第3話 些細なこと

「私こそごめんなさい……」


 姫野花音……男子間でこっそりと行われる『彼女にしたいランキング』ダントツで1位の有名人。

 ただ、そのランキングの割に彼女に告白するものはとても少なく、みんな表には出さない。

 なので陰でとてつもない人気を誇ると言うことで有名人だ。


 ……なお、当然ながら本人は気づいていない。


 しかし……本当に可愛いな……つい見惚れてしまう。

 ふと、当たり前のようにある頭上の文字を見ると……

「15……」

「はい?」


 やべ、言葉に出てしまっていた。

「いや、なんでもない……あっ……」


 彼女の顔を見ると、俺はあることに気づく……

「えっ……あぁ、すいません! お恥ずかしい姿を……」

 彼女は泣いていた。

 もしかして痛かったのではないか

「ご、ごめん! これでも使って! だ、大丈夫、まだ使ってないよ!」


 俺は予備に持っていたタオルをバックから取り出し手渡す。


「違うの……そうじゃないの……でも、ありがとうございます……」

 彼女は静かに泣いていた。

 俺は、どう声をかけたらいいか分からず、結局何も出来なかった。


「もう、大丈夫か?」

「ご心配おかけしました。そしてありがとうございます……えっと……」


 彼女が泣き止み……これは名前を聞いてるんだよな?

 名前言っていいんだよな?


 女子と話したことなんてほぼ隣の席のやつしかないから気持ちがよく分からん。


「……赤穂勇気くんですね」

「え、どうして……」


 彼女はくすくすと笑う。

 まるで泣き止んだ赤子のように、ただ、俺は姫野さんのそう言う姿を見た事がなかったので呆然と見ていた。

「ふふっ内緒です!」


 彼女の目にはまだ泣いた後が残っており、苦しい気持ちはありつつ、笑っているように俺には見えた。


「ごめんなさい、時間取らせて。じゃあ、また明日ですね」

「あ、ああ!」


 また明日って……会う機会もないだろうに


         ***


[今日のニュースです。今日の午後、東京都、新宿区でトラックが歩道に突っ込み、歩行していた弁護士の〇〇さんが死亡しました。彼はニュースのコメンテーターなども行っていて……]


「物騒ねぇ……」

「お母さん、チャンネル変えない?」


 我が家の夜ご飯は基本的に3人全員で食べる。

 いつもは賑やかに食べるのだが、今日は少し違う。


「ねぇ、箸止まってるよ?」

「あ、あぁ、そうだな」


 俺は妹に言われて箸が止まっていたことに気づく……だが、それどころではなかった。


『また明日ですね……』

「また明日……かぁ」

「え、きも……ほんとにどうしたの? 熱?」


 つい、声に出てしまっていた。

 きもいと言いつつ、心配してくれる妹に俺は少し頬が緩んだ。


「すまんすまん、大丈夫だよ」


 今日はまさかの人に出会ってしまった。

 ……眠れるだろうか

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