第44話 真の勇者は悪
「何故ですか? ヒロアキ。高待遇であなたを迎えるというのに。それを断るというのですか?」
マリエッタがヒロアキを説得している。
「前にも言ったように僕は嫌だっていってるんだ!」
ヒロアキめ……
間抜けな顔のくせしおって。
「あなたを真の勇者だと見込んでお願いしているのに……」
マリエッタのクールな表情が少し歪み始めた。
聞き分けの悪いヒロアキに苛立っている様だ。
サクラコがいないのは痛い。
あいつがいれば、人質としてヒロアキを説得することが出来るのに。
「僕は……真の勇者なんかじゃない。分かったんだ」
「え!?」
俺とマリエッタが揃って、驚きの声を上げる。
「探すなら、他を探してくれ」
ヒロアキは踵を返した。
この場を立ち去ろうというのか。
「待て、ヒロアキ。お前の胸には星形のあざがあるじゃないか」
「シロウ王。僕は違うんだ。それだけは確実だ」
そう言い残して、ヒロアキは王の間を出て行った。
◇
一体どういうことだ?
あいつにとって真の勇者であることが、嘘だとしてもどれだけ得なことか。
今日のところはひとまず帰すが……
策を練って何としても真の勇者を捏造しなければ。
良い考えが浮かばぬまま。
俺は久々に、深酒をした。
◇
「おかえり。ヒロアキ」
「ただいま。サクラコ」
僕は貧乏領地にある孤児院に戻った。
シロウが突然呼び出して何のことかと思ったが、何のことは無い僕を召し抱えるという。
奴の魂胆は、僕を真の勇者として利用すること、それだけだ。
僕は政治の道具なんかじゃない。
「兄上は何と言っていたの?」
「うん、まあ、かくかくしかじかで……」
僕は城で会ったことをサクラコに話した。
「……そうなの」
サクラコ元気ないな。
あんなやつでも彼女にとっては兄貴は兄貴だもんな。
「ヒロアキはどこにも行かせないもんね!」
シィダが僕の背中に飛びついてくる。
柔らかいふたつのものが背中に当たってる。
おい、シィダよ、サクラコとハンナの目線がちょっと怖いぞ。
「私を解放してくれたことには礼を言うわ。ヒロアキ」
サクラコが頭を下げた。
王様の奥さんつまり、妃は僕らが送り込んだ刺客によって殺された。
詳しいことは後で話すが、このことはサクラコには黙っておかなければ。
彼女を連れ戻すとは言え、彼女の母親を殺したのは僕なのだから。
つづく
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