ランク1が緊急クエストを受けられる裏ワザ

「冒険者適性Fのアユムが……コルザを倒した!?」

「そんな馬鹿な!?」

「信じられない……あの光る剣はいったい……」


 俺何かやっちゃいましたか、というよりこうなる予感がしていて、やってしまった感じだ。

 予測可能、回避不可能である。

 さぞ頭の良いAIである七面天女は、先のことも何か考えているのだろうと思ったのだが――


『こんなことで騒ぎになるとは。人間とは小さいですね。AIが支配した方がいいのでは?』


 とか世界を破滅させそうな思考をしている無能だった。

 この七面天女の一連の言葉は、通信でアユムにしか聞こえていないので、この場のアユムたちがどうにかするしかない。

 まずは光剣について言い訳をしよう。


「こ、この光剣は店で買った魔道具なんだ。光るだけであとは普通の剣と何も変わらない、普通の威力。うん!」

「へぇ、商会が新たに量産でもしたのかな。暗いダンジョンだとたいまつ代わりに便利そうだな」


 よし、誤魔化せたとガッツポーズ。

 事前に偽装の方向性を決めておいて良かった。

 しかし――


「でも、コルザの『どんな攻撃も絶対に防ぐ』って言ってた盾を一撃でやっちまったんだろ? アレはどういうことなんだ?」


 しまった、状況的にただの店売り魔道具だと言い訳ができない――と気が付いてしまった。

 コルザの方は本当に貯金をはたいて買った効果のあるものだろうし、それを光剣が軽々と打ち破ってしまったのだ。

 どうすればいいのかと、頭を悩ませてしまう。

 それを見かねたのかユリーシアがコクリと頷いて、サムズアップをしてきた。

 何か穏便に済ませる方法を思いついてくれたのだろう。

 持つべき者は友である。


「おい、コルザぁ……」

「ど、どうしたんだハーフエルフの女……」

「テメェ、ゴミみたいな欠陥品の盾を買わされて、イキってんじゃねーよ!」

「ヒィッ」


 急に口の悪くなったユリーシアは、尻餅をついていたコルザに向かってヤ○ザのように怒鳴り散らし、ヤク○キックを入れている。

 アユムは呆然としてしまう。


「あと、ユリーシア様と呼べ。約束通り、負けたテメェはもう私たちの奴隷なんだからなぁ!!」

「いだっ、いだだだ!? わ、悪かったって、いえ、オレが悪かったです。許してくださいぃぃい。ゴミみたいな盾を一生懸命貯金して手に入れてイキってごめんなさいぃぃぃいい」


 それを見て冒険者たちは『なんだ、あの盾は粗悪品だったのか』と納得して、ユリーシアの苛烈な攻めプレイを眺めていた。

 しばらくそれが続き、濁った瞳のコルザがユリーシアの靴を舐めて綺麗にし終わったところで騒ぎは収まった。

 ユリーシアが笑顔でアユムに近付き、こう言ってきた。


「無事に乗りきりましたね!」

「乗りきったの!? 強烈なインパクトで流れたけど、あんまり無事には乗りきっていない気がするよ!?」


 あとに残ったのは人間の尊厳を失って横たわる奴隷コルザと、敗者に対して鬼のような二人組という評判だった。


「お家に帰りたい……いや、ダメだ。何のために冒険者ギルドに来たんだ俺」


 多少の現実逃避をしつつも、当初の目的である資金稼ぎを思い出して踏ん張る。

 カウンターにいる受付嬢に話しかけた。


「あの、クエストを」

「ひっ!?」


 メチャクチャ怖がられている。

 気持ちは分かる。

 あのユリーシアと同類だと思われているのだから。

 それでも何とかしなければと思い、精一杯の引きつった笑顔で受付嬢に接した。


「ふ、ふへへ……」

「ひぃい!? 犯される!?」


 童貞の引きつった笑顔は逆効果だったらしい。

 この瞬間、可愛い受付嬢さんと恋人になる線は粉々に崩れ去った。


「生きるって……難しいな……」


 悟りを開きそうなアユムだったが、ユリーシアがスッと間に入ってきた。


「ごめんねぇ~、受付嬢ちゃん。その代わりと言ってはなんだけど、お詫びにエルフの香水をあげちゃう」

「こ、香水ですか?」

「商会に卸してるんだけど、王侯貴族の間で流行っているらしいんですよ~」

「そ、そんないい物を!?」

「アナタだけに特別。ほら、私も使ってるんだけど~」


 ユリーシアは手首を受付嬢の顔に近づけた。

 受付嬢はクンクンと匂いを嗅ぐ。


「良い香りですね~……これなら仕事中でも平気そうです」


 アユムは気が付いていた。

 ユリーシアは一瞬にして、自然と距離を詰めていたのだ。

 男だったら警戒心を持たれてしまうが、女性同士なら問題はないし、しかも受付嬢からする香水の匂いで推理、ニーズを掴んで共通の話題を引き出している。

 とんでもないナンパ力だ……!

 いや、違う。今必要なのはナンパではなくクエストだった。


「あ、あの……それで俺たち二人でも受けられるクエストを探しているんだけど……」

「はい、クエストですね」


 どうやら受付嬢のご機嫌が取れて、まともに話してくれるようになったらしい。

 アユムはホッと一安心した。


「えーっと、今来ているクエストですと~……ないですね」

「ない!?」

「ええ、ペット探しも、街の中だけで済ませられて人気なので取り合いなんですよ。それ以上の難易度だとランク1お二方のパーティーでは……」

「ランク?」

「ランクは依頼をこなしていくと、評価次第で上がっていく感じですね。せめてランクの高い方がパーティーにいれば、緊急で入ってきているクエストもあるのですが……」

「うーん、ランクが高い奴か~……」


 そんな都合良くランクが高い知り合いなんて――


「あ、いた」

「ヒィッ!?」


 逃げようとしていたコルザと目が合った。

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