第21話 もう君の命を縮める訳には行かない!

 戦闘からの脱出は、一つの賭けみたいなものだ。

 逃げきれれば命が助かる。

 逃げ切れなければ死に近づく。

 逃げるということは敵に背を見せる事なので、無防備な状態で攻撃されることだからだ。


「逃げるぞ! シィダ!」

「うんっ!」


 僕はシィダの手を取り、ゴブリンシャーマンに背を向けた。

 一目散に逃げるつもりだ。

 勇者なのに情けない。

 だけど、命が無いと続かない。

 ごめん、ベス、ミサキ。

 後で戻って君たちの墓を作るよ。

 ゴブリンシャーマンが小さくなっていく。

 よし!

 モンスターにもよるが30メートルほど距離を取ることが出来れば逃げ切れたことになる。


「ふぁあっはっはっ! バカめっ!」

「ひいいい!」


 自分でも情けない声を上げていた。

 目の前に緑色のイボだらけの顔がある。


「我が魔法、小瞬間移動スモールテレポートなら、このくらいの距離、瞬時に縮めることが出来るわ! それに……レベルの違いが10以上あるのに逃げ切れると思ったか!」


 しまった!

 自分よりレベルが低い敵なら逃げ切れる確率も高いが、高い敵なら回り込まれる確率が高い。

 説明書にそう書いてあったのを思い出す。


「さぁて、勇者よ。お前のために犠牲になった女のために地獄で土下座するんだなぁ。『すみませんでした、あなたたちは無駄死にでした』となぁ!」


 毒々しい体液を口から吐き出しながら、ゴブリンシャーマンが杖を振りかざす。

 詠唱を始めた。


「ヒロアキ……」


 僕はシィダの手を強く握った。

 シィダを落ち着かせるというより、僕の気持ちを落ち着かせるために。

 彼女の体温が伝わるが、不安は消せない。


「ヒロアキ、今のうちに踊ろう」

「え?」


 こんな時に?

 あ、そっか。


「だめだ! 閃光舞踏フラッシュダンスを使ったら! もう君の命を縮める訳には行かない!」

「でも……ベスやミサキはヒロアキのために死んでいった。シィダもヒロアキの役に立ちたい!」


 いやだ!

 皆、僕のために動いてくれるのはいいが、死んで欲しくない。


「くらえ! 中火炎ミドルフレイム!」


 先程より大きな火の玉が僕とシィダを襲う。

 守らなきゃ!

 シィダを!


「うっ、うわあああ!」


 ……あれ?

 叫んでいるのは僕じゃない。

 醜い体を焼かれているのはゴブリンシャーマンだった。

 自ら放った業火に包まれ、のたうち回っている。


「きっ、貴様……いつの間に、魔法反射マジックリフレクションを……」


 え?

 僕が弾き返したの?


「ヒロアキ……君の胸が」


 シィダが僕の左胸に触れる。


「あ」


 光っている。

 星形のあざが光っている。


つづく

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