第6話 趣味

「いやぁ〜、良い湯だったねぇ〜」


「ほんと、気持ちよかったです」


 部屋に入ってきた如月と姫野を見て、思わず息を呑む。


(お風呂上がりの女子……なんでこんなに色気があるんだ……!? しかもさっきまであんな話してから、余計意識しちゃ――)


「どうしたのよ?」


 気がつけば目の前を覗き込む如月の姿が……


「!?」


(いつも髪を結んでいる如月が……今は解いていつもとは全く違う印象だ……それに良い匂いが漂ってくる……いやいやだめだ!! 理性を保て!! 同じシャンプーを使っているはずだ!! それを考えろ……落ち着け、落ち着け、俺。……けどそれ以上に、姿……これはずるいだろ……。何故だ……ちっこくて子供っぽいイメージしかなかったこいつが、どうも色っぽく見える……。これは俺がおかしいのか!! くそっ!!)


「ちょっと、本当に平気なの? ねぇ大塚、こいつなんか変な物でも飲んだの?」


「飲んでねえよ……はぁ、こいつはなただお前の浴衣姿に見惚れてるんだよ」


「――なっ!?」


「落ち着け、落ち着け、素数を数えよう、1.2.3.4.5.6……ってよく見れば姫野さんも浴衣!? ……母さん、産んでくれてありがとう……」


「声に出てるよ……まったく……」


「あわわ……」


 場はカオス。

 一人は心の声が漏れ、暴走。

 また一人は赤面オーバーヒート

 もう一人は赤面で「それって、どど、どういうことよ!!」と叫び


 そして一人はそれを呆れた目で傍観していた。



          ***

「おい、この状況でどうやって寝るんだよ……」


 長めの机に座布団に座る男女4人、そのうちの1人が声を荒げる。

「……」

「……」

「……」


 3人して赤面したまま喋らなくなってしまったのだ。


(ゆ、夕食が来るまで何か話題を……)

「……えっと、ご趣味は?」


「この雰囲気で言うのか、姫野さん……」


「テニスを少々……」

「クラシック鑑賞を少々……」


「真面目に答えるのな、てか勇気……お前の趣味、クラシック鑑賞だったのか!?」


 驚くことはないだろう、失礼だ。


「って言うか如月、お前可愛いもの集めが趣味じゃなかったのか?」


 勇気は記憶の片隅から小学生の頃を思い出す。


「いつの話してんの! 私はもうぬいぐるみは卒――」


 と、言いかけると、横から。


「え!!! ぬいぐるみ集め好きなんですか!?!?」


 と、過去一最大音量の姫野が興奮している。


「見てください!! これ!!」


 出てきたのはとても可愛い熊さんのぬいぐるみ


「えっ!? 嘘!! か、可愛い……これって訳ありで10個だけ限定発売してたヘビーグマ、『修羅場から脱出せよ』シリーズの男役、クマトンだ!!! あれ……? でも発売されていた時とポーズが違うような……?」


「これ……私の自作なんです!!」


「な、なんですってーーー!!!!!」


 いつのまにか二人の世界を作り始めてしまった。


「……さっきまでの気まずい状況はなんだったんだよ……なぁ、勇――」


「でもここの再現凄いな、たしか、不倫相手がバレた時のシーンで怒りで狂った嫁がクマトンの毛をむしりとったせいで、ここの頭の後ろの毛は少し禿げてるんだよな……」


「……」

(夕飯……まだかな)


 その後、夕食が来るまでヘビーグマトークが盛り上がったらしい。

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