聖女を救え!

 緊急クエストの内容。

 街から少し離れたところにある岩山での救助依頼だ。

 聖女と名高い教会の秘蔵っ子が、そこで突如として護衛を振り切って行方不明になったらしいのだ。

 強いモンスターは出ないが、地形的な意味で厄介なので判断力のある冒険者が必要ということらしい。


「な、なんでオレがコイツらとパーティーを組まなくちゃ……」

「ザコ奴隷、何か言いましたか?」

「なっ、何でもないですユリーシアさん!!」


 ゴツゴツとした岩山の地面に苦戦しながらも、アユム、ユリーシア、そして不満げなコルザが進んでいく。

 少しコルザが可哀想なので、アユムはこっそりと話しかけた。


「な、なぁコルザ……別に本当に奴隷になる必要なんてないんじゃないか……? 俺としてはそういうのは気にしないしさ……」

「意外とテメェ、良い奴だなアユム……! しかし、コレばっかりはどうしようもないんだぜ……。決闘に負けて約束を破ったなんて評判が立ったら、冒険者としてやっていけねぇ……」

「冒険者も大変なんだな……」


 冒険者はフリーランスのお仕事なので、個人の評判が大事になるのだ。

 約束事を破るような冒険者はクエストをお断りされる可能性も高い。


「でもまぁ、この緊急クエスト自体はオレも興味があるぜ! なんてったって聖女様だしな!」

「聖女様? その人を助けるらしいけど、どんな人なの?」

「ククク……目ん玉飛び出るほどの美人らしいぜ。しかも乳がデケェ!」

「美人……おっぱい……」

「おっ、アユム。テメェも男だな!」

「い、いや……俺は別に顔とか体型で女の子を選んでいるわけじゃないし!」


 21世紀カルチャーオタクのアユムとしては、貧乳キャラも大好きである。

 しかし、巨乳キャラもそれはそれでとても好きなので否が応でも期待してしまうのだ。


「で、でもまぁ、正直なところお近づきになりたい。聖女というのなら性格も良いのだろうし! 性格が良いのがメインヒロインの条件!」

「性格……それはちょっと、噂で聞くとアレな感じだとか……」

「アレとは?」

「死ぬほどお堅い性格で、神に全てを捧げているとか何とか。いわゆる高嶺の花ってやつだぜ」


 神に全てを捧げているというのなら、冒険者がお近づきになるのは難しいかもしれない。

 だが、それはそれでハードルの高いお堅いヒロインとして燃えるものがある。


「ちょっと、二人とも何コソコソやってるんですか? そろそろ目標の場所に到着しますよ」


 ユリーシアが目的の場所と言ったところは、岩山でもさらに険しい場所となっていて、モクモクと湯気のようなモノがたっているのが特徴的だった。

 アユムは日本でその光景を見たことがある。


「こ、これはもしかして天然温泉があるのでは!?」

「いえ、そういうのではないです。これはただの湯気ではなく……」


 ユリーシアは無表情でコルザの背中を押した。


「えっ?」


 コルザは湯気の中に入っていってしまう。

 しばらくして戻ってきたのだが――全裸だった。


「こうなります」

「……どうしてこうなった」

「この湯気は装備を劣化させてしまうという恐ろしい効果があるのです」


 ファンタジーすげぇな、とアユムは感心した。

 それと同時に、この地帯で遭難しているという聖女のことを心配してしまう。


「これじゃあ、聖女さんが全裸になっているんじゃ!? 大変じゃないか!!」

「ちょっと嬉しそうなのは置いといて、装備が劣化するだけじゃなくて、長時間吸い込むと意識が混濁して倒れてしまうという効果もあって割とシリアスです。しかも視界、熱源、魔力も乱されて魔術で感知できない。なので、緊急クエストになっていたのだと思います」

「なるほど、迂闊に飛び込めばミイラ取りがミイラになるということか」


 言った後でミイラ取り~はファンタジー世界では伝わらないコトワザかと思ったが、翻訳機が上手くやってくれたらしい。


「そういうことですね。正攻法としては、三人で手分けして短時間だけ捜索……ですかね。それにしてもこの濃い湯気の中で見つかるかどうかというのもありますし、我々も意識が混濁してしまえば危険です」

「これは確かに冒険者になったばかりのランク1ができるようなクエストじゃないな。仕方ないからアレZYXを使うか」

「……アレですか! となると――」


 ユリーシアは察してくれたのか、全裸で放置されて悲しい目をしていたコルザの方を向いた。


「奴隷、私たちは反対側を探しましょう」

「えっ、でも……」

「いいから、いいから。言うことを聞かないとまた靴を舐めさせますよ」

「ヒィッ」


 ユリーシアとコルザは見えないところまで行ってしまった。


「よし、見られて面倒なコルザはいなくなったな。七面天女、頼む」

『ZYXですね。転送、了解しました。成分的に劣化ガスは防げますが、くれぐれも装甲を壊さないように留意してください』


 目の前に牙のある赤い鉄巨人――人型同化兵器ZYX〝レッドファング〟が転送されてきた。

 アユムはそれに乗り込む。

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