第13話 Let's go to ask Yashima

  生徒指導室から教室に戻った時には午後の授業が始まる五分位前だった。

 自噴の席に座り先生から受け取った白い紙をポケットから出す。そこには当然望月さんの住所が記載されてあった。

  

 おい、マジかよ。電車通学なのは知っていたけど、こんなに遠かったのか。

 

 ここ初庭高校は県の丁度中央に位置する真座市にあり、最寄り駅も二つある。両方とも駅から十分位で利便性が良い。

 対して望月さんが住む所は、県の南部にある屋川原市だ。ここの最寄り駅から電車一本で行けるとはいえ一時間半位掛かるだろうから、毎日通うのは大変なはずだ。通学で一時間だけであるならば話しはわかるけど、屋川原市は距離的にかなりの遠いので、俺だったら通おうとは思わない。

 

 取り敢えずアプリに登録しておくか。


 数学の先生が教室に入ってきて、授業の準備を始める。


 仕方ない、次の休み時間まで待つしかないな。


 程なくチャイムか鳴り、日直が号令を掛ける。挨拶が終わってからそっとスマホをポケットに戻した。



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 

 HRが終わり、放課後となった。

 

 予め先生から聞いていたのか、クラス委員長がHRが始まる前に俺の隣の机からプリントを取り出していた。それを見た周りの生徒は怪訝な顔をしていたが、教室に入ってきた先生がそれを受け取り「おお悪いなご苦労さん」と委員長に言うと、皆腑に落ちたみたいだった。

 

 後はそれを俺が受け取るだけだ。



 さて、廊下で先生が出てくるのを待つかな。

 

 徐に椅子から立ち上がり教室の外を目指す。


「ひでゆき。昼の話だけど今いい?」


 憲吾も同じく席から離れ、こちらに歩きながら話し掛けてきた。

 教室から出て行ったのはまだ数人で、室内はまだ騒がしい。


「少しだったら良いけど、長くなりそうか?」


「話だけならすぐ終わるけど、てか急ぐん?」


「まあちょっとな。でもすぐ終わるなら聞くよ」


「わかった。簡単に言うと望月さんの家行きたくねえか?」

 

「家?」


「だから今日望月さん休んだろ。理由は知らないけどお前知ってた?」


 本当の理由は知らないけど、望月さんの住所ならもう情報は得ている。

 教壇の前に居る菅原先生をチラッと見ると、一瞬だが目が合った。おそらく此方を伺っているのだろう。


「休むのは今朝メッセージ貰ったよ。そういえば言ってなかったな。まぁ聞かれなかったし。昨日の夜は今日学校に来るって返ってきたけどな」


「なんだ返信来てたのかよ。てっきり音沙汰ないもんだと勝手に思ってたじやん」


「悪いな。俺もそこまで気が回らなかったし。でも憲吾もなんで聞いてこなかったんだよ。ある意味お前が言い出した事だろう」


「そうなんだけどさ、オレも色々と忙しくてな。でどうなん?行きたい?」


 実際これから向かうところなんだけど。どちらかというとお前が居るから行けないのだが。しかしコイツは何処から情報持ってきたんだ?もしかして俺が考えていた第二候補の八嶋樹乃か?


「まあ、行きたいけと‥‥」


「だったらさ今からオレに付き合えよ。知ってそうな奴やっと見つけたから」


「誰のところに行くんだ?」


「五組の八嶋さんって奴だよ。ホントはセンセに聞いたんだけと教えてくれなくてさー。だから知ってそうな人今日一日掛けて色々と聞いて回ってたってわけ。昼休みにひでゆきと一緒探そうと思って声掛けたんだけど、用事あるって居なくなったろ」


 やっぱり八嶋だったか‥‥‥気が進まないな。


 それにしても三人の内一人は憲吾だったかのか。下心あるとは俺は思わないが、先生から見たらどうなんだろう?しかし俺のためにそこまでしてくれているとは思ってもいなかった。感謝だぜ本当に。


 しかしそうなると問題だな。もし、憲吾の誘いを断ってそのまま望月さんの所に行ったとしたら、後でバレた時、憲吾に嘘を言ったのが分かってしまうし、場合によっては先生にも迷惑が掛かる。ここまでしてくれている憲吾に対して、取るに足りないものならともかく、裏切るような嘘はつきたくない。


 反対にこのまま憲吾について行って八嶋に会って話しをしたとしよう。しかし俺が知る限り性根が真っ直ぐなあいつがそう簡単に教えてくれるとは思えない。そうなると結局同じ結果になってしまう。

 一年の時同じクラスで、一番望月さんと仲が良かったぽい八嶋でも、家を知っているかは微妙だしな。


 だったらどうしたら良いんだ?


「八嶋さんなら知ってるけど、これからの行って会えるのか?」


「あーそれは大丈夫。知り合いに頼んで教室で待ってもらってるし。だからダメ元で行ってみない?ひでゆきだって心配だろー」


 はぁ、取り敢えず行くしかないのか。


「わかった。八嶋さんに聞きに行こう」


「オーケー。じゃ早速行きますか。あまり待たせるのも悪いし」


「でも少しだけ待ってくれ。先生に用があるから。すぐに済ませるから」


「わかった」


 先生の方を見ながら後ろのドアから教室を出ると、合わせるように先生も動き出し前のドアから出てきた。

 

 「頑張れよ」と一言声を掛けられながらプリントを受け取った。




 五組にはあまり近づきたくはなかった。一年の時に関わりが深かった奴は今のクラスには少ないが、五組は割と多い。しかもあまり会いたくない奴ばかりだ。


 その急先鋒と五組の入り口で鉢合わせてしまった。


「何の用だよ英幸」


「別にたけ‥‥進藤に用があって来たんじゃない。八嶋にちょっと話しがあるだけだ」


 進藤尊。同じ中学出身者を除いて、高校に入ってから一番仲が良くなった奴で、同じバスケ部だった。俺は辞めてしまったけと‥‥。


「ふん。八嶋だってお前みたいな奴に会いたくないだろうに」


 俺だって出来れば八嶋とは会いたくない。あいつ苦手なんだよ。


「話聞いたらすぐ帰るよ」


「だからお前がこの教室に入るなって言ってんだよ。分からないのか?正直迷惑なんだよ」


 今更コイツに弁解するつもりも無い。その時は既に過ぎている。幾ら説明しても分かってくれない奴に掛ける時間は無い。


「えーと進藤君だっけ?オレも用があるから入るね。てか、八嶋さんってどの子よひでゆき」


「わ、若林、お前勝手に入んなよ。違うクラスだろ」


「いやいや何言ってんのさ。高校生にもなってクラス違うから入るなって何処の人なの?てか、普通にみんな他クラスはいってんじゃん」「」


「そういうことじゃねーんだよ。迷惑だって言ってんだろ」


 無理矢理入ろうとする憲吾の腕を摑んで阻止しようとする進藤。その様子に多くの生徒が注目していた。


「おい見ろよあいつ。例の英雄じゃん。このクラスに何のようだ?」

「どうせあれだろう、可愛い子いないか物色しにきたんじゃね。好きだよなー」

「なんであいつ退学にならないのよ。吉岡先輩が可哀相」

「というかなんで若林と一緒に居るんだよ。まさかあいつ男もいけるのか?」


 言いたい放題言いやがって。俺だって好きこのんで来たわけじゃない。用事が終わったらさっさと帰るよ。

 心の中で強がって呟く。本当はかなり堪えていた。誹謗中傷は自分のクラスで慣れていたつもりだったけと、やはり他クラスの空気もあってか、軽蔑の視線や揶揄を浴びるのはしんどい。


「えーとあなたが若林くん?私に用があるって人は」


 進藤の後ろから小柄ながらも眼力が強い印象を受ける女の子、八嶋樹乃が現れ憲吾に問いかけた。


「若林で合ってるけど、君が八嶋さんで良いのかな?」


「そうよ。田嶋から貴方が私に用があるから待っててくれって、お願いされたから残ってたのよ。」


「ゴメンねー。少しだけ訊きたいことがあるから、良いかな?」


「良いから待ってたんでしょ。ところで進藤、いい加減手を離したら。私はこの人と話しがあるの。関係ないあなたは口を挟まないでくれる?」


「八嶋お前‥‥」


「なによ。ハッキリ言いなさい」


「別に何もねぇよ‥‥。部活だから俺もう行くわ」

 

 憲吾の腕から手を離し、この場から去って行った。

  

「ところでなんで船林が一緒にいるの?」


「それは‥‥」


「あ、別に変な意味で捉えないでね。単純に疑問に思っただけ。他の人と違って悪意なんか無いから。船林なら知ってるでしょ、私の性格」


「まあ一応は‥‥‥。一緒なのは憲吾と同じ理由だ。八嶋に訊きたいことがあってここに来た」


 どうもコイツは苦手なんだよな。ハッキリ言う物言いか悪いとは思わないけど、威圧的で萎縮してしまう。


「そっ。それで話って?」


「んーと、ここじゃあれだし場所変えない?あまり人に訊かれたく無いって言うかさ」


 憲吾は進藤に掴まれていた左腕をさすりながら提案する。


「わかったわ。この校舎の屋上前の扉でどう?あそこなら大きい声出さなければ人に聞かれないだろうし」


 彼女が言った場所は階段の一番上にある扉のことだ。屋上に抜けれるそこの扉は普段開放されておらず、用がなければ誰も行くことは無い。


「良しじゃあ行くか」


  

 一分も掛からす屋上の扉に到着。


「ここなら大丈夫だと思うけどあまり大きな声は出さない方がいいわね。結構響くから」


「わかった。気ー使わせて悪いな。てか後はひでゆきから話し聞いてくんねぇかな。当の本人だし」


 憲吾は壁に寄り掛かり腕を組む。


「私は構わないわ。要件が一緒ならどっちだって良いもの」


 相変わらずサバサバしている奴だが、話しは早くて良い。

 

「それじゃあ早速なんだけど、八嶋って望月さんと仲良かったよね。もしかして彼女の家って知らないかな?」


「家?なんであんたがそんなこと‥‥あっ、もしかしてミヨが休んでいるからお見舞いにいくの?」


「やっぱり休んでいるのは知ってたんだ」


「昨日ミヨとのチャットで学校休んでるって知って心配したのよ。それで今日も休むって朝来たから、さすがに昼休みに電話したの。そしたらちょっと風邪が長引いただけだから大丈夫だって言うのよ」


 俺とのことはさすがに言ってないみたいだな。


「ミヨとはね、クラスが変わってからもよく連絡を取り合ってるの。まぁ殆どこっちからだけどね。ミヨはあまり人と関わらない様にしているみたいだからさ。それでも私はミヨと友達でいたいし、心配だってするわよ」


 最後の方は何処か寂しそうにしていた。気丈な八嶋でもそんな顔するんだな。


「心配だよな。それで八嶋はお見舞いに行ったりするのか?」


「私は部活もあるしいけないかなぁ。あんまり続くようなら部活休んででも行こうとは思ってるよ」


 友達思いの良い奴だな。それに気持ちが真っ直ぐなだけあって思い込むと辛いんだなきっと。


「と言うかさ、なんで船林がミヨのお見舞いに行くわけ?あんたそんなにミヨと仲良くなかったはずでしょう?」


「い、いや。お見舞いと言うか課題を届けようかと」


「課題ねぇ。ミヨが何処に住んでいるか知ってる?屋川原市よ。下手すれば電車に乗ってるだけでも往復二時間半以上掛かるのよ。それだけの理由だけで行かないわよ普通」


「屋川原なのは今知ったし(本当は知ってるけど)そもそも望月さんの家の場所を聞きに来たんだから」


「そうだったわね。けど結果は同じよ。それに女の子家をそう簡単に教えると思う?」


「あまり言い触らす事では無いな」


「でしょう。だから諦めてちょうだい。それとも他に事情でもあるの?」


 大ありなんだが。そもそも住所を既に知っている以上言う必要もないし、粘って聞き出す必要も無い。


「実はさー」

 横で今まで黙って聞いていた憲吾が口を挟んできた。


「ひでゆきと望月さん、一昨日大ゲンカしたみたいなんよ」


「お、おい憲吾‥‥」


「いやひでゆき、八嶋さんには本当の事言った方が良いと思うよ。仲良いみたいだしさー」


「喧嘩?ミヨと船林が?どういうことよそれ!」


 顔近づけるのやめて。目が怖いし恥ずかしいし。なんか良い匂いもするし。

 一気にすごい剣幕になったけど、喧嘩したのは俺と望月さんであって、八嶋とじゃないからな。

 それに喧嘩というか俺がやらかしただけなのだが、詳しく言えないしなぁ。

 

「詳しくは言えないけど、今俺達があまり良い雰囲気じゃないのは確かだ。それに百パーセント俺が悪い」


「ちょっと、詳しく教えなさいよ」

 

 ああ、なんか長くなりそうだな。早く話しを切り上げて望月さんの家に行きたいんだが‥‥。

 

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