第41話 妹がなついてくるから困る

 勢いであんなことを言ってしまったが、さて……どうしたものか。

 俺は頭を抱えながらラインハルホ城に戻った。

 門を通り、衛兵の挨拶を受ける。

 従者に別れを告げ、俺は自分の部屋へと向かった。


「シロウお兄様、お疲れ様でした」


 妹のマリエッタが出迎えてくれた。

 彼女と俺の目が合う。

 いつもはクールな表情が、ほころぶ。


「おお」

「お疲れの様ですね」

「ああ」

「お風呂にしますか? お食事にしますか? それとも……」

「まずは風呂だ」

「はい」


 長姉のマリエッタは他の弟妹の前や公の場では高貴な女性を演じている。

 だが、俺と二人きりになると、何と言うか……柔らかくなる。

 瞳が潤み、頬が紅潮する。

 『それとも』って一体何のつもりだ!?

 俺はハッキリとそこは一線を引いている。


「ふー。どうするかな……」


 大理石で作られた風呂につかりながら、俺はぼんやりと考える。


「実は我が国に真の勇者がいる」


 つい会議の場で口走ってしまった。

 その時は、ラインハルホ王国のことばかり考えていた。

 真の勇者を手に入れることは我が国にとって、大事なことだ。

 他の国を引き離すという意味で。

 逆に他の国で真の勇者が見付かっては、まずい。

 そう思うと、ヒロアキのことをあの場で話してしまった。


「あのヒロアキは真の勇者なのか……?」


 奴の左胸に星形のあざが浮き上がるのは、どういう時なんだ?

 まだ奴は覚醒前で、中途半端なだけなのかもしれない。

 時間が経てば、真の勇者となるのだろうか。

 それとも、ただの勇者で終わるのか。


 俺の考えは堂々巡りを繰り返した。


 やばい。

 これは、やばいぞ。

 嘘を付いたことがイジューイ王にバレればどんな目にあわされるか分からん。


「お兄様」


 摺りガラスの扉の向こうからマリエッタの声が響く。

 なだらかで美しい彼女のシルエットが浮かぶ。


「何だ?」

「お背中、お流ししましょうか?」

「いや、自分で出来る」


 こいつは何を考えているんだ?


「お兄様、だいぶ、疲れている様ですね」

「ああ……」

「真の勇者のことですか」


 さすが俺の最も優れた妹だ。

 俺の考えていることがよく分かっている。

 というか、考えがシンクロしていると言っていいほど、同じ考えの時がある。


「私に策があります」


つづく

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