燃やされそうなエルフの村で無双してしまう
「声だけの神様と勇者様、どうか村をお救いください!」
――と言われて、なぜか現場へ向かっている最中なのだ。
アユムの頭は『???』で一杯だった。
それを察したのか、森を走る最中に通信で七面天女が説明をしてくる。
『
「それで赤龍のセキュリティを外して招いたということか……」
『緊急事態ですので』
「村を救うにしても、格納庫にあったZYXは持って行っちゃダメなのか?」
『全高6メートルの人型機械は目立ちすぎるので、非常時以外は使わない方が賢明だと判断します。今回はオーガという
「俺のことを過大評価しすぎぃ……」
そうこうしている内に、エルフの村に到着した。
アユムとしてはエルフの村というと燃えているイメージだが、今はまだ無事のようだ。
燃えていないエルフの村は、木造の家が巨木の上にあったりと如何にもイメージ通りだ。
ちょっと感動してしまう。
「このエルフの村を燃やさせるわけにはいかない!」
「勇者様、なぜ燃える前提で……?」
正直に言うと怒られそうなので答えないでおいた。
メインヒロインとして恋人になる可能性もあるので、心証を良くしておいた方がいいだろう。
「勇者様、たぶんこちらです……」
人っ子一人いない村でおかしいと思ったのだが、どうやら広場に集められているらしい。
戦えない年寄り、女、子どもは遠巻きに見ていて、中央には倒れているエルフの戦士たちと――死体となった人間の冒険者らしき者たちもいた。
「冒険者の男共を雇ったのですが役立たずでした……!」
言い方が結構辛辣である。
たぶん、最初にアユムと出会ったときは、この冒険者と勘違いしたのだろう。
勇者という立場にランクアップしていなければ、ガラスのハートであるアユムの心は砕かれていたかもしれない。
「たしかにオーガが十体くらいいるな……。キングオーガよりは小さいから、何とか分断して一匹ずつ――」
「くぉら! 馬鹿オーガたち! 勇者様を連れて来ましたよ! もうお前らは小指で軽く捻られて一網打尽だ!!」
「ちょっ!? なんで馬鹿正直に真っ正面から行こうと!? あと意外と口悪っ!」
「大丈夫、勇者様ですから!」
この子、メッチャ扱いづらいのでは? とアユムは大後悔した。
「グゴォァアアアアア!!」
罵倒が通じたのか通じていないのかわからないが、オーガたちは一直線に向かってきた。
集団に殺意を向けられるというのは凄まじく怖い。
正直逃げ出したいが、ハーフエルフの少女の好感度が駄々下がりになるだろう。
祖父に曾孫の姿も見せたいし、ここは踏ん張りどころだ。
「こ、こんなときだけど、キミの名は?」
「ユリーシア・リーガルリリーです」
「ゆ、ユリーシアさん! 俺がこの戦いで勝ったら付き合ってくれ!」
アユム一世一代の告白である。
「あ、私……女の子が好きなんで」
「このタイミングであんまりだよ!?」
アユムは泣きながら、向かってきたオーガと戦うことになった。
まずは一番足の速そうな小柄なオーガがやってきた。
小柄といっても身長は2メートルちょっとあるだろう。
「まずは一つ」
アユムの光剣はオーガを袈裟懸けに斬り割いた。
大きな相手が全力突進してくるというのは、方向転換が難しく軌道を予測しやすい。
それに対してアユムの光剣は勢いで斬るものではないので、最小の動きで最大限のダメージを与えることができる。
相性的に比較的有利だ。
「二つ、三つ、四つ」
彼らは小さな人間の強さに驚愕しても、今更止まれないのだろう。
やってくるオーガを次々と流れ作業で斬っていく。
「五つ」
一息吐いた頃にはオーガの数は半分になっていた。
まだ生きているオーガたちは後ずさる。
光剣を使う異常な強さの人間なんて目にしたことがないからだ。
「意外とオーガ相手ならいけるな……。光剣一本で行かせた七面天女の判断は間違っていなかっ――」
「気を付けてください! クィーンオーガが笛を吹きました! 言い忘れていましたが、奴らの最大戦力ベヒーモスがやってきますよ!!」
「――やっぱり七面天女の奴、間違ってたかなー……」
ズシンズシンと大きな足音を鳴らしながらやってきたのは、ベヒーモスと呼ばれた巨大な四足生物だった。
全高は7メートルほどで小山が動いていると錯覚してしまうくらいだ。
それが木造の家を踏み潰しながら走って来た。
「はやっ!? 車みたいな速度だぞ!?」
アユムは間一髪それを躱した。
一瞬遅れていたら、アユムの故郷の特産品である
「さぁ、勇者様やっちゃってください!」
「むーりむりむりむり!! いくら何でも大きすぎる!! いったいどうしろと――」
逃げ出したい気持ちでいっぱいのアユムだったが、そのタイミングで光の柱が現れた。
「ゆ、勇者様!? これは神のお力ですか!?」
アユムはそれが何か知っていた。
目の前にあるのは転送の光だ。
たぶんアユムの座標から特定して、何か巨大なモノを送ってきたのだろう。
それは――
「ZYXに乗って戦えってことかよ……七面天女め」
人型同化兵器ZYX。
それは軍で採用されている規格の一つである。
地上で戦っていた時代は戦車や戦闘機が主流だったのだが、現在はこのZYXというロボットも使われるようになってきている。
理由としては技術の進歩が大きい。
操縦系が複雑となり、人間の神経と〝同化〟させる操縦方法が開発されたのだが、それに適した形が自然と人型になったのだ。
前方投影面積などの問題を差し引いても、全能力の向上が見られた。
また整備性などは、整備ロボットやナノマシンのおかげで問題ない。
「たしか訓練のときは……あった。ここだな」
アユムは急いで前方にあるハッチを開いて、全高6メートルの赤いZYXに乗り込んだ。
そこからは搭載AIの指示に従うのだが、聞き慣れてきた声がコックピット内に響いてきた。
『システムオールグリーン、戦闘システム起動します』
「七面天女、色々と言いたいことがあるんだが――」
『今はやるべきことをやりましょう』
「ああ、そうだな! ベヒーモスをたお――」
『やるべきこと、つまり機体名を登録してください』
「えっ?」
棒立ちしていたZYXに向かって、ベヒーモスが突っ込んで来た。
機体はほぼ無事だが、跳ね飛ばされてゴロンゴロンと転がってしまう。
「この状況でそれか!?」
『だって、形式上それがないと何もできませんから~。仕方がないですよ~』
ちょっと拗ねた風に七面天女が言ってきた。
AIジョークらしいが、実際は笑っている時間などない。
ベヒーモスがまた突撃してきそうなのだ。
「あー、えーっと! それじゃあ、赤龍唯一の攻撃兵器だから、〝レッドファング〟で!」
『機体名登録〝レッドファング〟――承認。機体、ZYX用光剣、共にロック解除』
「神経接続完了してるな!? 覚悟しろ! ベヒーモス!」
『神威機士の赤き牙に祝福を』
レッドファングは右手に持っている巨大な光剣を起動させて、ベヒーモスと対峙した。
ベヒーモスも警戒したのか急ブレーキで立ち止まり、口から火球を連続で吐き出してきた。
「っと、エルフの村より俺が焼かれちまう!」
通常の戦闘機や戦車では絶対に回避できないだろう。
しかし、神経接続を済ませたZYXなら、操縦者と同じような動きが可能なのだ。
類い希なる身体能力を持つアユムは難なく回避してから、ベヒーモスの懐に飛び込んだ。
そして、巨大な光剣でなぎ払う。
「巨大モンスター討ち取ったり、ってな」
勝負は一瞬で決まった。
切り離されたベヒーモスの頭部が跳ね上がり、呆然としていたクィーンオーガの眼前にドゴンと落下する。
「ギヒィィィ!?」
頭首らしきクィーンオーガは顔面蒼白。
残っていたオーガ全員と共に逃げていったのだった。
これで問題は解決したのだろうと、アユムがホッとしたのもつかの間。
大歓声が上がった。
アユムはビクッとして耳を塞ごうとするが、レッドファングが耳を塞いでも集音マイクは機能している。
「うおおおおおお!? 巨人がオーガだけじゃなく、ベヒーモスも倒してくれたぞ!?」
「すげぇ! 災害級のベヒーモスを!!」
村のエルフ達が大騒ぎしている。
アユムとしてはこのまま目立たず帰りたいのだが。
「村の皆さん、聞いてください! この巨人は神の化身です! それを操ったのは勇者アユム様! 宴を催して盛大に歓迎しましょう!」
「あ、あの女……」
アユムはコックピットの中で頭を抱えていると、急にレッドファングだけが転送されて消えてしまった。
その場に残されるアユム。
『目立つといけないのでレッドファングは帰還させます』
「代わりに俺がメッチャ目立ってるんだけど……」
『グッドラック、艦長』
――――――――――
読み飛ばす前提のあとがき
99%の読者さんにとってはつまらないと思うので、敢えて本文で省略した『人型同化兵器ZYX、レッドファング』スペック。
型式番号KSX-0。
全高約6メートル。
メインカラー赤、サブカラー白、関節部は黒、アイカラー緑。
装甲は角張った形状をしていて、関節部は反応速度重視のEIモーター。
頭部には目が二つ(サブカメラは各所に)で牙のようなパーツも。腕が二本、脚が二本。外見はアーマ○ド・コア的。
固定武装は無し、光剣一本を握りしめて頑張る。
ブースターは背中、脚などに付いている。
動力はエーテル炉。エーテル・コアと呼ばれる希少物質によって半永久稼働する。
コックピットハッチは前面装甲が開く形。
シートは吸着機能が付いていてシートベルトは不要。
簡易重力制御が搭載されていてある程度のGは相殺される。
操縦方式は操縦桿、フットペダル、タッチパネルに加えて、神経を同化させるという操縦方法。電極ブッ刺したりする系ではなく、コックピット内のスキャンなどによって読み取る方式なので安全。本人の反射神経や、同化適性で性能が大きく変わる。
整備性は劣悪なので、大体は整備ロボットとナノマシン任せにしてある。
パイロットであるアユムと赤龍の間を転送させることができる。
とある理由により同じ機体は存在しない。
技術レベルとしてはガ○ダムというよりスター○レックなので科学が魔法レベル。
特殊な装甲で、機体ダメージを一点に集めて装甲が壊れるので、一枚ずつ剥がれていくのは仕様。
剥離した装甲は〝死ぬ〟ので再利用できない。
装甲が剥がれた部分は黒いフレームが剥き出しになる。
実質的に装甲がすべて剥がれ落ちるまで無敵。
メカ描写はイラストがないと大変……。
ZYXという名前の由来は後々出る予定。
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