第42話 妹は軍師!

「ヒロアキを真の勇者に仕立て上げるしかありません」


 ここは俺の部屋。

 風呂上がりの俺にマリエッタはそう言った。

 彼女は酒を注ぎながらこう続ける。


「そんなことが出来るか」

「やるしかないのです。お兄様」


 先程のデレデレした様子とは打って変わって、今度は眉間に皺をよせ詰め寄ってくる。


「……うむぅ」


 こうなると脳筋の俺は妹に言い返せない。


「あ、ごめんなさい。お兄様」


 俺は注がれるがままに杯を重ねた。


「私とお兄様は、一心同体。気も心も考えも全て同じ……」


 そう言いながらマリエッタがしなだれかかって来た。

 シルクの様な白銀の髪が俺の胸に当たる。


「やめんかい!」


 俺は寸でのところで、流れに逆らった。

 妹に変な気を起こしそうだ。

 まったく。


「お兄様、いつかきっと……」


 今さら恥じらいながら、上目遣いで見つめて来た。

 いつもはクールで冬の薔薇とまで言われるマリエッタ。

 俺の前でしか見せない彼女の今の姿を、他の弟妹たちの前で晒したら……

 奴らどんな反応をするだろうか。

 ちょっと見てみたい。

 やばい、話を戻そう。

 

「……だが、その後、他の国で真の勇者が見付かった場合は、どうする?」

「その時はその時です。嘘はつき通すためにあるのです」


 なるほど。

 我が妹ながら、度胸が据わっている。

 それくらい強引に何事もやれということか。

 だいたい、ヒロアキに対する処遇もこのマリエッタの助言に従ったことばかりだ。

 脳筋で戦うことしか知らない俺は、この優秀な妹、軍師の様な妹の知恵を借りてばかりだ。

 彼女がいなければ、俺は既に国を滅ぼしているだろう。


「だが、ヒロアキに頭を下げるのは俺のプライドが許さん」


 俺は唇を噛んだ。

 嫌だ。

 それだけは、嫌だ。


「大丈夫、その役目は私に……」


 マリエッタは目を伏せ、小さく頷いた。

 我が妹ながら何と美しいことか……。


つづく

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