光剣で敵を燃やし尽くしてしまう
エルフの村と友好関係を結び、この世界の情報を得てから赤龍に戻ってきた。
アユムはドッと疲れた表情で赤龍の艦長席に座る。
「やっぱり大人数と話すの苦手……」
『お疲れ様です、艦長。早速ですが今後の方針をまとめてみました』
七面天女の声が響き、艦橋内に巨大なホログラフが浮かび上がった。
パワポ的な説明が始まる。
『結論から申し上げますと、現状お金が足りません』
「お金は大事だよね~」
『修理や強化用の鉱石が必要ですが、個人の力でこれを採掘するのは困難です。そこで既にある物を購入しようということです。エルフの村で蓄えられていた鉱石を分けてもらったところ、品質としては充分でした』
エルフの村からもらった鉱石は一応、オークを追い払った報酬という形だ。
友好関係を結んでいなかったら、七面天女は『エルフの村から強奪してこい』とか言ってきそうである。
『幸いな事に経済活動が活発な街があるので、そこで購入資金を稼ぐのが最適だと思われます』
「稼ぐって、どうやって?」
『どうやらこの世界には
「あー、そういえば本当に冒険者がいたな」
呆気なく死んでたけど、と突っ込んでしまうといつか自分に跳ね返ってきそうなので黙っておいた。
『そのようなことを総合して考えると、アユム艦長が街で冒険者になって資金を稼ぎ、鉱石を購入していくというのが当面の活動になるかと』
「冒険者って危険じゃない?」
『アユム艦長なら大丈夫です』
「……確証は?」
『ありませんが、きっと』
「AIっぽくない投げ槍さ! ……まぁ、ZYXを使えば問題は――」
言い忘れていました――と七面天女が注釈を入れてくる。
『ベヒーモスとの戦いでZYXは破損してしまいました』
「えっ!? 普通に動けてたように感じたけど!? どこが壊れたの!?」
『装甲板が一枚』
「装甲板が一枚? ……だけ?」
たった装甲板が一枚壊れただけで、なぜ注釈までしてくるのか理解不能だった。
次の言葉を聞くまでは。
『現状の鉱石で装甲板を作るためには、かなりの資金が必要となります。つまり』
「……つまり?」
『お金を稼ぐためにZYXを使ったら大赤字ということです。緊急時以外は生身で頑張ってください』
「マジか~……貧乏が憎い……」
***
そんなわけで、光剣一本と必要最低限の装備で街に向かっている。
「勇者様のお供なんて光栄です。きっと可愛い女の子も群がってくるはずですし!」
「……キミ、なんでいるの?」
横を歩く楽しそうなユリーシアに目を向けた。
「この世界の案内役、必要でしょう?」
「う……たしかにそうだ。お願いします」
「任されました。おこぼれを頂くために……!」
「さっきから欲望ダダ漏れ」
俺のメインヒロインはどこだと思いながら歩いて行く。
現在地は左右を森に囲まれた街道で、街への残り距離は三分の一というところだ。
むさ苦しくて鉄の棺桶にしか思えなかった大型艦生活と違い、森林浴効果が発生していそうな良い雰囲気だ。
鼻孔一杯に新鮮な空気を吸い込みながら、多少違うが日本の山々を思い出してしまう。
「いや~、平和だな~」
「勇者様、モンスターが現れることもあるのでご注意ください」
「ユリーシア、それってこの前のオークみたいなの?」
「いえ、アレは普段やってこないモンスターです。ここらへんだとー……ヤングトレントが出没しますね」
「トレントってたしか……――」
進んでいると丁度、木に手足が生えたようなモンスターが隊商らしき馬車を襲っていた。
「そうそう、ファンタジーのトレントってあんな感じ……って、大変だ! 襲われている!」
いきなりのファンタジー的光景にアユムの脳は追いつかなかった。
それでも目の前で人が襲われているのならばと一歩前に踏み出す。
「助けなきゃ――」
「いえ、勇者様。止めておきましょう」
「ど、どうしてだ? ユリーシア」
「あの隊商には男しかいません。男の人間共を助けても、何も得をしませんよ?」
「えぇ……。俺も恋人は欲しいけど、さすがにそこまで極端じゃ……」
「さすが勇者様、なんとお優しい……!?」
褒められているらしいのだが、人格破綻ハーフエルフの基準で褒められてもあまり嬉しくはない。
「まぁ、助けないのにはそれなりの理由もあるのですが、説明している時間はありませんね。勇者様を尊重致します。では、右の脇道へ移動しましょう」
「ん? 馬車の方は良いのか?」
「馬車の方は、冒険者が嫌そうな顔をしながら出てきました。アレは雇われた護衛なのでしょう。トレント一体なら平気なはずです――一体だけなら」
含みのある言い方だ。
それを察して、ユリーシアが指示してきた右の脇道の方へ意識を集中させる。
今まで森の雰囲気に混じっていた気が付かなかったが、何やら複数の気配を感じた。
「お気づきになりましたか。後続のヤングトレントたちが向かってきています。馬車まで到達されるとアウトですね」
「さすが森の民、良く気が付けたな」
「移動中、探知系の魔術をずっと使ってましたから」
サラッとファンタジー御用達である魔術の存在を言ってきた。
そのことを詳しく聞きたいが今は時間が勿体ない。
アユムは木々を縫うように疾走して、一瞬でトレントの集団との距離を詰めた。
「さすが勇者様、素早い!」
「ハッ!」
横薙ぎにするが、手応えが浅い。
踏み込めなかったのではなく、ヤングトレントが太すぎるのだ。
倒すのに結構な回数を斬りつけないといけないと思った瞬間――ヤングトレントは燃え上がっていた。
「おぉ……?」
「すごい! かなりの耐久力を誇るヤングトレントが一撃で!」
「光剣の熱で燃えたのか……?」
一撃で倒せるのなら複数いても問題ない。
アユムは数秒でヤングトレントたちを全滅させた。
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