第4話 安心安全、綺麗で肌に優しい湯

 バスに揺られること数時間、温泉前に着いた。

 だが……


「おい、今思ったけどこの宿の名前、長くないか?」


 勇気が看板を見ると、そこには『安心安全、綺麗で肌に優しい湯』と書いてあった。


 キャッチフレーズかと思ったが、名前らしい。


「……入ってみよう」


 胡散臭い、とは思うが今時の温泉はこんなものなのだろうか……


 ガラガラ


 扉を引くと……そこは特に何の変哲もない受付だった。

 着物を着た女性がこちらを見るとパッと嬉しそうな顔で、


「いらっしゃいませ」


「予約していた大塚です」


「まぁ、遠くからお疲れ様です……わかりました大塚様ですね。お部屋の用意はできています。どうぞこちらへ……チケットは回収しておきますね」


 廊下は薄暗く灯がぼんやりとしている程度、外見重視なのだろうか。

 キィ……ミシィミシィという歩くたびになる音で別の雰囲気も漂わせていた……


「あの……勇気君……」


「どうした?」


「服の裾、掴んでもいいですか?」


 少し狭い通路なので一列になって通っている。

 前から大塚、如月、俺、姫野の順番だ。


 最後尾……こんなに暗ければ怖いのもわかる。


「……いいよ」


「……ありがとうございます」


 その前方で、

(なんか後ろの方でラブラブしてる気がする……!!)


 と、如月は感じ取っていた。


 案内された部屋は、2人部屋にしてはとても広い。

 何故だか座布団が4人分あり、置いてある羊羹も4個……もしかして……



「すまんな、勇気、みんな」


 結論に辿り着く前に大塚が口を開く、


「4人部屋にさせてもらった!!」


「「「!?!?!?」」」


 大塚以外の三人は明らかに動揺……着物を着た女性はその様子を見てニヤニヤしている……


「ちょ……お、おい! 聞いてないぞ!」


「……そそ、そうよ! 、ゆ、勇気がいるでしょ!!」


「……って……」


 俺の中に入ってくる如月のその言葉、もしや、如月の中で大塚は一緒の空間で寝てもいい人と思ってる……?


 4人で同じ部屋ということよりも、その事実に、勇気は絶句している……


(ゆ、ゆゆゆゆ勇気君と……お、お泊まり……)


 一方で、姫野は顔が真っ赤でオーバーヒート寸前だった。

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