』

「すみませんでした」


 弾切れだ。

 赤熱化した銃身の武器を捨てて、次の転送を待つ。

 すると――何やらナマモノっぽい外見の銃が送られてきた。


「……撃てるの? コレ……」

『ユリーシアさんに教えて頂いた魔術との合わせ技の銃です。暴発しても腕が吹き飛ぶだけなのでご安心ください』

「ナイスAIジョーク……だよね?」


 本当だったらシャレにならないが、今は撃ってみるしかない。


「南無三! たぶん俺が!」


 ナマモノ銃はマズルフラッシュの代わりに、銃口から魔力らしい輝きを出しながら、銃弾を発射していた。

 ナマモノ銃自体が興奮しているのか、ドクドクと血管らしきモノが脈打っている。

 構造とかは絶対に聞きたくないと思ってしまった。




 それからはナマモノ銃でベヒーモスを倒し、その死骸でナマモノ銃を精製して転送する――という永久機関を完成させた。

 しばらく続けていたら、ベヒーモスの軍団は数が尽きたのかやってこなくなっていた。

 だが――


「ボスのお出ましってやつか」


 頭に角の王冠を頂く超巨大ベヒーモスが――天から覗いてきていた。

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