第12話 美少女エルフは大飯喰らい
「ところで、君、一体どうしたんだい?」
「えぐっ……えっぐ……」
エルフの涙で僕の胸元はグショグショになっていた。
余程怖い思いをしたのだろうか。
彼女はしゃくりあげ、嗚咽し、尖った耳をピクピクさせていた。
男子として女子に頼られるのは嬉しいが……
チーン!
「うわっ! 鼻かみやがった!」
僕がジタバタするのもお構いなしに、エルフの少女は鼻を押し当てる。
「ぐしゅぐしゅ……」
僕のクロスメイルが更グショグショになる。
「ちょっ、ちょっとぉ! 何してるんですか!」
「ごめんなしゃい……」
やっと泣き止んだ彼女は顔を上げた。
「あっ……」
何て可愛いんだろう。
白い髪に包まれた小さな顔。
小さく尖った鼻に桜色の唇。
大きなブラウンの瞳に僕の赤くなった顔が映り込んでいる。
◇
クロスメイルは水筒の水で洗い、岩に乗せて乾かす。
乾くまでの間、僕は着替えとして持って来た布の服を着た。
外はすっかり暗くなった。
今何時だろう。
満天の星空は綺麗だ。
月の位置で時間が分かれば便利だろうなあ。
ぐぅ~。
「腹減ったなぁ……」
僕の隣で焚火にあたりながら、側でパンを食べるエルフを見た。
「はぐはぐはぐ……」
華奢な体を折り曲げ、両手で硬いパンを持ちがっついている姿は、何とも言えない可愛さ、というか守ってやりたい感じがする。
それはいいんだが、彼女にパンを分けたせいで今日の食事は無くなった。
リュックの中には3日分の食事と水が入っていたが、彼女のせいで1日分無くなった。
「ごちそうさまぁ」
「はい」
まったく、その身体でよく食べる。
この世界ではHPが0になると死ぬ。
だが、食べなくても死ぬ。
水を飲まなくても死ぬ。
寝なくても死ぬ。
どんなにレベルが高い人間でも死ぬ。
それは平等なのだ。
だが、ステータスに現れない数値があり個人差がある様だ。
例えば10日飲まず食わずでも死なない人間もいる。
僕はそんな体ではないと思う。
早々に食べ物を自給出来る様にしなければ、この貧乏領地で野垂れ死にしてしまう。
「ねぇ、さっきの質問なんだけど、君、一体どうしたの?」
「え?」
「どうしてここに? 何かあったの?」
彼女は辛そうな顔をした。
「あっ、いいんだよ。思い出したくなかったら言わなくても。そんなことより名前言ってなかったね。僕はヒロアキ。君は?」
「私、シィダ」
笑顔に戻った。
良かった。
「僕はここの領地の領主なんだ」
「領主?」
「ま、持ち主みたいなもんかな」
「すごい」
シィダは僕を尊敬のまなざしで見つめた。
そんな目で見られたのは初めてだった。
「……シィダ、ここに住んでいい?」
「え?」
「パパとママ、人間に殺された。シィダは一人なの」
つづく
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