第35話 どの娘と結婚するか迷う主人公

「ハンナ、シィダ……僕は真の勇者じゃない」

「え!?」


 僕の言葉に、二人が声を揃えて振り返る。

 攻略本の問題の一文を読ませる。


「ヒロアキ、勇者のお父さんなの? すごい!」


 シィダは逆に喜んでいる。


「このページ……見落としていた。前のページとくっついていて……」


 ハンナは攻略本に書かれた新しい事実に目が釘づけだった。


「なるほど。真の勇者はまだこの世界には誕生していないのか。だが、ヒロアキは真の勇者の父親になる男。真の勇者に助けを求めた私がここに呼ばれたのは納得がいくが……」


 ハンナは顎に手を当て、何か考えながらつぶやく。

 攻略本から顔を上げ、こう問い掛けて来た。


「ヒロアキは、これからもハーレムスキルで、ここに孤児の美少女を呼ぶのか? その中から自分のパートナーを選ぶのか?」


 その瞳には動揺の様なものが浮かんでいた。

 大人しく冷静な声は微かに震えていた。


「ヒロアキは私と結婚するんだもんねー。そんで、真の勇者を私が産むんだから」


 シィダが僕の腕に絡みつく。


「やめろ。バカ」


 シィダのつむじの辺りに、攻略本の角がクリーンヒットする。


「いったいなぁ! もう! ハンナは大人しく他にいい人探しな!」

「……」


 ハンナは無言でシィダのつむじを殴り続けた。

 シィダは僕の腕に絡みついたまま、ハンナに蹴りを入れていた。

 僕は考えていた。


 これってものすごい、ヤバい状況なんじゃないか?


 僕が相手を見誤れば、真の勇者が生まれないことを意味している。

 ただ好きなだけで相手を選んじゃだめだってことだ。



 その日の夜、僕らは会議室と呼ぶ小部屋で、話し込んでいた。


「ヒロアキはサクラコっていう女を助けたいんだな」


 ハンナの確認に僕は頷いた。


「命の恩人なんだ。彼女がラインハルホに囚われている以上、あの一族に鉄槌を下すことが出来ないからね」


 僕はシロウやナオシゲの顔を思い出すたびに、言葉が荒くなる。

 それを何とか気を付けている。


「シィダもあいつらにパパとママが殺されたから、仕返ししてやりたい」


 ハンナは僕とシィダの思いを聞いて、何やら考え込んでいる。

 そして、顔を上げこう問い掛ける。


「サクラコは孤児ではないのだろう?」

「うん」


 王様が死んだから、母親である妃だけだ。


「じゃ、孤児にしなければな」

「それって……」

「妃を殺すしかない」


つづく

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