第9話アベル

「ママー、パパは?」

「お仕事に行ったのよ。」

「カレンも行くー!!」

「駄目よ。パパはに行くの。」

「パパいつ帰るのー?」

「いつだろうね?」

アリシアは知っていた。もう、アベルは帰ってこないということを。

「カレンちゃん、カレンちゃん。ばあばと遊ぼう…!」

「わーい!ばあば。」

「お義母さん…。」

「アリシアさん。泣いてもいいんだよ。」

去り際、お義母さんに囁かれ、私は泣いた。泣いてもいいんだ…。

「お義母さん…ありがとうございます…。」

情けない。お義母さんに気を遣わせてしまうなんて…。

「アベル…アベル…!!」


「来たね…!」

眼下に広がる王国軍。その数十万。

「私を裏切ったこと、後悔させてあげる…!!」

ラージャは、黒魔術を使う。

「消えろ―闇晦ましの城!」

王国軍の兵士達はバタリバタリ…と倒れていく。

否、正確に言うならば、地面に広がった黒溜まりに引っ張られ、地面に貼り付く様なかたちで固定されている。その隙に、アルが兵士達を攻撃する。

「キャハハ、キャハハハハ!死、ねェェェ!!」

可憐な悪魔は、次々と兵士達を殺していく。

そして、ラージャとアルは、将である男のもとへ辿り着く。


「何なんだ!?これは!!」

急に足元に黒いわだかまりができ、拘束された。

兵士達は困惑すると同時に恐怖した。これから自分が殺されるのだと。急に時空が歪み、黒髪を靡かせながら可憐な少女が現れた。そして、黒い何かに拘束されている仲間達を次々と殺していく。

本陣に近いこの部隊が倒れれば、アベルは、獲られるだろう。

「アベル様…!!」


アベルは、死を覚悟した。本陣に近い部隊が倒されたのだ。希望のきの文字もみえない。

「貴方が将かなぁ?」

黒い悪魔は、目前に迫っていた。

「そうだ。」

死ぬのか…。アリシア、カレン…天国で見守っているからな…!そう思ったところで気づく、あの王に従っていた俺が天国にいける筈がない。地獄だな。

「ははっ…。」

自嘲気味に笑う。

首から熱い液体が流れ出す。そして、アベルは意識を手放した。

アベルが最後に見たのは、魔王を倒した勇者、ラージャであった。

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