第4話 パワハラ師匠 VS 底辺プレイヤー

 この世界において、戦いの種類は以下の通りだ。

 

 人間とモンスターとの戦い

 人間と人間の戦い

 モンスターとモンスターの戦い

 国と国の戦い


 今回の様に僕とナオツグが戦う場合は、人間と人間の戦いになる。

 人間と人間の戦いは双方の戦う意思が成立した時、この世界の神がデュエルという決闘モードを発動させる。

 そうなると、

 どちらかのHPが0になるまで、つまり死ぬまで行われるか……

 何らかの理由で戦闘が中止されるまで行われる。


「くっ……」


 僕は死ぬかもしれない。

 否、普通に考えたら死ぬだろう。

 それ程、僕とナオツグの実力は差がついていた。

 僕は少し、戦う意志を持ったことを後悔していた。

 だが、もう遅い。

 

 鼻の奥から鉄の匂いがする。

 鼻血だ。

 一瞬、僕は気を失っていた様だ。

 ナオツグの激しい拳の連撃で僕は吹っ飛ばされ壁に頭をぶつけた。

 HP400が200になっていた。


「次は手加減せぬぞ」


 彼は腰を低く落とし、騎馬立ちの構えを取った。

 彼の辮髪べんぱつが揺れた。

 全身から漲る闘気が彼を白く縁取る。

 得意の『龍虎式拳法・一の段』でも放つ気か。

 あれをやられたら一たまりも無い。


「せめて、命乞いをし、素直に平民となるなら、命だけは生かしてやろう」


 ナオツグの目が一瞬優しくなった。

 歯向かった僕を許すというのか……。

 この自分に厳しい武闘家の兄は、やはり真の武闘家だった。


「兄上……」


 自分のプライドのために勇敢に戦って死ぬのはカッコいい。

 だが、今死んでしまえば元も子もない。

 命さえあれば、いつかは王様の遺言書を手に入れ、僕のルーツに辿り着くことが出来るかもしれない。

 僕は生きなければならない。


「分かりました。僕が間違ってました。許してください」


 僕は卑屈な笑顔で頭を下げた。

 鼻血が床にしたたり落ち、みじめな染みを作る。

 ナオツグが口を開く。


「ヒロアキよ。さすが血の繋がりは無いとはいえ……我が弟よ。賢明な判断だ。だが……嘘ぴょーん!」


 ダッ!

 地を蹴る音がした。


「ぐえっ!」


 HPが100になった。

 僕は息が詰まった。

 ナオツグの拳がみぞおちにめり込んでいる。


「お前ごときに龍虎式拳法など使うものか。平民のくせして私に歯向かうなどとは生意気な。手加減しつつ、じっくりいたぶってやるわ!」


 僕は彼の卑劣な性格を思い出した。

 彼の武闘協会での横暴振りは有名だった。

 影でパワハラ師匠と呼ばれていた。

 何人もの道場生が逃げ出していた。


 HPが削られる。

 僕は殴られ蹴られ床を転げ回った。

 自分の身体がどの方向を向いているのか分からないくらい。

 回転する視界には、醜く笑う兄たちと、目を背ける姉妹たちが映った。

 僕は死を意識し始めた。


「死ね! 最後の一撃!」


 ドカッ!


 HPが0になった……

 そう思った。

 だが、


 HPは1。


 生きている?

 と同時に、僕は自分の背を覆う柔らかく暖かい感触を感じた。


「サクラコ!」


 僕のために身代わりになってくれたのは、妹だった。

 否、血の繋がりは無いから妹ではない。


つづく

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