最強の可能性を秘めた最新鋭艦

「スマホが壊れてなくて助かったな……」


 スマホ――見た目的には二十一世紀に開発されたスマートフォンに近いのだが、その性能は軍用でかなり進化していた。

 基地局がなくてもある程度までなら通信ができるし、なんなら繋がらなくてもインターネット検索っぽいのもできる。


 これはスマホの中に全インターネットの情報キャッシュなどが丸々入っているようなもので、更新がされないというのに目をつぶれば普段通りに使える。


 そのスマホで通信途絶していた最新鋭艦と連絡がつき、ホログラフとして立体的にナビゲート情報を映し出してくれている。


「方角は東か……距離は結構近い。目視できなかったのは窪みに落ちたからか?」


 アユムは、士官候補生としては全く評価されなかった高い身体能力で野山をひた走る。

 祖父と一緒にいた子ども時代、故郷である日本の山々で修行していたのだ。

 これくらい、どうということはない。

 最新鋭艦が観測していたマップを辿って走り続け、ついにアユムは到着した。


「おぉ、無事だったか。最新鋭艦――赤龍」


 谷に落ちる形で目立たないようになっているが、その流線型の赤い船体はアユムが乗ってきた赤龍のモノだった。

 しかし、100メートル程度あった大きな船体は途中で割れていて、半分くらいのサイズになっている。

 よくこの状況で大気圏突入できたものだ。


「……あまり無事じゃなさそうだな。とりあえず、中に入ってみるか」


 丁度、入れそうなハッチを発見したので生体認証を試みる。

 機能は生きていたのか無事に開いた。

 アユムは爆発しないかとドキドキしながら中に入る。

 ダメージを受けていない艦橋部分に向かうと、鈴のように美しい女性の声で迎え入れられた。


『ようこそ、艦長アユム』

「艦長は止めてくれ、七面天女……」


 艦AIの七面天女。

 正式名称は〝赤龍型試作一番艦、赤龍搭載AI七面天女〟という長ったらしい名前だ。

 最新型の新機軸AIらしく、単体で赤龍を動かせるという驚異的な性能である。

 しかし、艦の責任者となる人間がいないとエラーが発生してしまうために、緊急事態というのもあってアユムが艦長となってしまったのだ。


『艦長の職を辞するというのなら、赤龍は即時機能停止します。よろしいですか?』

「い、いいわけないだろ!?」

『失礼、AIジョークです』


 という風に無駄に高性能なのだ。

 女性の声というのもあって、弄ばれてる感でドキドキしてしまう。


「現状を報告してくれると助かる、七面天女」

『了解、艦長アユム。現在、我々は座標不明の惑星に落下。当艦はダメージによって航行不能』

「やっぱり、ポッキリと折れてたもんなぁ……。すぐに脱出というわけにもいかないか。座標がわからないからワープのしようもないし……。しばらくはここで生き残りつつ、赤龍の修理。救助を待つというのがベターかな」

『そうですね。幸いにも主機であるエーテル炉は無事なのと、格納庫の一部が使用可能です』

「格納庫ってことは、武器が?」


 宇宙軍の武器なら強力な物が揃っているはずだ。

 光剣並の威力を連射できる飛び道具のレーザーライフルに、範囲数キロを消滅させる光子ミサイル等々。


『それが……いくつもの試験兵器が積まれていましたが、区画の大半は汚染ガスが充満していて除去に時間がかかりそうです』

「汚染ガスを外に排出するのは?」

『人類が生存不能な星になる可能性があります』

「こっわ……なんてモノを積んでるんだよ……」

『なので、一部だけが使用可能です。即時使用できるのは人型同化兵器ZYXと、同機体用の光剣』

「だけか~……」

『しかし、心配ご無用です。これらの状況を全て打破することのできる機能が当艦には備わっています』

「そんな機能が……!」


 アユムは期待に眼を輝かせてしまう。

 最新の試作艦の機能なのだ。

 それは宇宙時代においても最先端ということで、つまりは最強と言っても過言ではない機能のはず。


「それは……!?」

Self-Replicating Spacecraftシステム――平たく言うと図工です』

「図工」


 期待外れの答えにアユムはガックリと肩を落とした。


「……図工の授業、小学校の頃にやったな。粘土をペタペタしてたのし~……現実逃避にはサイコーだ……」

『何を想像しているか大体わかりましたが、

「図工の規模が違いすぎるな!? すごすぎるだろ!?」


 つまりは21世紀のサンドボックスゲームなどであった〝素材ブロックがあれば何でも作れる〟というムチャクチャなシステムを搭載しているのだ。


『時間さえかければ当艦は宇宙最強であると自負しています。というわけで、当面の目標として使えそうな資源を集めてきてください』

「集めろったって、こんな異世界でどうやって……」

『それなら心配ご無用です。ほら、その糸口がやってきましたよ』


 七面天女がそう言うと、艦首のドアが開いた。

 アユムが振り向くと、そこにはハーフエルフの少女がプルプルしながら立っていた。


「か、神は本当にいた……」

「何かコイツ、神絵師に感動した俺みたいなことを言ってるな」


 アユムは思わず突っ込んでしまった。

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