第14話 時間稼ぎ

「待てや!」


 小太りのおっさんにしては速い……いや、速いというよりも障害物を避けるのが上手い。


 店の中に逃げるが、おっさんはあらゆる障害物を器用に避けていく……何度か刺されそうになるくらいに


(店の中に入るのはかえって危険だ!! ここから早く出ないと!)


「くらえ!!」

「っ!!」


 いつのまにか目の前には果物ナイフを振り上げるおっさんがいた。

(まずい……!)


 勇気は間一髪で近くにあった店の小物を顔目掛けて投げまくる。


「痛っ!? このガキが!!」


 おっさんは一瞬怯み、隙ができたところを見て勇気は逃げ出した。


(店から出れた……とりあえずは大丈夫だ。 さて、どうするか……)


 勇気は思考を加速させる……が、どうもこの赤い景色と鳴り止まぬ音に意識を集中させることができない。


(ショッピングモールの入り口は一般客で溢れかえっているだろう……だからなるべく入り口に近づくべきではない……でもこの騒ぎだ、誰かが通報しているだろう……だとすると……何か時間稼ぎができればいいんだが……)

 などと考えていると……


「へへ、追いついたぜ……」


 気がつけば前には行き止まりしかなかった。

 やはりこのデバフ(警報と赤い視界)がかかった状態ではまともに考えていると周りが見えなくなるらしい。


(くそっ……ここまでかよ……少しでも、少しでも時間稼ぎを……何か考えろ……)


「……ど、どうして俺を襲うんだ?」

「お前に言うことは何もない」

「やっぱり……お前は姫野花音のストーカーか?」

「……」


 一瞬、おっさんの表情がピクリと動く。

「姫野さんが気持ち悪がってたぞ」

「うるっせえええ!!! そんな訳ないだろ!! 花音はなぁ! 俺のことが好きなんだよぉ!! ストーカーはてめぇだろ!!」


 おっさんは取り乱し、激昂する。

 あのとき駅で会った優しそうなおっさんの影はもうない……


「好き……? ……そんな訳ないだろ! 確かに気持ち悪がってたぞ!」


 だが、そんな勇気のか言葉ももう届かない。


「ふひひっ、そうだよ……お前は邪魔だ!! 俺の恋路を邪魔すんなぁあああ!!」


(……余計怒らせてしまった!)


 おっさんは怒りにまかせ突進する……勇気はデバフのこともあり、逃げ遅れる。


(今度こそやばい……!)


 ここまでくるのに何回も刃物が皮膚を掠っていた勇気は逃げる体力も無くなってきていた。


 そのこともあり、勇気は諦めようとする……が


――シュウウウウウウウ


 気がつくと目の前が白い霧に覆われていた……おそらくこれは……


――ガン!!


 ……鈍い音がする

「ぐおぅ!!」


「こっちです!!」


 突然誰かに手を掴まれ俺はその場から逃走する。


「くそぉ!! 待て!!!」


 行き止まりからまた元の方向へ走り出す……


「はぁ……はぁ……危機一髪でしたね……」


 顔を見ると……姫野がにっこりとこちらを見ていた。

 ……天使のような笑顔……ではなく無理矢理作った不自然な笑顔だった。

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