第45話 修羅場

「……だけど、ヒロアキ、シロウはあんな兄だけど助けてやって欲しいの」


 サクラコは僕に深々と頭を下げた。

 僕は彼女のつむじを見ながら、困惑した。


「それは……」

「サクラコにとっては大事な身内だからな」


 ハンナが呆れた様子で言う。


「……サクラコ、僕は真の勇者じゃない。厳密には真の勇者の父親になる予定の人間だ」


 僕はハンナが持って来た攻略本を、サクラコに手渡した。

 彼女は僕が指示した真の勇者についてのページを読んだ。


『孤児である美少女を呼び寄せるスキルが存在する』


『真の勇者の父親である者は、このスキルを身に付けることが出来る。その者はこのスキルを使い呼び寄せた美少女から花嫁を見つけだし、結婚する。そして、真の勇者を誕生させる』


「まさか、ヒロアキがそんな存在だなんて……」


 サクラコの僕の顔をしっかりと見てそう言った。

 驚きと喜びが入り混じったような複雑な表情だった。


「この本の内容が本当だとすると、孤児を呼びよせることが出来る僕は、誰かと結婚して子供を授かるらしい。その子供が真の勇者であり、魔王を倒すらしいんだ」

「シィダがヒロアキと結婚するんだもんね!」


 シィダが僕の腕に絡みついて来る。

 すごい力だ。

 引きずられる!

 おい、僕をどこに引っ張り込もうというんだ。

 

「おい、ブス。ヒロアキが嫌がってるだろ」


 ハンナが不機嫌そうにシィダを罵倒する。

 黒いフードで顔が隠れてよく分からないが、邪悪に満ちた顔をしていることは確かだろう。


「うるさいな。ブスはハンナの方だろ!」

「お前、呪い殺すぞ」

「まあまあ、やめろ」


 僕は一体誰を選べばいいのか。

 誰を選んだとしても、血の雨が降るのは必至だ。


「例えヒロアキが真の勇者じゃないとしても、ラインハルホに戻って欲しいの。お願い」


 サクラコが僕に手を合わせる。


「ダメだよ。ヒロアキは孤児院の院長なんだから!」


 シィダがサクラコに突っかかる。


「そうだ! 分かったぞ。こいつらはヒロアキを真の勇者に仕立て上げ、他国への外交カードに利用しようとしているだけだ」


 ハンナがサクラコを指差しながらそう言った。

 珍しくハンナとシィダの意見が一致している。

 二人とも、僕のために必死なんだ。


「ヒロアキ……」


 サクラコが泣きそうになっている。


「あ、こいつ! 女の武器を使うなんて卑怯だぞ! ヒロアキ、こいつきっとヒロアキと一緒にいたいから城に連れて行こうとしてるんだよ!」


 シィダが僕を羽交い絞めにしてどこかに連れて行ことする。

 痛い。

 背骨が折れそうだ。


「ヒロアキ、私と結……」


 ハンナがそう言い掛けた時、僕は叫んだ。


「分かった! 分かった! 行くよ。ラインハルホに!」


つづく

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