第20話勇者エリック

エリックは途方に暮れていた。何せエリックは正真正銘の方向音痴である。ソムニ村に戻ろうとしても、彼のスキル方向音痴が発動し、戻れない。

「マジでありえねえ…!ハリエットめ…!」

彼の小さな脳では、自分の過ちを考えられないらしい。故に、ここへ飛ばしたハリエットを恨むのであった。

立ち止まっていてもしょうがないので、とぼとぼ歩き出す。

しばらく歩き続けると、森があった。何やら看板があったが、何と書いてあるか分からなかった。

エリックは何の考えもなしに、森に入っていった。


時空が歪み、ラクカジャが現れる。

「魔王様よ…!屠ってきたぞ…!」

「ありがとうございます。ラクカジャ。」

サーシャが言う。

瞬間。声がした。

「きゃあああー❕戦闘モードのラクカジャさんも素敵ですぅー❕❕」

「え?ミシェーラ…?いつの間に…!?」

そう。ラージャ達の目の前にには、ここには居ない筈のミシェーラが立っていた。

「水くさいじゃないですかー❕❕ラクカジャさんが帰ってくるんですよー❔出迎えぐらいさせてくださいよー❕」

頬を膨らませ、ミシェーラが言う。

「む…。妾にはそなたの出迎えなど必要ない。魔王様とラージャで十分じゃ。」

ラクカジャが珍しく汗をたらしながら言う。

「酷いですー❕❕」

「すまぬのう…。本能的な恐怖を感じるのじゃが…気のせいかのう…?」

「気のせいですよー❕」

間髪入れずにミシェーラが言う。そして、じりじり距離を詰める。

「では、魔王様よ…妾はもう行くとしよう。さらばじゃ。」

時空が歪み、ラクカジャが消える。

「❕ああーん❕酷いですー❕ラクカジャさあん❕」

ミシェーラの悲痛な叫び声があがったのは言うまでもない。


エリックは森の中を歩いていた。鳥肌が立っているのは言うまでもない。鈍感なエリックでも感じられる程の巨大な気配が感じられたのだ。

「何なんだよ…ここ…!」

声をひそめて呟く。

瞬間。茂みの中から魔物が飛び出してきた。

「ひええっ…!」

が、エリックなど無視して走り去った。まるで何かから逃げるように。

「何なんだ…?」

数多の魔物が同じ方向から逃げていく。

エリックも本能的な危機を感じたのか、魔物が逃げていった方向に走っていく。

先程まで静かだった森が急に騒がしくなった。

が、静かになった。と思うと、断末魔が聞こえた。此処から近かった。

「ギィーーーー!!」

魔物が一体犠牲になったようだった。

エリックは魔物達と共に震えていた。敵・味方など気にしていられなかった。

段々と、形を持った死が近づいてくる。

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