第6話



「アル君おかえり、どうだった?」


「来てくれると思うよ。 それより何でこの人土下座してるの?」


床に手を着いて項垂れているヨシュアを指差しながら首を傾げるアルト。


「土下座じゃないよ。 呪われていることを伝えたらこうなっちゃった。」


「たかが呪いだよ?」


「普通の人ならこんな反応になるさ。病気と違って、治せる方法が限られてるからね。 しかも、この術式だから余計にね。」


「ふぅん、まぁいいや。 多分もうすぐ来ると思うからヨシュアも立ちなよ。」


「う、うむ。 しかしアルトよ、その人物はこの呪いを解くことが出来るのか?」


「それ本人に言ったらダメだよ。 この程度の呪いを解呪出来ないなんて相当バカにしてる様なもんだから。おっと、噂をすればだね。」


騎士の鎧が音を立てこの部屋に近付いてくる。

アルトが開けっ放しにしていた扉の隙間から現れたのは、シスター服を身に纏った妙齢の女性であった。


「失礼致します。 アルトに呼ばれて参りました。 ヨシュア陛下、お久しゅう御座います。」


「んなぁ!? だ、大聖女マーサ!?」


「おやおや、これは私も予想だにしなかったなぁ。」


「さて、挨拶も済ませたし…アルト。」


こっそり部屋を出ようとしていたアルトがぎこちない動きでマーサに顔を向ける。

普通の人が見れば、まるで絵画の美女が浮かべている笑みなのだが、アルトには分かった。




(あ、げきおこですやん…)



「ひ、久しぶりだねマーサ。 会えて嬉しいよ。」


「そうね、こんな状況じゃ無ければ私も嬉しかったわ。」


「あはは〜、歓談より先に呪いを解呪しよう? ほら、彼女こんなにも苦しそうなんだし。」


「歓談…ね。 とりあえず話は後にしましょうか。」


マーサはそう言うと、ルミナに巻きついている呪い《蛇》を鷲掴みにし、そのまま握りつぶした。

すると、黒い靄となり四散していく。

ルミナの顔色も途端に良くなり、穏やかな寝息を立ている。


「ほら、解呪もした事だしゆっくりとオハナシしましょうか。前から貴方とはちゃんと話をしたかったのよ。」


「ま、マーサ? 目がちょっと、大聖女がしていい顔してないよ?」


「ヨシュア陛下、王女様の呪いはもう大丈夫ですのでご安心を。 あと、彼と空いている部屋をお借りしますね。」


「あ、あぁ。隣の部屋が空いているから好きに使ってくれ。本当に、ありがとう。」


「いえ、お気になさらず。 それでは失礼します。」


「え、まって、首しまっ、ぐぇっ!」


アルトの首が閉まるようにわざと襟を締め上げて引きづっていくマーサに、リーファとヨシュアは十字を切るのであった。



「だいたい貴方は何時もいきなりなのよ。今回で確信したけど、貴方私を都合よく使いすぎなんじゃない? 貴重な転移符まで使ったんだからね。 …足を崩さない!」


隣の部屋へ連行されてから半時間ほど、アルトは硬い床の上に正座をさせられていた。


「…その、ごめん。 確かにマーサが頼りになるから、頼りすぎてたのかも知れない。 けど、勘違いしないで欲しい。 俺がこんなにも頼るのは、マーサだけなんだ。」


「っ!」


「でも、そうだね。 こんなに頼ってちゃマーサも迷惑だよね。 これからは頼らない様に…他の人に頼むことにするよ。」


「えっ、あ、いや。」


「今までありがとう、これからは俺の事なんか忘れてたくさんの人を救ってくれ。」


アルトはそういう言うと、物憂げな表情で笑って見せた。


「べ、別に頼ってくれるのは良いわよ。 ただ、ちょっと私にも気を使ってほしかったって言うか、頼って欲しいって言うか…」


頬を赤く染めてそう言うマーサに、アルトは立ち上がり倒れ込む様に抱きついた。


「ちょっ! アルト!? ここ王城! ムードとか考えなさいよ!」


アルトは荒い息遣いで、マーサの耳元に囁くように言葉を紡いだ。






「ごめん、足痺れた。」



その日、王城に乾いた音が鳴り響いた。


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