第19話 レベル10になったので職業が勇者になりました

 この世界には職業というものが存在する。

 人間や亜人間は、レベル1のすっぴん状態で生を受ける。

 そして、レベル10になるまでに自分の職業が確定する。

 この話はラインハルホの図書館で僕が読んだ本『説明書』に載っていた。

 例えば、サクラコはレベル3の時、召喚士になった。

 シロウはレベル1の時から戦士だった。

 つまり彼は生まれた時から根っからの戦士だった。

 こういった者は、『運命人さだめびと』と呼ばれ、同じ職業の者と比較した場合成長度も覚えるスキルも格段に差がある。

 兎に角、人は上限と呼ばれるレベル99まで、その職業と人生を共にする。


「ヒロアキもそろそろ、レベル10だね」


 シィダが土埃で汚れた僕の鎧を布で拭きながら、そう言う。


「ヒロアキ様、沢山、モンスターを倒しましたもの。シィダの言う通りそろそろです」


 ミサキが僕の武器を手入れしてくれた。

 彼女はレベル11で職業は鍛冶屋だ。

 彼女の作った鉄の風呂は孤児院で重宝している。


「ヒロアキ様がどんな職業になるか楽しみだわ」


 そう言いながら、僕の口にサファギンの肉で作ったハンバーグを運ぶのはレベル12で調理師のベスだ。

 孤児院の料理は彼女が作っている。

 レベルが上がれば調理スキルも上がるだろう。

 今から楽しみだ。


 そんなメンバーと共に、孤児院の院長でもある僕はモンスター相手にレベリングにも勤しんでいた。

 時間を見つけては鉱物の採取も行っていたし、畑を作ることにも挑戦していた。

 日々、忙しかったが僕にとっては幸せな時間だった。

 生まれて初めて僕は皆から慕われていたから。

 美少女たちが僕のために生きてくれている。

 これもスキル『ハーレム』の加護なのか。


 だけど、そんな幸せな時間ときも長くは続かなかった。



 貧乏領地に来て15日目。


<ピロリロリーン!>


 レベルアップした時のメロディだ。

 僕はスライムシャーマンを倒した瞬間、レベルが上がった。

 いつもの無機質な女性の声が脳内に響く。


<ヒロアキはレベルが10になった! HPが561になった。MPが346になった。攻撃力273、守備力が441、素早さが451になった。職業がすっぴんから、勇者になった>


 勇者。


 その響きに僕は思わず、頬をつねった。

 痛い。

 夢じゃない。


「皆、見てくれ!」


 僕は皆にステータスを開示した。


 ヒロアキ

 レベル:10

 職業:勇者

 HP:561

 MP:346

 攻撃力:273

 守備力:441

 素早さ:451

 スキル:ハーレム


「すごい! ヒロアキ! 勇者だ!」


 シィダが僕に抱き着いて来た。

 子犬の様に頬を僕の頬にスリスリして来た。


「ヒロアキ様、この世で1000人に一人しか生まれないと言われる勇者に……」


 ベスが泣いている。

 まるで自分の事の様に喜んでくれている。


「ヒロアキ様。私、あなたのために強い武器を作りますね」


 ミサキが僕の銅の剣を手に取り、刃こぼれ具合を確認した。

 彼女もぼくのために……。

 ん?

 彼女の背後から何か光るものが…… 


「あ、危ない」

「ひぐっ!」


 僕の叫びも虚しく、ミサキの首が大地に転がった。

 続いて、首を失った胴体が膝をついてドサリと倒れる。

 切断面から血が噴き出し、大地にバラの花が咲いた。


つづく

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