第16話 踊り子エルフの本当の実力

 まずは、作物を植えよう。

 野菜の種は少しだが持っている。

 植えるための畑を作らなければ。

 その為には農具!

 早速、農具を作らなければ。


「シィダ、手伝ってくれるかっ!」

「あいあいさー!」


 僕は手近にある木を切り出した。

 これを柄とした。

 岩を砕き、石を削り、刃の様に鋭くする。

 柄の先端にそれを取り付け、鍬とした。


「よし、やるぞ!」

「やっちゃってー!」


ガキィッ!


「くっ……負けるか!」


ガキィッ!


「何てっ……硬い大地なんだっ……」

「がんばれ、ヒロアキ!」


 シィダの可愛い声援にこたえようと僕は、もう一度、鍬を振い上げる。


ボリッ!


 折れました。

 おわり。


「何だんだよ。この土地は! さすが、貧乏領地だぜ!」


 大粒の汗の分だけ、損しました。

 夕日が沈もうとしていた。


「ヒロアキ、気分転換に踊ろ」

「え?」

「いいから」


 踊るって一体……

 シィダはドギマギする僕の手を取り、リードする。


「踊ったことなんてないよ。僕……」

「シィダに任せて」


 僕はシィダと向かい合った。

 彼女の左手と僕の右手が握り合う。

 そして、僕の右手が彼女の背中に添えられる。

 シィダのお腹と僕のお腹がピッタリくっついている。


(こっ……これ、どういうこと)


 激しい胸の鼓動が伝わりやしないか、僕は心配だった。

 頭一つ小さいシィダが、僕を見上げる。

 笑顔でこう言う。


「じゃ、初心者はジルバからね」


 どこからともなく音楽が聴こえて来る。

 それはトランペットとギターそしてパーカッションで演奏されるアップテンポで陽気な音楽だ。


「スロー、スロー、クイック、クイック♪」


 シィダが口でリズムを取る。

 僕は彼女の動きに着いて行こうと一生懸命だ。

 ……ってか、彼女の背に回した右手が緊張で汗ばんで来た。

 彼女を不快にさせてないか心配だ。


「ヒロアキ、右手ぐしょぐしょ。一生懸命だね。嬉しいよ」

「え?」

「ヒロアキ、シィダをターンさせて!」


 僕は本能のままに、というより彼女の動きに合わせる様に、動いた。

 左手で彼女の右手を上げ、前方に空間を作る。

 その空間に向かって、彼女の背中を右手でそっと押す。

 シィダはワンピースの裾を花びらみたいに回転させながら、ターンした。

 そして、僕と向かい合った。


「上手だよ。ヒロアキ」

「あ、ありがと」


 ん?

 ほっぺに柔らかい感触が。


「あっ、せっかくのシィダのキスを手で拭くんじゃないっ!」


 眉根を寄せ、僕を人差し指でつつくシィダ。

 ……ってか、今のファーストキス?

 口づけじゃないから、まだプレオープンって感じか。

 嬉しいけど、こんなことやってる場合じゃない。

 と、突然……


「ひらめいた!」

「え?」


 シィダ……?

 彼女の髪の毛が逆立つ。

 瞳が無くなり白目だけになった。

 白い闘気が彼女の身体を包んでいた。

 彼女の食いしばった歯から、ギリリと音がする。

 両手が拳になった。


「シィダ……どうしたんだ?」


 何が起きるんだ?


「おるうあああああああぁ!」


 彼女の振り下ろした拳が、大地を真っ二つにした。


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る