転移ポータル
「うおおおおおお!! 腐っても一緒にPTを組んじまった奴らだ! あいつらは好きじゃねーけど、テメェらはもっと好かねぇ! この先へは行かせねぇぜぇえええ!!」
職員用の仮眠室の前で、十字騎士団と張り合うコルザの姿があった。
人数差があってもみくちゃにされているが、何とか張り合っている。
さすが、曲がりなりにも中堅冒険者だ。
「うーん、邪魔ですネー。ヘンリード、やってしまいなさい。もちろん血で汚さないようにデース」
「枢機卿の御命令とあらば」
コルザも背は大きい方だが、ヘンリードはさらに大きい。
しかも筋肉量で横幅も大きく、威圧感ある甲冑がさらに巨体を際立たせている。
「な、なんだテメェは! このオレを絶対防御のコルザ様と知っての――」
「フンッ!」
ヘンリードはコルザの頭を片手で掴み、軽々と持ち上げて投げ飛ばした。
コルザは壁を突き破りながら白目を剥く。
「グハァッ!?」
「どうぞ、枢機卿。道が空きました」
冒険者ギルドの周囲は十字騎士団が包囲しているため、窓からの脱出もできない。
出入りも監視しているので変装して逃げることもないし、建物の構造からして地下への隠し通路などもないだろう。
つまり、絶対に逃げ場はない。
「うむ、では――」
笑顔のトーマスが扉を開けると――そこはもぬけの殻だった。
***
「こ、ここはどこですか……?」
「急ぎだったから、転送ポータルでちょっとね」
アユム、ユリーシア、マリアの三人が転送されたのは赤龍の格納庫内だ。
格納庫は赤龍の中でもかなりのスペースを取っているのでそれなりに広い。
アユムからすれば見慣れているが、ファンタジー世界住人の二人からしたら金属で出来た床や壁というのは珍しいのかもしれない。
それに転送も初だろう。
ちなみに転送ポータルとは、設置した場所と赤龍を繋ぐことができる〝門〟だ。許可が無い者には感知すらできない。
「すごい……」
「あ、あれは神様だわ!!」
もちろん、格納庫なのでレッドファングも置かれている。
マリアはそれを見て歓喜の声をあげているのだ。
「……? お眠りになっている?」
ただ単に起動していないだけだが、神様として見たら眠っているように見えるのだろう。
そして、興味はアユムの方にも向かってきた。
「そういえば、まだアユムさんが神様と声が一緒の理由を聞けてないわ。どうしてなの?」
「う、それは……」
面倒臭いから全部正直に話そうとしたのだが――
「もしかして……神様の声を代わりに伝える
「えぇ……さすがにそれは――」
巫女さんの男バージョンということだろう。
すぐにアユムが否定しようとしたところ、館内放送で聞き慣れた声が響いた。
嫌な予感しかしない。
『その通りです、聖女マリアよ』
「ど、どこからか声が!?」
『当艦は神――そう、あなたが機械の神と呼ぶ存在です』
「おぉ、神よ……! でも、何やら声が違う……?」
『………………それは当艦が力を取り戻すまで、そこのアユムを通していたからです』
「なるほど!」
『そこにある機械の身体も、この船も……どちらも身体の一部なのです』
「わたくしたち人間には理解できないですが、そうなのですね!!」
聞いていたアユムは『そんなわけあるか』と突っ込みたかったが、今からではもう遅そうだ。
マリアの目がグルグルと渦巻いていて完全に信者のそれだ。
ユリーシアも都合がいいのか黙って頷いている。
「えーっと、それで話を戻したい……と、神様こと七面天女も言っている。だよな?」
『ええ、当艦は神でありながらも力を取り戻していないので、その間は艦長アユムに任せています。続きをどうぞ』
「わかりましたわ! アユムさんの言うことなら何でも聞きます!」
「……今、何でもって」
アユムの脳内に何でもという〝何でも〟が浮かび上がってくるが、必死に煩悩を退散させる。
神の名を騙って悪事を働いた者の末路は悲惨なことになるのはお約束だ。
せめて神の名を騙るのなら善事を成そう。
「それでマリアさんにはショックかもしれないけど、トーマス枢機卿とヘンリード騎士団長は悪人かもしれない。なぜなら――」
「はい、わかりましたわ! 神の代理たるアユムさんが言うのならそうなのでしょう!」
「えっ、納得するのはっや!?」
アユムはようやく理解した。
マリアは信者というより、狂信者のそれに近い気がする。
100%言うことを聞いてしまうのなら、下手なことは言えない。
これなら、まだ半信半疑で疑われながらの方がやりやすいだろう。
「あー……まだ俺たちはこの世界にやってきたばかりでだから、教えて欲しいことがあるんだ」
「神の世界から降臨なさったばかりなのですね!」
「まぁ、そういう解釈でも……。それで教えて欲しいのは、教会側の戦力だ」
「戦力……うーん、そうですわね。先ほどいた街――ネストリンゲンには駐在してる十字騎士が数十人くらい。教皇様が御座す本国――聖国なら数万人規模の十字騎士がいるので、呼べばそのいくらかは……」
「つまり今すぐ警戒すべきは数十人程度か」
騎士団の印象は、ヘンリードを除いて中級冒険者程度の立ち振る舞いに見えた。
それが数十人と仮定するなら特に問題はなさそうだ。
しかし、援軍として数万人規模となると厄介かもしれない。
なるべくなら話し合いで解決がよさそうだが、少なくとも急いでマリアを殺したがっていたトーマスとヘンリードはすぐに手を打ってきそうだ。
「とりあえず、数十人規模を相手にできるようにしておくのが良いか。七面天女、SRSシステムは使えるか?」
『試運転を要請します』
「わかった。今日、送った材料で色々と試してみてくれ」
アユムは商館で色々と買って、その場で赤龍に転送を済ませてある。
鉱石や薬品、石油まであった。
この世界では石油は燃料としてではなく、主に錬金術で使うらしい。
その内ここでも化学が発展するのかもしれない――と思ったが、便利な生活魔術が出回っているので化学文明ルートへは進まない気もする。
「さぁ、楽しい図工の始まりだ」
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