第8話 異変

「ねぇ、君。ちょっと良い?」


 後ろを振り返ると、少し小太りのおじさんが笑顔で声をかけてきた。

「さっき君と話してた子、これ落としていったよ」


 渡されたのは可愛らしい筆箱だ。

 姫野さんが持っていそうな派手すぎずシンプルな物だ。

「ありがとうございます……渡しておきますね」

「ああ……仲が良かったが、彼女かい?」


 ……その質問がトリガーだったのかもしれない。

 急に胸のあたりが締め付けられてるように苦しくなり、その場で立つのすら辛くなる。

 身体中からは汗が吹き出し、危険信号を伝えている。

 この苦しさは……なんだ?


 目の前が赤く染まる。

 それはまるで世界の終焉、俺の見た世界はまさしくそれだった。


 ふと、ガラスに映る自分と目が合う……そしてあることに気づいた。

 頭の上の数字が[7]などではなく、スロットのようにあらゆる数字がぐるぐると回っていたのだ。


 なんだ……何が起こっているんだ……


「そんな……と、友達ですよ……」

 辛いが、俺は直感的に俺はとりあえずこの男の質問に応えなければいけないと思った。


(適当に済ませて、どこかに座ろう……)

 だが質問を返した瞬間目の前の景色が元に戻る。

 あのまるで赤いクリアファイルを透かしてみたような景色……なんだったのだろうか


「なんだ、仲がいいからてっきり彼女かと思ったよ」

 ハハハ、と男は愉快そうに笑う。

 気がつけばあの苦しい胸の痛みも消えていた。


「大丈夫かい? 顔色が悪いようだが」

「大丈夫です。ありがとうございます……すいません、ちょっとこの後用事あるのでもう帰りますね。落とし物ありがとうございました。ちゃんと彼女には渡しておきますね。それでは失礼します」


 痛みは消えても気味が悪かった。

 吐き気がする。

 すぐにこの場から離れたい、空気が悪い。

「あ、ああ、よろしくね」


         ***


「はぁ……はぁ……」

 なんだったのだろう……急に息がしづらくなって、胸が苦しくなった。

 それに……この頭の数字……。


ピロン


 スマホから通知音が聞こえる。

『明日、さっき言っていた子の誕生日プレゼントを一緒に買いに行こうと思うので、空けといてくださいね』


 ……少し気分が落ち着く。

 この姫野さんからの連絡で少し冷静になってきた。


 俺は、この謎の数字を無視していた。

 ……ただ、今回のような事が起こるなら、俺はもうあの辛い思いをしたくはない。


「ちゃんと、調べないといけないな……」


 とりあえず、姫野さんにLINE返して早く帰ろう。

 ……まだ鳥肌がおさまらない。


『手伝ってくれるの? ありがとう』

        『友達ですから当たり前ですよ』

『放課後どこで待っていれば良い?』

        『裏門でお願いします』

『了解。じゃあまた明日ね』

        『はい。また明日』


 俺は家に帰り、鏡を見ると俺の頭の数字は[1]になっていた。

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