第11話 例の落とし物

 俺が姫野さんを1人にできない理由は他にもあった……


 それは……朝の出来事だった。


 いつも通り教室に姫野さんがくる。

 流石に会話のレパートリーが増えたからか、いつもよりも話が弾んでいた。

 おそらく、今日は彼女との出かける用事があるからだろう。

 誕生日プレゼントを買う用事といっても、俺は単純に姫野さんと出かけるということで少し盛り上がっている。

 もちろん姫野さんも盛り上がっていたが……


 俺は姫野さんの忘れ物を思い出し、カバンから可愛らしい筆箱を取り出して渡す。


「姫野さん、昨日これ落としてたらしいよ。通りかかった人が拾ってくれて……」


 手渡すと、姫野は少し慌てる。

「あぁ、すいません。落としてたみたいで……え」


 姫野はバックの中身を見ると、少し驚いている。


「すいません。これわたしのではないみたいです」


 姫野がバックから取り出したものは全く同じ可愛らしい筆箱だった。

「ほんとだ……。名前書いたりは……してないか。申し訳ないけど姫野さん中身見てくれる?」


 明らかに女生徒のものだと思うので、俺は流石に開けるのはまずいと思い姫野さんに渡した。

「はい。わかりました」


 開けた姫野さんは少し顔を苦くし、そして深呼吸すると、筆箱を閉じた。


「……何があったの?」


 俺は姫野さんが少しおかしな様子だと思い、声をかける。

 すると、姫野さんは筆箱を俺に渡し、「見てください」と一言。


 筆箱を開けるとメモ用紙のようなものが一つ入っていた。

 その中の言葉を見て俺は驚愕する。


「……!!」


 メモ用紙の中には『いつも見てるよ』の一言。

 普通なら嬉しい言葉のはず、

 けれど、俺には恐ろしくてしょうがなかった。


「……よく、あることです」


 姫野は、一見冷静そうに見えるが、手を見ると少し震えていたのを覚えている……。




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