第11話 その頃、僕を追放した兄弟姉妹(元)たちは……2

「父上はヒロアキをどこかで拾い、勇者の可能性があると見て、育てていたのだろう」


 シロウの言葉に皆、複雑な表情を浮かべた。

 自分達はとんでもない間違いを犯していないか?

 だが、シロウはそう思っていない様だ。


「そこでヒロアキを試すことにした。我々も匙を投げる程の貧乏領地に一人置き去りにすることで、どこまでそこを発展させることが出来るか……ということに」


 なるほど、という感じでヨシアキは頷き、メガネの位置を治した。


「真の勇者であれば不毛の大地を再興させることも可能。偽の勇者であれば野垂れ死に……という訳だな。兄上」


 シロウは腕を組んだまま頷いた。


「お兄様。もしもヒロアキが勇者だった場合はどうするのですか?」


 マリエッタが心配そうな表情を浮かべ、問う。


「その場合は大いに政治利用させてもらおうじゃないか。ヒロアキを」

「それは……」

「魔王を倒すほどの勇者がラインハルホ一族のメンバーだということを、他国に知らしめる。他国は我が国に対して敬意を払うであろう」


 つまり、シロウはヒロアキを自分のための盾に使おうとしていた。


「お兄ちゃん、何か一つ考えが抜けてない?」


 双子が無邪気な、それこそ子供がおもちゃをねだる様な声を揃えて兄に、問う。


「マナナ、カナナ、どういうことだ?」

「ヒロアキが勇者じゃなかったとしても、勇者だったとしても、私達にきっと恨みをもっているよ。歯向かって来たらどうするの?」


 マナナ、カナナは質問を終えた後、向かい合いあっちむいてほいを始めた。

 マリエッタに次ぐ次女の立場だが、精神年齢は全姉妹中で最も幼い。


「心配するな。ヒロアキは我々に歯向かうことは出来んよ」


 シロウは円卓に置いてある茶の入ったグラスを手に取った。

 深紅の薔薇茶が彼の口に含まれ喉を通る。

 小さく息を吐き、こう続ける。


「我々にはサクラコがいる」


 シロウは切れ長の三白眼を、マリエッタに向けた。

 マリエッタは蛇に睨まれた蛙の様に身体を硬直させた。


「お兄様……サクラコはっ」


 マリエッタは息をのみ何か反論しようとした。

 だが、


「サクラコはどうしてる」

「はい。結界を張った地下牢に閉じ込めています」

「よろしい」


 シロウは全体を見渡した。


「ヒロアキだって人の子。自分のことを想ってくれている女がいることは分かっているはず。サクラコは人質だ」

「お兄様! 人の道に反します!」


 マリエッタは兄の言葉に再び反論しようとした。

 だが、


「マリエッタよ。ここではラインハルホ一族のルール、否、私のルールが優先されるのだよ」



「はっくしょん!」


 誰か僕の噂をしているのかな?

 僕のくしゃみを気にする様子もなくエルフの少女は僕の胸で泣きじゃくっていた。

 サクラコと同い年くらいかな。

 そういえば、あの時、サクラコはこう言っていた。


<ヒロアキ……私、あなたが兄じゃないことが分かった時、嬉しかった>


 あれは、どういう意味なんだろう?


つづく

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