光剣VS絶対に攻撃を防ぐマジックアイテム(新品)

 溜め息を吐きながらカードを受け取ると、身分証に必要な名前などがすべて記入されていた。

 これも魔道具の一種なのだろうか、便利な物だ。


「冒険者適性Fか~……無事に冒険者をすることができるのだろうか……」

「い、色々なクエストがあるので大丈夫ですよ! ペット探しとか、草むしりとか、結婚式の招待客のサクラとか……!」


 優しい受付嬢さんの励ましの言葉が痛い。

 というところで、聞いたことあるような声が背後から聞こえた。


「おいおいおいおい、テメェは森にいた大嘘吐き野郎じゃねーか! 冒険者適性Fってザコ過ぎて信じらんねぇ……ダァハハ!」

「誰だったっけ……」

「もう忘れたのかよテメェ!?」


 アユムが首を傾げていると、ユリーシアがこっそり――ではなく全員に聞こえるように大声で教えてくれた。


「あー! アレは私をナンパしてきた金髪ロン毛野郎ですよ! キモかったので振っちゃいましたが!」

「ヒーヒヒヒヒ。コルザ、おめぇ森番のハーフエルフさんをナンパしようとしてたのかよ。身の程を知れって」

「まぁフラれたのは納得だよな~」

「ギャハハハハ!」


 どうやら色恋沙汰はどの世界でも話の種になるらしい。

 冒険者たちが大笑いをしている。


「くっ。お、オレから振ってやったんだ。汚らしいハーフエルフなんてな!」


 さすがにユリーシアを侮辱しすぎなのはイラッとしたので、何か言ってやろうと思ったのだが――


「……おい、森番さんにそういうことを言うな。冗談でも度が過ぎると〝追放〟するぞ?」

「ひっ!? あ、あはは……冗談っすよ、冗談……」


 ご意見番さんがマジメな顔で殺気を漲らせていた。

 コルザは明らかにビビっている。

 流れ的には、代わりに言ってくれたご意見番さんに感謝なのだが、そこで一つ疑問が浮かんだ。


「なぁ、ユリーシア。森番って何なんだ?」

「あー、森を管理しているんです。あの村の者たちで。それを森番と言います」

「へー、それってすごいのか?」

「ずっと以前の初代国王から頭を下げられての管理なので、森番を怒らせると街の経済が死にますね。ちなみに私は村長の娘です。職権乱用して森に入ってきた人間を本当に殺すこともできます」

「……こっわ。ユリーシア様って呼ぶことにするわ」

「いや~、それはご遠慮致します」


 森というのは資源の宝庫である。

 木が無ければ薪は作れないし、薪がなければ鍛冶どころか人間的な生活もできない。

 生息している動物やモンスターなどの素材がなければ飢えて死ぬ者も多いだろう。


 冒険者にとっても死活問題だし、王侯貴族が狩りを楽しむための場所でもある。

 それを管理するために、森に詳しいエルフに頼むというケースが多い。

 人間が森を歩くことができるのは、ただ単にエルフから〝お目こぼし〟をもらっているだけなのだ。


「……くそっ、どうしてオレがこんなことに。そうだ、冒険者適性F野郎が悪い! えーっと、名前はなんて言うんだ」

「アユム。七搦歩ななからげあゆむだ」

「変な名前しやがって……テメェに一対一の決闘を申し込むぜ!」


 決闘……というのは異世界でなくとも存在しているので何となく理解できた。

 しかし、決闘罪は平気なのだろうか? と疑ってしまう。

 チラッと冒険者たちを見てみる。


「おー、いいぞ。やれやれ!」

「死ななきゃサービスで回復魔術を使ってやるぞー!」

「アレでも中堅の冒険者だ、コルザに銀貨五枚」

「心情的にはアユムに賭けたいが、魔力ゼロで冒険者適性Fじゃなぁ……こっちもコルザに銀貨十枚だ!」


 どうやら決闘をしてもいいらしい。

 ついでに賭け事もセーフだとわかった。


「了解、決闘をしようじゃないか」

「へへ……それじゃあ表に出ようぜ。テメェの血で床が汚れちまうからなぁ……!」

「勇者様……私、不安なのですが……」


 ユリーシアが心配そうな目で見てくる中、アユムとコルザは冒険者ギルドの外へやってきた。

 そこでコルザは背負っていた盾を手に持って見せてきた。


「この盾を見ろよ、すげぇだろう?」

「普通の盾に見えるが……」

「ハハハ! これだから冒険者適性F野郎は! いいか、これはオレが先ほどの成功報酬と貯金を全てはたいて買った魔道具だ! 防御の魔術がかけられていて、どんな攻撃も絶対に防ぐ!」

「どんな攻撃も!?」


 アユムはプルプルと震えていた。


「おいおい、ビビっちまったかぁ。おねしょには気を付けろよぉ?」


 アユムが震えていたのはそういうことではない。

 魔道具の話を聞いた七面天女が密かに通信をしてきていたからだ。


『――アユム様、もう一度言いますよ。今後の装甲の参考になるかもしれないので、あの盾を光剣で真っ二つにしてみてください』


「ハーッハッハッハ! オレ自慢の盾! ここから、この血肉を分けたような相棒と共に数年――いや、数十年とオレの絶対防御伝説が続いていくんだ! 雨の日も風の日も、ショーケースに飾られているコイツを買うために頑張ったからなぁー!」


 あんなに嬉しそうに買ったばかりの盾を自慢しているのに、それを真っ二つにしろというのだ――AIには人の心がないと確信した。


「あ、あの……コルザ。折角の新品の盾だし、傷が付くといけないから決闘は止めにしても――」

「あぁん? 冒険者適性F野郎の攻撃で傷が付くはずねーだろう!? すげぇ耐性あるんだからなぁ! 思いついた、この決闘はテメェが盾に傷一つでも付けられたら勝利、それ以外は負けということにしてやる!」

「えぇーっ!?」


 どうやら逆効果になってしまったらしい。

 頭痛が痛い、もとい頭が痛い案件だ。


「ち、ちなみに俺が負けるとどうなるんだ?」

「そうだなぁ……あのハーフエルフをオレの女にしてやんよ! 逆にテメェが勝ったら、オレがテメェの奴隷にでもなってやらぁ!」

「うーん、勝っても嬉しくないから俺が負け――」


 ユリーシアが未だかつて無い、凶悪で般若のような黒い笑顔を見せていた。


「………………いっや~。私、最初は震えるほど心配していたんですよ。勇者様が勢い余ってコルザをぶっ殺してしまわないか。でも、今はもう心配していません。殺せ」

「ヒィッ」


 腹黒ハーフエルフ、人の心がないAI――そのメインヒロインたり得ない女性たちから圧を受けて、アユムは顔面蒼白だった。

 もうやるしかない。


「それじゃあ決闘開始だオラァ!」

「ごめんね……ごめんね……コルザ……」

「顔を背けながら何ブツブツ言ってんだ、怖じ気づいたか? 死ねぇ!」


 コルザは随分とスローな動きで盾を構えつつ、剣を振ってきた。

 普通ならアユムが攻撃しても、盾に防がれてしまうのだろう。

 しかし、アユムは自然とわかっていたのだ。

 あの盾は斬れる――と。


「マジでごめん……けど、やらなきゃ俺も殺られてしまうんだ……」

「……は?」


 一閃――コルザの想いが詰まった盾は半月のように真っ二つになっていた。

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