第12話 美少女エルフは大飯喰らい

「ところで、君、一体どうしたんだい?」

「えぐっ……えっぐ……」


 エルフの涙で僕の胸元はグショグショになっていた。

 余程怖い思いをしたのだろうか。

 彼女はしゃくりあげ、嗚咽し、尖った耳をピクピクさせていた。

 男子として女子に頼られるのは嬉しいが……


チーン!


「うわっ! 鼻かみやがった!」


 僕がジタバタするのもお構いなしに、エルフの少女は鼻を押し当てる。


「ぐしゅぐしゅ……」


 僕のクロスメイルが更グショグショになる。


「ちょっ、ちょっとぉ! 何してるんですか!」

「ごめんなしゃい……」


 やっと泣き止んだ彼女は顔を上げた。


「あっ……」


 何て可愛いんだろう。

 白い髪に包まれた小さな顔。

 小さく尖った鼻に桜色の唇。

 大きなブラウンの瞳に僕の赤くなった顔が映り込んでいる。



 クロスメイルは水筒の水で洗い、岩に乗せて乾かす。

 乾くまでの間、僕は着替えとして持って来た布の服を着た。

 外はすっかり暗くなった。

 今何時だろう。

 満天の星空は綺麗だ。

 月の位置で時間が分かれば便利だろうなあ。


ぐぅ~。


「腹減ったなぁ……」


 僕の隣で焚火にあたりながら、側でパンを食べるエルフを見た。


「はぐはぐはぐ……」


 華奢な体を折り曲げ、両手で硬いパンを持ちがっついている姿は、何とも言えない可愛さ、というか守ってやりたい感じがする。

 それはいいんだが、彼女にパンを分けたせいで今日の食事は無くなった。

 リュックの中には3日分の食事と水が入っていたが、彼女のせいで1日分無くなった。


「ごちそうさまぁ」

「はい」


 まったく、その身体でよく食べる。

 この世界ではHPが0になると死ぬ。

 だが、食べなくても死ぬ。

 水を飲まなくても死ぬ。

 寝なくても死ぬ。

 どんなにレベルが高い人間でも死ぬ。

 それは平等なのだ。

 だが、ステータスに現れない数値があり個人差がある様だ。

 例えば10日飲まず食わずでも死なない人間もいる。

 僕はそんな体ではないと思う。

 早々に食べ物を自給出来る様にしなければ、この貧乏領地で野垂れ死にしてしまう。


「ねぇ、さっきの質問なんだけど、君、一体どうしたの?」

「え?」

「どうしてここに? 何かあったの?」


 彼女は辛そうな顔をした。


「あっ、いいんだよ。思い出したくなかったら言わなくても。そんなことより名前言ってなかったね。僕はヒロアキ。君は?」

「私、シィダ」


 笑顔に戻った。

 良かった。


「僕はここの領地の領主なんだ」

「領主?」

「ま、持ち主みたいなもんかな」

「すごい」


 シィダは僕を尊敬のまなざしで見つめた。

 そんな目で見られたのは初めてだった。


「……シィダ、ここに住んでいい?」

「え?」

「パパとママ、人間に殺された。シィダは一人なの」


つづく

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