SRSシステム

『まずは簡単な形状の物から作成します。といっても捨てるだけの物を作るのは勿体ないので――』


 格納庫と繋がっているSRSシステムルームの扉が開き、何かがフワフワと浮かんできた。

 それは百合の花をモチーフにした髪飾りだった。


『ユリーシアさん、親愛の証にどうぞ受け取ってください』

「わぁ……これすごい精巧な彫金じゃないですか。ありがとうございます」


 ユリーシアが浮いている髪飾りを手に持つと、その裏側に手の平サイズの何かが飛んでいた。

 目が合うとペコリとお辞儀をしてきた。


『そちらは当艦の分身のようなモノです。ナノマシンで作ってみました』


 一瞬、妖精のように見えたが、どうやら小さな天女じぶんをモチーフにしているらしい。

 可愛らしいフィギュアサイズ幼女に見えなくもない。

 顔見せが終わったのかすぐに去って行った。


「せめて人間サイズなら彼女に……いや、性格的にメインヒロインじゃないよなぁ……」

『艦長アユム、聞こえてますよ』

「すみませんっした」


 アユムは死にたくないので素直に謝っておいた。


『髪飾りはご満足頂けたようなので次の段階に移ります』

「髪飾りの次って、何を作るんだ? ファンタジー世界だし、金属の板繋がりで剣とか、鎧とか?」

「フリントロック銃です』

「一気に進化したな……」


 今度は小さな七面天女では持ってこられないのか、ワゴン型のロボットがフリントロック銃を乗せてやってきた。

 フリントロック銃は、かなり初期の銃だ。

 日本人的には火縄銃に近い、という方がイメージしやすいだろう。

 博物館に残っているかも怪しい骨董品だが、アユムは祖父から撃ち方を教わっている。


 ユリーシアとマリアが興味津々でそれを見ている。


「アユムさん、これはいったい? 杖?」

「んー、これは銃と言って……なんと説明すればいいのか」


 この世界に銃がないのなら、武器として使える火薬の概念すらあるか怪しい。

 なんといっても便利すぎる魔術が普及してしまっているのだ。

 そうなると、手っ取り早く理解させるためには――


「こうやって持って、こうやって使うと――こうなる」


 弾込めや火皿の準備は完了してあったので、誤射防止で中程だった撃鉄をカチッと一番後ろまで引いてから引き金を引く。

 七面天女が先回りして用意してあった的に弾が命中。


「どうだ、これが銃だ」


 アユムとしては、ここで驚かれるリアクションを期待していたのだが、どうも違ったらしい。

 ユリーシアは何やら考え込んでしまっている。


「うーん……弓、みたいなもの? それだったら使い物にならないですね」

「そうなのか? 俺たちの世界だと剣は飛び道具によって出番が無くなっていったけど」

「そりゃ飛び道具は強いですよ。主に魔術ですが」

「魔術がよくて、弓と同じような銃がダメな理由は?」

「魔力が籠もっているかの差です。ええと、つまり――」


 ユリーシアが言うには、ある程度の使い手になると身体を魔力でガードするのが当たり前になるらしい。

 それを打ち破るのもまた魔力で、近接の場合は剣や拳に魔力を通して中和するのだそうだ。

 魔術の場合も同じような原理で攻撃が通る。

 しかし、弓などの場合は特殊なスキル持ちを除いて、途中で魔力が霧散してしまう。

 だから、現在でも剣などの近接が冒険者の主流となっているのだ。

 では、アユムの光剣はなぜ魔力防御無視できるのか? となると、仮説としては死ぬほど威力が高いから――である。


「なるほどなぁ……」

『次は実弾のアサルトライフルを作ってみました』

「話を聞いてないな、というか一気に時代が飛んだな……」


 大昔に地球で使っていたアサルトライフルがワゴンに乗って登場した。

 こちらはフリントロックより撃つこと自体は簡単なので、安全装置を解除してからコッキングレバーを引き、的に向かって引き金を絞る。

 先ほどまでとは違い、弾の威力も高いし、連射も利く。


「すごい攻撃力ですね……。でも、やはり魔力が籠められていなければ――」

「あの、わたくし言い忘れていましたが、祝福のスキルで矢にも魔力を付与できますわ」

「さ、さすが聖女様……」


 ユリーシアは驚いているが、アユムとしてはいまいちピンとこなかった。

 そこで実際に試して見ることにした。


「マリア、ちょっとアサルトライフルに祝福をしてくれないか?」

「はい、機械の神のために祝福を――」


 マリアが手を合わせ目をつぶって祈りを捧げると、アユムが持つアサルトライフルが薄く輝きだした。

 何かいけそうな気がしたので的に向かって狙いを定めた。


『艦長アユム、嫌な予感がします。ストッ――』

「えっ?」


 もう引き金を引いてしまっていた。

 アサルトライフルから放たれた銃弾は的を簡単に吹き飛ばしながら、後ろの赤龍装甲板にめり込む。

 穴は開かなかったが、かなり凹んでしまった。


『艦長アユム……当艦に傷が』

「すみません、本当にすみません」

「わたくしも……すみません……」


 とりあえず祝福の威力が証明されたので、原始的な物理銃でも何とかなるとわかった。


『今のSRSシステムの習熟度だとこのくらいですね。もっと資源と時間をかけて強化していきましょう』

「本来の技術水準に戻るにはどれくらいかかるのやら……」

『本来の技術水準? それ以上までいく予定ですよ』


 何やらとんでもないことをサラッと言った気がする。

 そう考えると、封印されている赤龍の格納庫部分にはどんな得体の知れない物が入っているのか……。


『あとはレッドファングにZYX用物理銃を用意して、周囲警戒用の簡易ドローンを複数作っておきます。これで教会の騎士団が攻めてきても問題ありませんね』

「ああ、対処できるはずだ」


 しかし、アユムはこのとき気付いていなかった。

 教会が――この世界がもっと恐ろしい存在を抱えていることを。

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