魔力ゼロの最強光剣使い ~評価されない落ちこぼれ宇宙軍士官候補生は異世界で近接無双する~
タック
SF世界から異世界ファンタジーへ
「おい、アユム! 茶を持って来んのもマトモにできねぇのかよ!」
「す、すみません……」
「ギャハハ! 止めてやれよ、士官候補生様だぜ。『落ちこぼれの』と頭に付くがなー!」
成績は下から数えた方が早い落ちこぼれだ。
(つらい……どうしてこうなったんだ……)
幼い頃、宇宙軍を退役した祖父に懐いていた。
祖父と同じ宇宙軍に入るために剣術を習い続けた。
それはもう死ぬ気で極めた。
なぜ剣術かというとアニメやゲーム、ラノベなどの影響だ。
アユムは大昔の20~21世紀のオタク文化のアーカイブを見るのが好きだったため、剣術さえできれば何とかなるという自信があったのだ。
だが、現実に入学してみると。
『いずれ皆さんが乗る宇宙艦の授業を――えっ? 剣術? そんな授業ないですよ』
『今日は指揮について――いや、だからアユム君。士官が直接斬りつけあって戦闘する状況なんて数千年以上も昔のことです』
『剣術以外やってこなかったって、もしかしてアユム君は宇宙一の馬鹿なのかな?』
『……では、補習を始めます。サムライのスピリッツは資源再生炉に捨ててください』
こうした現実を見せられ、剣術で何とかなると思っていたアユムのオタク脳は破壊されたのだ。
そして現在、落ちこぼれの烙印を押されたアユムは実地授業を受けている。
教育AIがクラス全員が適したものを指示するのだが、アユムへは〝物資輸送をする大型艦に乗り込んで補佐をする〟だった。
一見すると地味な任務だが、縁の下の力持ちをする人たちの補佐。という、とてもとても有り難い内容――いや違う、実際は雑用係だ。
旧型艦ゆえに自動化できていないお茶くみや、男臭いシーツの交換等々。
十人いる男性乗員は宇宙海賊と見間違うくらいのゴツい風体で、平均体型の18歳黒髪であるアユムが並ぶと差は歴然だ。
21世紀のオタクくんと、武闘派ヤ○ザ集団という印象が浮かぶ。
そして、乗っている数日間も落ちこぼれだと〝可愛がられた〟あと、レーザーガンを突き付けられてこう言われた。
「落ちこぼれ士官候補生様のアユム、テメェは追放だ。宇宙へ放り出してやる」
「えっ、そんな!?」
「うるせぇ、ゴチャゴチャ言うな!」
大昔の21世紀に流行った追放物のようなセリフだ。
アユムは泣きながら言うことを聞いた。
ハッチに手をかけると、艦橋の立体映像がスマホに送られてきた。
『あばよ! お荷物が減って清々するぜ! おい、艦隊戦準備急げ!』
『こんなボロ船一隻じゃ艦隊戦じゃねーだろ、ギャハハハハ! アユム、テメェの煎れた茶は不味かったぜぇ!』
『落ちこぼれの士官候補生様、達者でやんなよぉ~。……老いぼれエーテル炉、戦闘速度まで上げられる。いざとなったら艦をぶつけてでもアユムが逃げる時間を作る』
突如、敵である帝国軍の大艦隊が攻めてきたのだ。
輸送用の大型艦だけでは勝ち目が無い。
ワープを準備する時間も足りない。
そこで乗員たちは、まだ18歳であるアユムを逃がすために〝追放〟したのである。
幸い、積み荷である最新鋭艦は即時ワープが可能だ。
アユムをそれに無理やり乗せる。
それでもエーテル炉が稼働するまでの時間がかかるため、大型艦のクルーたちが命を懸けて負け戦をしようとしているのだ。
「お、俺だけじゃなくてみんなもこっちに乗れば……」
『わりぃなアユム、こっちは旧型AIで十人乗りなんだ。つまり、動かすための最少戦闘単位がオレたちだ』
「くそっ! どうにかならないのかよ……」
『テメェは生き残って、爺ちゃんにでも曾孫の顔を見せてやんな。実はオレたちがひよっこの頃、ナナカラゲさんにはお世話になっていてな……』
「爺ちゃんが!?」
『おっと、そろそろしびれを切らした帝国の犬共がご登場だぜ! あばよ!』
『ギャハハハハ! バイバイ……!』
『達者でな』
「み、みんな!? みんなー!?」
そこからの事はあまり覚えていない。
ただ大型艦から、アユムの乗った最新鋭艦が射出されたのだが――
「えっ!? ちょ、なんで全部俺の方を狙ってきてるの!? 流れ的に大型艦が犠牲になって俺だけ助かるんじゃ!?」
帝国艦隊のすべてがアユムを狙ってきて、大型艦がスルーされていたのでみんなは無事だろう。
感動を返せと思った。
***
「こ、ここはどこだ……」
ワープ前にボコボコにされて、ギリギリでワープをしたが座標はブレまくってどこかの惑星に不時着した。
そのときに破損した部分から綺麗に投げ出され、アユムは地面に激突した。
乗っていた最新鋭艦も目視で確認できないところまで行ってしまった。
「現在地は……不明。えーっと、ざっと見て森だな……。空気があって助かった」
種類は分からないが、よくある木々が周囲に生えていて、地面は舗装されていない土だ。
スマホの立体映像を操作して大気成分を調べるが、特に問題は無さそうだ。
「一回のワープ距離で人類が生存可能な星なら、大抵は移住が進んでいるはずだ……。まずは現地人を探して、そこから救護要請を――」
フラフラと立ち上がったところで丁度、人の呼ぶ声が聞こえてきた。
我ながら運が良いと思いながら、耳に埋め込まれている爪先程度の翻訳装置をオンにする。
随分と古い言語だが、翻訳することに成功した。
「さて、なんて言っているのかな……?」
「た、助けて……誰か……助けて……! 誰かいないの!?」
若い女性の声で救助を求めている。
アユムとしては助けてほしいのは自分の方だが、普通に動けるので声のする方へ向かってみることにした。
木々に遮られていて見えなかった場所に、とてもシンプルな白い布の服を着た若い女性が怯えながらうずくまっていた。
宇宙服を着るときに不便そうな程に長いブロンドの髪をしているので、宇宙軍人ではなさそうだ。
「き、キミ……大丈夫?」
アユムは童貞で、年齢イコール彼女いない暦である。
助けを求めているという緊急事態でも、女の子に話しかけると緊張する。
「変な格好……。あなた、私の護衛の人たちじゃないわね?」
アユムの格好は宇宙軍兵学校の制服である。
時代に即した物でそこまで変な格好とは思えない。
アユムは首を傾げながらも、女の子の姿に違和感を覚えた。
「……あれ、耳……キミの耳すんごい尖ってない?」
「ハーフエルフなの。あなた、エルフを虐げるタイプの人……?」
アユムは混乱してしまう。
化学が発展した宇宙時代でも、エルフというファンタジー種族は存在しないからだ。
何かのイタズラで付け耳をしているだけの可能性がある。
しかし、女の子の間でそういうエルフコスプレが流行っているのなら否定しない方がいいだろう。
「いや、エルフ好きだよ! むしろファンタジーで大好物!」
「ファンタジー……? 頭のおかしい冒険者とか多いって聞くし……まぁ強ければどうでもいいわ。ちょっと魔力量を見せてもらうわね」
自称エルフ少女の手が輝いた。
「えっ、何か温かいし、質感的にもホログラフじゃないよね……マジで?」
元々オタク脳だったアユムは瞬時に理解した。
ここはファンタジーの世界で、エルフが存在していると。
違うという可能性は大いに考えられるが、信じたいというオタク脳の方が優先した。
(ということは、このパターンだと異世界からやってきた俺はチート級の魔力があって、この女の子に驚かれて、素敵! 抱いて! アユム様のハーレムになる! という展開か! いやいや、恋人は欲しいけど、ハーレムは大変だぞ……どうやって責任を取れば)
「魔力ゼロ、あんたゴミ過ぎる……」
「え? うそ、俺の魔力ゼロって低すぎない!?」
「タイミングよく来たから期待したけど、役に立たないじゃない! こんなところを、一般人じゃ束になっても叶わないキングオーガと遭遇したら――」
キングオーガとは何か聞こうとしたのだが、どうやらその必要はなかったようだ。
身長3メートル程の筋骨隆々のモンスターがやってきた。
赤い肌をしていて、尖った牙を見せてニヤリと笑っている。
「ひぃぃぃいい!? もうお終いだわ!?」
「うーん、一応確認だけど、アレは倒してしまっても問題ないんだよな?」
「あ、頭がおかしくなったの!? 魔力ゼロで一般人以下のあなたがキングオーガを倒せるはずが……」
「こういうセリフ、実は一度言ってみたかった。まぁ、倒していいのなら平気だ。現代の基準だと色々な団体がうるさかったり、細かな法律があったりして……って、士官候補生としての癖かもしれないな」
異世界では法律の勉強が役立たずになってしまったことに溜め息を吐きながら、腰に手を伸ばす。
そこにあったのはどこにでもある近接戦闘用の光剣だ。
現代ではナイフと同じような扱いで、許可さえ取れば民間人でも手に入る。
その何の変哲も無い光剣――正確には柄パーツを握る。
充填されていたエーテルが伸びて棒状となり、光の剣となった。
それを見たハーフエルフの少女が驚きの声をあげる。
「そ、それは……まさか!? 光の剣エクスカリバー!?」
「ご大層な名前だな……」
楽しそうな謎ネームセンスで興味が湧いたが、ゆっくりと聞いている暇はなさそうだ。
キングオーガが殺意丸出しで、その丸太のような赤い腕で殴りかかってきた。
途中にあった木々を豪快になぎ倒しながらだ。
まともに食らえば、人体の中でも一番硬いとされる頭蓋骨ですらザクロのように砕くだろう。
強度的に鉄の剣すら赤い肌には利かないのかもしれない。
「経験値は入るかなっと……!」
一閃――瞬きの瞬間に勝負が決まっていた。
キングオーガは拳を振りかぶっている姿で眼をぱちくりさせて止まっていた。
身体を左右に裂かれながら。
自分が何をされたのか理解できないまま、左右バラバラに倒れた。
「レベルアップ……とかはしないな。ファンタジー世界なのに経験値はないのか」
「す、すごい……光の剣エクスカリバーを使えるのは伝説の勇者様だけ! もしかして、あなたは現代に蘇った――」
「いや、俺はまだ18歳のよそ者だ。思うに、その大層な名前の光剣は生体認証を勇者しかしてなかったから、誰も使えなかったんじゃ? 説明書を良く読もう」
アユムは光剣特有の焦げ臭さに鼻をしかめながら答えた。
吐き気がしそうだが、断面が熱されているために血が出にくいのでまだマシかもしれない。
「勇者様! 私の名前は――」
「あっ、艦が落ちた場所が判明した! ちょっと急ぐんでさようならー!」
艦の発見は死活問題なので、アユムはハーフエルフ少女を放置して走って行ってしまった。
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