第23話殺戮の天使ミシェーラ

ラクカジャの部屋の前についたミシェーラは、コンコンコンとノックした。

「誰じゃ…!」

「私ですよ❕私❕」

「ミシェーラか…。」

「そうです❕ミシェーラですよー❕」

「妾に何か用か?―詐欺の真似事をしに来たわけではなかろうな?」

「んもう…❕詐欺の真似事って何ですかー❕」

無意識だったらしい。

「では、何の用じゃ?」

「ちょっとラクカジャさんとぉー、夜のお遊びをしたいと思いまs「断る!」ちょっと酷いじゃないですかー❕❔」

しーん。

「えっ…❕無視です❕❔」

ミシェーラは、針金で鍵を開けた。

ガチャリ。

「うふふー❕ラクカジャさぁん❕私と―えっ❔何でいないんですかー❕❕」

ラクカジャは既に逃げていたらしい。

ミシェーラは悲しみに咽び泣く。


ラクカジャは自らの城に戻っていた。モンスターミシェーラから逃げるために。

「はあ…。貞操の危機を感じたわ…恐ろしいのう…。」

ラクカジャは疲弊していた。だが、この程度では軋轢を生じることはない。ああ見えても根は良い奴だ。

ラクカジャはミシェーラの過去を知っている。だからこそ、容易に許すことができるのだ。


少女は歩いていた。行く宛もなく。家はもう無い。焼かれた。裸足のまま冷たい地面の上を歩いていた。ぼんやりとさっき起きたことを思い出す。小さな子からは小石を投げられ、大人からは何もしていないのに怒鳴りつけられ、同年代の子からは、嫌味を言われた。

早くこの村から出よう。その事しか考えていなかった。

だから、気づかなかったのだ。肉薄されるまで。

村の男達に。押さえつけられ、縛られる。下卑た笑みを浮かべた男達に、服を剥がれ、冷たい地面に肌が触れた。

「ひっ…❕やめてくださいぃっ…❕やめてくださいっ…❕誰か、誰か…❕助けてくださいっ❕」

「助けろだって(笑)!助けるわけねえだろ!」

「頭悪いんじゃね?」

そう言って嘲笑された。言っていなくとも、ミシェーラの事を皆嘲笑っていた。

「此奴、村から出ようとしてたぜ!」

「やっぱ、お仕置きが必要だよなあ!」

「おほう!胸でけえ!」

「此奴、顔と体だけは良いんだよなあ!」

「おい!お前ら!今ならミシェーラやり放題だぜ!」

「いきなり挿れるとか鬼畜!」

ミシェーラは恐怖していた。人を傷つけたくはなかった。だが、今、自分の尊厳が踏みにじられようとした時、頭がぐちゃぐちゃになった。そして、ミシェーラを縛っていたものがスッと無くなった。

男がミシェーラの中に挿れようとした刹那。

飛んだ。男の尊厳が。赤い鮮血、否、穢らわしい血とともに。

「もう、イヤああああああ❕❕❕❕❕❕❕」

「は…?う、うわぁーー!」

「な、な…!」

「ち、違うんだ。ミシェーラ。俺は!」

「穢らわしい声で私の名前を呼ばないでくださいよー❕不愉快ですからぁ❕」

「ぐぎゃああっ!」

「頼む…!命だけは…命だけは…!」

「お願いだ…!助けてください!」

「今更命乞いですかー❔助けると思いますかぁ❔私が助けを呼んだ時、貴方達は嘲笑いましたよねー❔頭の一部に傷がついちゃいましたー❔ああ、間違えちゃいましたー❕貴方達はもとから下等生物でしたよねー❔頭の一部に傷がついたんじゃなくてぇ、初めっから頭の一部が欠損してたんですよねー❔」

「うわぁーー!」

「グハッ!」

「お前のせいで…!お前は存在してはいけない存在なのに、今まで見逃してやった恩を仇で返すのか…!?」

「はあ❔見逃してやった、ですってぇ❔それはこっちのセリフなんですけどー❔私はあー、皆さんを傷つけたくなかったから、力を出さなかっただけですー❕それに貴方達の存在自体の方がが害悪なんですー❕」

「傷つけたくないんだったら傷つけるなよ!」

「分からないんですかあ❔私が皆さんを傷つけようがなかろうが、貴方達は、私を痛めつけますー❕だからあー、もう、良いんですー❕」

「アガアァァ!」

ミシェーラは殺していった。自らを傷つけた者達を。終わることのない殺戮。


これこそがミシェーラの通り名『殺戮の天使』の由来である。


ミシェーラを保護したのは、ラクカジャであった。その時には、もう、ミシェーラは憔悴しきっていた。ラクカジャは、ミシェーラの心を開くために、全力を尽くした。

自分を助けたのが、女性だったからであろうか。それとも、本能レベルで男性を嫌悪しているからなのか。定かではないが、この時から、ミシェーラの恋愛対象は女性になった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る