第32話 究極の料理 VS 至高の料理

「じゃぁ、ハンナが作ってみな!」


 シィダが挑戦状を叩きつけて来た。


「いいよ。ヒロアキに美味しいって言わせた方が勝ちね」

「おいおい。僕を巻き込むな。仲良くやってくれ」


 こんなこと初めてだ。

 ハンナって正直ものを言うし、見掛けに寄らず負けず嫌いの様だ。

 シィダも負けず嫌いなとこがあるから、今後ぶつかることが多そうだ。


「ああ……」


 僕は頭を抱えた。

 シィダが台所に向かって走り出した。

 この地下には台所がそれぞれ離れた場所に二つある。

 シィダは、窯や調理器具がしっかりと揃った方の台所に向かっている。


「私、ヒロアキが呼んでくれたから今の命がある。だから、美味しいもの作ってあげる」


 モンスターから逃げてる時、真の勇者、私を助けて。


 彼女はそう願った。

 そして、今、ここにいる。

 ハンナはボロい方の台所に向かった。



 こっ……これはっ!


 僕はハンナの作った塩リンゴの煮つけを口に含んだ瞬間、驚いた。

 まったりとして、それでいて濃厚……

 だけど、


「まず……」


 思わずそう言い掛けた時、ハンナの目が光った。


「美味い!」


 え?

 僕は頭と思ったことが口から出て、ビビった。

 本能を抑え込まれた感じだ。


「ブツブツブツ……」


 となりから黒い瘴気を放ちながら、ハンナが何か唱えている。

 呪術か?

 僕は呪術で、思っても無いことを口走らされているのか!?


「え? シィダの料理の方が美味しよね! ヒロアキ!」


 シィダが机に両手を乗せ、身を乗り出して訊いて来る。


「いや、ハンナの方が美味い! お前の食い物、不味い!」

「うえーん!」


 シィダが地面に寝転がり、手足をバタバタさせて喚く。

 まるで欲しい物を買ってもらえない駄々っ子だ。

 ……っていうか、ハンナ、君はそこまでして勝ちたいか。

 なんてプライドが高いんだ。

 でも、その負けん気は何かあった時に頼りになりそうだ。


「私の勝ち。シィダ」


 ハンナが無表情でシィダを見下ろす。


「うわああああああああん! 他の皆は美味しいって言ってくれてるもん!」


 10人の美少女を指差しながら喚く。

 ハンナが詠唱をやめたことで、僕の魔法も解けた様だ。

 口が自由に動く。


「そうだよ。ハンナ。二人とも美味しい料理作れるということで、引き分け!」

「ヒロアキ……あの10人が何なのか分かってる?」

「え?」

「あの娘たち、NPCだよ」


つづく

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