第44話 真の勇者は悪

「何故ですか? ヒロアキ。高待遇であなたを迎えるというのに。それを断るというのですか?」


 マリエッタがヒロアキを説得している。


「前にも言ったように僕は嫌だっていってるんだ!」


 ヒロアキめ……

 間抜けな顔のくせしおって。


「あなたを真の勇者だと見込んでお願いしているのに……」


 マリエッタのクールな表情が少し歪み始めた。

 聞き分けの悪いヒロアキに苛立っている様だ。

 サクラコがいないのは痛い。

 あいつがいれば、人質としてヒロアキを説得することが出来るのに。


「僕は……真の勇者なんかじゃない。分かったんだ」

「え!?」


 俺とマリエッタが揃って、驚きの声を上げる。


「探すなら、他を探してくれ」


 ヒロアキは踵を返した。

 この場を立ち去ろうというのか。


「待て、ヒロアキ。お前の胸には星形のあざがあるじゃないか」

「シロウ王。僕は違うんだ。それだけは確実だ」


 そう言い残して、ヒロアキは王の間を出て行った。



 一体どういうことだ?

 あいつにとって真の勇者であることが、嘘だとしてもどれだけ得なことか。

 今日のところはひとまず帰すが……

 策を練って何としても真の勇者を捏造しなければ。

 良い考えが浮かばぬまま。

 俺は久々に、深酒をした。



「おかえり。ヒロアキ」

「ただいま。サクラコ」


 僕は貧乏領地にある孤児院に戻った。

 シロウが突然呼び出して何のことかと思ったが、何のことは無い僕を召し抱えるという。

 奴の魂胆は、僕を真の勇者として利用すること、それだけだ。

 僕は政治の道具なんかじゃない。


「兄上は何と言っていたの?」

「うん、まあ、かくかくしかじかで……」


 僕は城で会ったことをサクラコに話した。


「……そうなの」


 サクラコ元気ないな。

 あんなやつでも彼女にとっては兄貴は兄貴だもんな。


「ヒロアキはどこにも行かせないもんね!」


 シィダが僕の背中に飛びついてくる。

 柔らかいふたつのものが背中に当たってる。

 おい、シィダよ、サクラコとハンナの目線がちょっと怖いぞ。


「私を解放してくれたことには礼を言うわ。ヒロアキ」


 サクラコが頭を下げた。

 王様の奥さんつまり、妃は僕らが送り込んだ刺客によって殺された。

 詳しいことは後で話すが、このことはサクラコには黙っておかなければ。

 彼女を連れ戻すとは言え、彼女の母親を殺したのは僕なのだから。


つづく

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