冒険者に大嘘つき呼ばわりされる

「な、なぁ……ユリーシア」

「なんですか?」

「大変なことになっちゃってるんだけど……」


 アユムは目の前の光景にガクブルと震えていた。

 火、火、火――山火事が発生しそうになっていた。


「うわあああああ山火事って大犯罪じゃん!? 俺、異世界に来てすぐ大犯罪者になって捕まっちゃうの!?」

「それなら心配ご無用です。このユリーシアにお任せを」


 ユリーシアは手をかざすと、呪文を唱え始めた。


「水の精霊よ、我に力を貸し給え――ウォーターランス!」


 その魔術の名前の通り、水で構成された槍が虚空から出現して、燃え上がるトレント周辺に降り注いだ。

 かなりの水圧のようでバンバンと弾けながら火をかき消していく。


「す、すごい……これが魔術」

「えっへん、精霊の力を借りた初級水魔術です」

「ユリーシア、ただの腹黒百合ハーフエルフじゃなかったんだな!!」

「どんな見方をしていたんですか!?」

「うわっ、こっちに向けるな!」


 アユムはツッコミ代わりにウォーターランスを直撃させられながらも、馬車の方へ向かったのであった。

 隊商の商人がずぶ濡れの姿を見て驚いてきている。

 それを気にせずアユムは声をかけた。


「あの、大丈夫でしたか?」

「え、えぇ……大丈夫でしたが、あなた方は?」

「俺はアユム、こっちはユリーシア。先ほどヤングトレントたちが森の中から迫ってきていたので倒してきました」

「おぉ!? そんなことが! ありがとうございます!」


 人の良さそうな商人はペコペコとお辞儀をしていた。

 懐から謝礼を出そうとしていたのだが、護衛として雇われていたらしき冒険者が割って入ってきた。


「おいおい、そんなの大嘘に決まってんだろ? ヤングトレント一匹でオレたちPTがやっとだってのに」

「こ、これはこれは護衛ありがとうございました。コルザ・コザット様……」


 金のロン毛を手でファサッとしながらやってきた冒険者――コルザ。

 背はアユムより、かなり高い。

 しかしその分、筋肉も付いていないためにヒョロッとして見える。


「キャー、コルザ様ー! 素敵ー!」


 同じパーティーらしき女冒険者たちが黄色い声を上げている。

 正直羨ましくもある――……いや、違うとアユムはかぶりを振った。


「本当に倒したんだけど……見てくれば戦闘の跡でわかる――」

「戦闘の跡ぉ? そんなもんより、冒険者カードで証明しろよ」

「冒険者カード?」


 アユムは首を傾げた。

 ユリーシアの方に目をやると、やはりこうなったかという表情だ。


「ハーッハッハッハ、アユムとやら。冒険者カードも知らない田舎者かぁ! いいか、モンスターを倒したら冒険者カードがログを記録してくれて、それが証明になるんだよ」

「なるほど」


 たしかにカメラがないような世界では、倒した証明は難しいだろう。

 原始的な手段となると倒したモンスターの一部を持って帰るなどだが、それも結構かさばりそうだし偽装もできる。


「勇者様は嘘を言っていませんよ」

「勇者ぁ? コイツがぁ? って、おぉっと!? これは上物のハーフエルフのお嬢さん……いや、お姉さんかな? まっ、年齢がよくわからねーや。ババアでも構わないから、オレのファンクラブに入れてやろうか?」

「ペッ、ゴミみたいな男はお断りします」

「お、オレを振っただと……こいつ……!? グギギ……もういい、どうせヤングトレントたちを倒したというのも嘘に決まっている。時間が勿体ない、確認せずに先に進もう」


 ツバを吐かれたコルザは屈辱の表情を浮かべながら、隊商の馬車に乗り込んでしまった。

 アタフタと慌てる先ほどの商人はアユムに奇妙な木片を手渡してきた。


「これを商人ギルドにお持ちくださいませ。アナタが嘘を言っているようには思えない。身共は恩人に対して礼を尽くしますので」


 そのまま隊商は去って行ってしまった。

 手にある木片がなんなのかわからず眺めてしまう。

 何やら絵が描いてあるが、フチの所で途切れている。


「勇者様、それは割符ですね」

「割符?」

「もう半分と合わせてピッタリハマれば、金などがもらえる感じです」

「なるほど」


 あの商人さんは街に着いたらお礼をしてくれるというのだろう。

 そう納得していると、ユリーシアが申し訳なさそうに声をかけてきた。


「ごめんなさい勇者様」

「ん?」

「いえ、冒険者カードを持っていない時点で、隊商の危険を一番減らす手段を取ったらこうなるかなーとは思っていたんです」

「ああ、そのことか」


 隊商の安全を考えて、ヤングトレントが接触する前に倒してしまったということだろう。

 倒したという証明をするためなら、小隊の見える位置――襲われるかどうか微妙なところで倒すのが効率的だ。

 ユリーシアも、アユムがヤングトレントたちを一瞬で倒せるとは計算外だった。


「誰かに感謝されるためにやってるんじゃないし、問題ないんじゃないかな」

「うっ、心が浄化される……」


 日本人気質な言葉を言っただけなのだが、何かむず痒くなってしまうので冗談を言うことにした。


「い、いや、俺も隊商に女の子がいたら活躍を見せることを優先したかもだけど……なーんて!」

「ですよね!! 可愛い女の子に実力を見せつけて、イチャイチャ即ベッドインですよね!」

「……このハーフエルフやべぇ」


 童貞にはそういう超肉食系はわからない。

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