第3話
「あ、アルトさん…?」
「はぁい、顔だけは良い友達の居ないだらしないぐーたら大王のアルトさんですよ?」
頬を引き攣らせたノエルとは対象的に、穏やかな笑みを浮かべているアルトは優しく答えた。
「えっと、その、何時から?」
「もー! ギルマスの遅刻癖はって辺りからかな。」
「あ、あはは、最初からって事ですね…」
冷や汗を流しながら乾いた笑みを浮かべたノエルだが、遂に観念したのかため息を零してから口を開いた。
「アルトさん、異世界の勇者が格上のモンスターと対峙した時に言い放った言葉をご存知ですか?」
「いや、御伽噺は詳しくないから知らないよ。」
「その勇者はこう言いました。
ーーーー三十六計、逃げるに如かずッ!」
そういうや否や、ノエルは走り出した。
兎の獣人である彼女の足は早く、逃げ切るのは容易かと思われたその矢先、ノエルは裏切りにあった。
「こらこらノエル、話の途中で逃げ出すなんてダメじゃないか。 アル君はまだ話し足りないようだよ?」
くすくすと笑いながらノエルを止めたのはギルドマスターであるリーファであった。
まさかの身内の裏切りに絶望を隠せないノエルであったが、本当の絶望はこれからであった。
「大体、明日職場で会うんだから今のうちに精算しておきなよ。」
「ありがとうリーファ。 さて、長い話になりそうだから相席しても構わないだろうか?」
「勿論良いとも。」
「大歓迎ッスよ〜。」
「クリス、君もこっちへ来てくれ。 紹介するよ、俺の
「どうも、アルトの友人のクリスだ。 以後よろしく。」
「クリスさんって、もしかしてSランク冒険者のクリスさんッスか!?」
「へぇ、実物に会うのは私も初めてだよ。」
「私を知ってくれているのかい? 光栄だな。」
「あの! アースドラゴンを討伐した時の話は本当なんッスか!?」
「随分と尾ひれは着いているが、概ね間違っては居ないよ。」
3人は直ぐに打ち解け話を広げていった。
その様子をみて安心したアルトはノエルに向かってこんこんと詰めていった。
「ずびばぜんでじだぁ!」
「やれやれ、アル君もその辺で許してあげなよ。 ノエルも君の事が嫌いで言ってたんじゃ無いんだからさ。」
「ぎ、ギルマスゥ!」
「ノエルも泣くほどの事じゃ無いだろうに。
ほら、これを飲みな。」
「ありがとうございます…ぐふっ!」
リーファの差し出した飲み物を口にしたノエルだったが、余りの酒精の高さにむせ返った。
酒に強くはないノエルはすぐに顔を真っ赤にした。
「この酒ってもしかして…」
「オーガころしだよ。」
「おいおい、そんなの飲ませて大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫、介抱するのは慣れてるから。」
ケラケラと笑いながら酒を煽るリーファであったが、よく見るとルイとクリスも机に突っ伏して潰れていた。
「ルイは兎も角、クリスを潰すなんてどんだけ飲ませたんだよ…」
「いやぁ、久しぶりに深酒をしてしまったよ。 Sランクは伊達じゃないねぇ。」
あっけらかんと言い放ったリーファに頭を抱えたアルト。
そんなアルトの背後に忍び寄る影があった。
「えへへ〜、アルトしゃ〜ん♪」
「の、ノエル?」
「はぁい、ノエルでぇしゅ!あはは!」
「あぁ、もう! いいから水飲め!」
「……私、アルトしゃんの事、好きでしゅ…よ…」
「おやおや、これはこれは…」
「……は? いや、ノエル? おーい、ノエルゥ!?」
「…すぅ…すぅ…」
「爆弾落として寝るなァー!」
「ふっ! あははー!」
ノエルがアルトの背中に抱きつきながら、最後に爆弾発言を残してこの場はお開きとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます